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ヤマト運輸が顧客拡大に転換、成長戦略スタート

2019.06.11

ヤマト運輸(本社・東京都中央区、栗栖利蔵社長)は今期、事業方針を顧客拡大へと転換させ、成長へと舵を切る。5日のヤマト運輸労働組合「中央研修会」で栗栖社長(写真)が組合員らに説明した。栗栖氏は「働き方改革による全国1店1店の安全第一と社員満足を実現した上で、これまで積極的にできていなかった『お客様を増やす』『お客様を創る』ことを今年は進め、成長につなげたい」との考えを示した。

2019年はまず働き方改革によって、良質なサービスを創出できる職場環境と、全国1店1店の「安全第一」「社員満足」を実現。働き方改革では全社的な改善が見られるものの、各店舗に目を向けると労働時間や休憩時間などの問題もあり、よりきめ細かな対応を進める。その上で、今年を「次の100年(NEXT100)に向けた成長戦略のスタートの年」と位置付ける。

具体的には宅急便による「ダントツサービス」の提供に向けて、強みであるセールスドライバー(SD)の対面接点を最大限活かす。アンカーキャスト(AC)体制の強化やネットワーク改善、PUDOの設置および、デジタル化推進による集配支援や稼働設計の高度化でSD業務を効率化。創出された時間で法人および個人顧客との対面による営業時間や回数を増やし、顧客の課題を解決することで信頼を得る。

とくに法人領域は、「個人のお客様より仰ってもらえることが多い」として、関係性を強化する。現在、ヤマトグループではロジスティクスや決済サービスなどでそれぞれ顧客を持ち、地域ごとには「JST(ジョイント・セールス・チーム)」として連携しているものの、成果はそれほど出ていない状況。そこで、輸配送と倉庫を組み合せたモデルケースなどをパッケージ化して販売。同時に、今は見積もりベースの提案だが、グループアカウント営業で顧客の声を聞き、課題を解決する「ソリューション営業」へと変換することで、輸送単価のみの競争からの脱却を図る。

そうした法人顧客に対するネットワークも「宅急便といかに区分けをしていくか、今年しっかり考えなくてはいけない」と栗栖氏は指摘。EC荷物が急拡大から宅急便単価の下降が続いたが、一方で宅急便は本来CtoCを前提にサービスや料金が設計されており、「これだけECの荷物が増えると同じ運び方をしていいのか――“宅急便とは何か”をもう一度考えなくてはいけない」と理解を求めた。さらに、「(我々の)運送に価値を感じ、お客様に料金をいただくことは可能なのか、色々な側面を見ながら考えていきたい」と述べた。

ネットワーク面では域内ネットワークの高効率活用を進め、センター実集配時間の増加とベース作業の標準化を図る。たとえば、一部拠点で繁忙期に実施している、ベース店によるセンター大口配達などは、会社としての仕組み構築を視野に入れる。同様に、法人集配と横持ちの一元配車にも注目する。ベース店作業ではデジタル化の推進により作業を標準化させ、場所や人、機器に左右されない品質を確保。翌日の荷物量をはじめとした業務量の早期把握も可能とし、より精緻な稼働設計を実現する。

デジタル化によって、伝票情報と蓄積データ、AIなどの最新技術を用いた自動ルート組み機能も開発を推進。19年度中には「時間軸」と「安全」による最も効率的なルート組みが自動で可能になる予定で、20年度にはさらに「在宅率」の情報も加えられるようにし、高度に均一化したサービス提供と安全レベルの向上につなげる。デジタル化の進捗度は現在、入力作業全体の7割程だが、栗栖氏は「技術の進歩で読み取り作業も簡単になりつつあり、取扱店への協力要請も考えながら、アナログ部分を潰していく」とした。

域内ネットワークを支えるオープン型宅配ロッカー「PUDOステーション」は、より小型サイズを開発して設置を拡大する方針。先月、東京都江東区豊洲で開設した、宅急便の受取や発送がセルフで行える無人店舗なども、運用の中で利用状況や課題を見つけていく。ACは既に5600人ほどが入社するものの、毎月数十人が退社しており、栗栖氏は「会社としていかに手を打ち、定着してもらえるかが課題」と話した。

安全面では、今年7月をメドに本社と支社の安全推進課が同じ目線で安全に取り組めるような改善をするとともに、安全指導長の育成も強化する。また、ドライブレコーダー(DR)も安全教育には効果があるとして導入のスピードを上げる。コンプライアンスについては、労務時間問題の解決には「対策を打つにも、まずは労務時間の正確な申告が基本」とし、「コンプライアンス問題は仕組みでカバーできるところと個人の意識によるところがあり、ミーティングなどで労務時間などの話をするときは、こうした目線も持ってほしい」と組合員らに協力を呼びかけた。
(2019年6月11日号)


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