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宅急便のモデルチェンジ早期に実現=ヤマトHD

2019.04.16

ヤマトホールディングス(本社・東京都中央区、長尾裕社長)は主力の宅急便事業で、持続的な成長を可能とするビジネスモデルへの早期転換を図る。11日に開かれた会見で、長尾社長が「当社が抱える大きな命題」として強調した。合わせて、宅急便と並ぶ中核事業である法人向けロジスティクス事業においては、グループ全体でのアカウントマネジメントを強化し、新たな3PLサービスを構築する。長尾氏は「中期経営計画の最終年度として、やるべき仕事のスピードを上げながら、今後の当社ビジネスを作る仕事も進めていきたい」と抱負を述べた。

ECの進化を支える新たな運び方を

会見には、1日付でヤマトHD新社長に就任した長尾氏とヤマト運輸の栗栖利蔵新社長、ヤマトロジスティクスの小菅秦治社長が出席。宅急便サービスについて長尾氏は、「物流が小口多頻度化していく中で、ECをはじめとする荷物が宅急便に流れ込みやすい状況にはあるが、受取人が起点となっているECと委託者がベースの宅急便では考え方が異なり、宅急便がECへの最適解かというと疑問は残る」と指摘し、「EC市場の成長を支える新たな運び方を生み出す必要がある」との考えを示した。

オペレーションについては「労働集約型でない産業へいかに変えるかが重要」として効率化を推進。仕分けなどの作業から標準化と省人化を進めるとともに、その下地となるデジタルオペレーションへの切り替えに向けて、現在3割が手書きの宅急便伝票をスマホなどで作成・発行できるようなサービスを予定する。このほかにも「今の時代に合わせたモデルチェンジへ、様々なプロジェクトが立ち上がっている」ことを紹介した。

現状の宅急便輸送力はアンカーキャストの採用などで増えてはいるものの、働き方改革として進めるSDの労働時間短縮との相殺分もあり、「前年比で数パーセントの上昇」との実態を明かした。アンカーキャストの採用状況は3月末で5000人を超え、当面の目標に掲げた1万人に対し「かなり順調に進んでいる」ことを強調。さらに、宅配便ロッカー「PUDOステーション」の増設などで不在率はこの2年間で毎年1%ずつ低下しており、「その分サービス提供力が上がったともいえる」と説明した。

プライシングについては、「ひとつのオペレーションに掛かる適正な対価をいただくことには変わりない」としながらも、「お客様による自営化が進むと物流業界のなすべきことがなくなる可能性はある。(宅急便運賃の値上げなどで)上昇した物流コストを違う部分で削減し、トータルコストを上げない提案をグループ全体でしていかないと、当社を使ってもらえないのではないか」との危機感も滲ませた。

グループアカウントマネジメントを強化

ロジスティクス事業については、ヤマトロジスティクスの小菅社長が「3PLサービスは数多くあるが、ヤマトグループの総力を結した“新3PL”が構築できればグループのもうひとつの大きな軸になる」とし、「そのためには、お客様に深く入り込み、課題を解決していくことが重要」と話した。

実現に向けた具体的な施策として、グループのアカウントマネジメントをより強力に進める。小菅氏がヤマトホールディングスの常務執行役員としてその職責も兼務し、各事業会社が持つ顧客基盤に対して、包括的なアプローチを推進。ヤマトグループ全体で数百人規模に上る営業担当社員を一元的にマネジメントして、営業活動に関する教育を実施する。このほか、倉庫内オペレーションの効率化・省力化もグループ内で率先して実践していく。

一方、3PLビジネスにおいて同社は後発となるが「宅急便の輸送モードとの連携が新たな3PLとしての差別化につながる」と小菅氏。宅急便やロジスティクスといった単機能ではなく、SCMの上流から下流までカバーするソリューションビジネスの具体化に向けて顧客セグメントを早期に整理し、同社のリソースを組み合せたソリューション提案を開始していく。長尾氏も「ヤマトがチャレンジしていくひとつの大きなビジネスの軸となり、その対象はお客様の調達・販売先である海外にも進んでいくことになる」と期待を寄せた。

海外事業は、海外引越しサービスなどで実績を持つものの「現状、進んでいない認識」と長尾氏。とくに、アジアでの宅急便事業は「自前で始めた部分は簡単ではないのが実状で、この領域では早く判断しなくてはいけない」とした。その上で、今後の海外事業展開について「現地で既にネットワークを持つ会社とアライアンスを組んで、価値を提供していくビジネスが一番想定しやすい」との考えを改めて明示。まずは、各地域のビジネスやガバナンスを早期に把握した上で、アライアンス戦略を整理していく。

現場に入り込み定期的な点検を実施

昨年には法人向け引越サービスでの不適切請求も発覚したヤマトHD。中期経営計画の全体像にも示す、グループの「ガバナンス強化」においては、ヤマト運輸で新たな取り組みを開始した。本社社員を11支社に配置して各現場の安全や働き方改革、ES(従業員満足)を確認するもので、各地域の安全やESの担当者と連携して会社の指標に到達しているかを確認し、不備があれば原因を追究して対策する。同様の取り組みを各事業会社にも展開できるか精査していく。

ヤマト運輸で進める働き方改革については、同社の栗栖社長が「平均的によくなっていることは間違いないがまだまだ途中」と説明。今後はSDのみならず、宅急便センターのゲストオペレータを含めた働き方にも着目し、「時間だけを見るのではなく、仕事の内容をいかに変え、働きやすい環境を作るかが大切」との考えを述べた。

競争領域と“共創”領域を定義

先月、ヤマト運輸と西濃運輸、日本通運、日本郵便による25mダブル連結トラックの共同運行便がスタートしたが、これに対し、長尾氏は「当社の幹線輸送は9割が協力会社の運行便。かなり早い時期から車の確保が難しくなると分析しており、共創を呼び掛けなくてはならない」とし、「この取り組みが今すぐに大きな解決策になるかというとそうではないが、複数社の荷物を運ぶという新たなビジネスモデルへの起点となる」と指摘。その上で、「個社の差別化を競う領域と共同化する領域を定義し、わが国の経済や生活を支える“物流”としての認識を常に持っていきたい」とした。
(2019年4月16日号)


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