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【ズームアップ】JR貨物、タイで危険物鉄道輸送の事業化検討

2022.05.31

JR貨物(本社・東京都渋谷区、真貝康一社長)はタイで危険物を対象とした鉄道コンテナ輸送の事業化を検討している。今年1月にタイで初めて実施されたLNGタンクコンテナの鉄道試験輸送では、タイ国鉄とエネルギー公社を全面的にサポートした。今後、法整備など事業環境が整い次第、現地物流会社などとの合弁で危険物の鉄道コンテナ輸送を開始する考え。同社鉄道ロジスティクス本部海外事業部長の西村公司氏は「早ければ1~2年内に事業をスタートさせたい」と意欲を見せる。

来年度にも合弁会社設立を検討へ

同社はもともと、タイ政府と日本政府が締結した鉄道に関する協力覚書により貨物鉄道分野における技術支援などで協力関係にあり、その流れから数年前にエネルギー公社から危険物を鉄道コンテナ輸送したいとの相談を受けた。しかし、タイでは危険物の鉄道コンテナ輸送に関するルールがなかったため、タイ運輸省が2019年に検討委員会を設置して法整備などルール化に向けた検討を開始し、JR貨物もオブザーバーとして参加。LNGタンクコンテナの試験輸送もその一環として行われた。

試験輸送は今年1月、マプタプット港にあるエネルギー公社のLNGターミナルから、南部のスラタニまでの約800㎞を鉄道輸送。タイ国鉄が運行を担い、JR貨物が安全を含めたオペレーションを全面的にサポートするスキームで、輸送は無事に成功した。その結果は検討委員会にも報告され、早ければ年内にも危険物の鉄道コンテナ輸送を可能とする法律が成立する見通し。JR貨物ではこれを受けて、危険物の鉄道コンテナ輸送に参入する考えだ。ただ、タイでは外資規制があるため、事業化にあたっては現地企業との合弁形式が不可欠となる。西村氏は「詳細はまだ決まっていないが、貨物駅両端の集配などを考えれば、現地物流会社との合弁が現実的ではないか」と話す。また、JR貨物にとって初めての海外法人設立となるため、「当社以外にも、日系物流会社などに資本参加してもらうことも選択肢のひとつ」だとする。

たまたま、エネルギー公社から受けた相談が契機となったが、西村氏は「差別化戦略として危険物輸送はとても有効。危険物を運ぶことで、当社の安全性や輸送品質の高さをアピールできる」と語る。また、マプタプット港の周辺には重化学プラントなどが数多く立地しており、LNGに限らず化学品を中心に一定の輸送需要が期待できるという。「タイでは道路混雑や交通事故が課題となっているのに加え、近年、鉄道インフラの整備が進んだことで改めて鉄道輸送に注目が集まっている。また、これまでタイ国鉄が独占してきた貨物鉄道事業について民間参入を認める方向での検討も進んでいる。危険物での参入をきっかけに、将来的には一般貨物での進出も検討していきたい」と展望を語る。

インドでもLNG鉄道輸送の調査実施

インドでもLNGタンクコンテナの鉄道輸送について、事業化に向けた検討が進んでいる。双日、スズキと共同で、天然ガス自動車の燃料となるLNGを臨海部から内陸部に鉄道輸送するもので、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の昨年度の海外実証事業のひとつとして採択された。現在、調査を進めている段階で、これが承認されれば次のステップとして試験輸送に進むことになる。

「インドでは今後、天然ガス自動車の普及が進むが、パイプラインが敷設されていない地域も多く、内陸部向けの燃料供給を中心にマーケットとしてかなりの広がりが期待できる」(西村氏)としており、今後数年内での事業化に意欲を見せる。

「バンコク駐在員事務所」開設で活動にドライブ

JR貨物の海外事業が本格化したのは14年1月に「海外事業室」が発足してから。それ以前から調査協力など散発的な取り組みはあったが、専門部署ができたことで恒常的な活動が始まった。

当初はタイ運輸省への貨物鉄道分野の協力や、インドでの貨物鉄道への技術支援などが中心だったが、両国で貨物鉄道への民間参入の可能性が広がってきたことを契機に、貨物鉄道事業そのものの参入を検討開始。組織も「海外事業部」に格上げした。

さらに、タイで事業化の動きが本格化したことを受け、昨年9月には同社初の海外拠点となる「バンコク駐在員事務所」を開設し、同年11月から本格的な活動をスタートさせた。

西村氏は「コロナ禍で思うような活動ができない時期もあったが、駐在員事務所を置いてからは活動にドライブがかかってきた。昨年12月にラオス・中国鉄道が開通したのを機に、メコン地域で貨物鉄道に注目が集まっている。将来的にはタイを拠点とした国際間の貨物鉄道事業も検討していく」との展望を描いている。
(2022年5月31日号)


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