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特別インタビュー 日本倉庫協会会長 松井明生氏

2018.11.27

労働力不足を背景に物流のあり方が大きく変化しつつある中、営業倉庫は環境変化にどう対応していくのか――。今年6月に日本倉庫協会の会長に就任した松井明生氏(三菱倉庫会長)に、倉庫業界でも徐々に深刻化する人手不足、自動化・ロボット化への対応など倉庫業界が直面している課題について聞いた。(インタビュアー/西村旦・本紙編集長)

――今年の夏場は、豪雨や台風、地震などの自然災害が多発しましたが、日倉協会員企業への影響はいかがでしたか?
松井 6月に発生した大阪北部地震では、会員企業の倉庫内の保管貨物が一部荷崩れしたほか、倉庫の壁に一部ヒビが入るなどの報告はありましたが、倉庫が倒壊するといった施設面への大きな被害はありませんでした。ですが、7月に起きた西日本豪雨の関係では、広島地区の会員事業者の倉庫1ヵ所が全損しました。また、関西地区を中心に襲った台風21号では、倉庫の倒壊こそなかったものの、倉庫内が浸水した、シャッターが歪んでしまった、あるいは屋根の一部が壊れたといった報告が数多くあがりました。さらに、9月に入って発生した北海道胆振東部地震では、倉庫への直接的な大きな被害はそれほど多くなかったものの、発生直後から停電が続いたことで、業務運営上で支障をきたす事態が起こりましたし、その他の災害でも営業面での機会損失など施設等への直接的な被害以外での損害がありました。
こうした一連の災害発生を受けて、日倉協として9月28日に国土交通大臣に対し、被害を受けた倉庫事業者への緊急措置等を求める要望書を提出しました。緊急融資や財政・税制にかかる措置、港湾その他の公共施設の早期復旧を求めたものです。

倉庫の荷動きは堅調だが、国際情勢の動向が懸念

――営業倉庫の足元の業況についてはどう見ていますか?
松井 営業倉庫21社統計では、第1四半期までは普通倉庫の実績は入庫量、出庫量、在庫トン数とも前年同期を上回りました。今年度に入っても入出庫量は前年実績を上回る基調が続いており、日本経済の好調さを反映したものだと思います。ただ、9月以降は台風被害によってサプライチェーンが一部混乱しましたので、数値面で落ち込むことが予想されます。

――逆に言えば、災害による一時的な影響以外は落ち込む要素はない…。
松井 内閣府の月例経済報告を見ると、景気の緩やかな回復が続いており、短期的には一連の災害被害以外のマイナス要素はあまりないのではないかと考えています。一方で中長期的には、国内的には人手不足等の問題があり、国際的には米中間の貿易摩擦やEUと英国との関係、サウジアラビアの問題等、国際社会の緊張を高める要因が多く、先行きを悲観視する倉庫・物流業者が増えてきているように思えます。
特に国際問題に関しては、日本は貿易立国であり、港湾地区に立地している営業倉庫では輸出入貨物を数多く取り扱っていることから、倉庫業界も通商問題が悪化した場合は、大きな影響を受けることになると思います。

――来年10月に予定される消費増税の影響はどう見ますか?
松井 あくまで個人的な見解ですが、増税後には消費は間違いなく落ちると思います。ただ、その前に駆け込み需要があるでしょうから、そのプラスとマイナスをどう見るかでしょう。21社統計を見ると、前回の増税時は、直前の2014年3月の入庫トン数をピークとして、翌月から約半年間、入庫トン数の減少傾向が続きましたので、来年の増税でも似たような荷動きになるものと思っています。

今回の災害を踏まえ、災害対応力をさらに強化していく

――6月の会長就任時に記者会見で、「新たな問題への対応」と「災害対応力の強化」の2点を協会運営の柱にするとおっしゃっていました。まず災害対応力の強化についてですが、今回の自然災害の多発を踏まえた対策についてはいかがでしょうか?
松井 日倉協では、会員事業者の災害発生時の事業継続性の強化を目的に、13年に「事業継続計画書(BCP)作成の手引き」を作成し、周知活動に努めてきましたが、中小倉庫事業者にとっては独自のBCP作成はハードルが高いとの声を踏まえて、16年からは簡易版BCPの作成についての説明会を全国で開催してきました。今年度については、説明会の開催を一旦休止して、会員にアンケートやヒアリングを行い、協会としてのBCP関連の活動を整理しつつ、今後の活動の充実に向けた準備期間に充てています。今回、そうしたタイミングでたまたま自然災害が多発したわけですが、当然、今回の災害対応にあたって得られた課題や教訓を新たな取り組みに反映していくことは必要だと思っています。

――倉庫業は緊急時の支援物資拠点の役割を果たすという公共的使命も担っており、各地区倉庫協会が都道府県などの自治体と災害協定を結んでいます。
松井 現在、各地区協会が全国45の都道府県と災害協定を結んでおり、ほぼ全国を網羅しています。

倉庫業界でも徐々に人手不足が深刻化しつつある

――もうひとつの柱である「新たな問題への対応」とは?
松井 労働力不足への対応が中心になります。物流業界ではとくにトラックドライバー不足が顕在化しており、日倉協としてもトラック業界の労働環境の改善に協力すべく、昨年「トラック運送業に係る日倉協自主行動計画」を策定してその周知を図っているところです。これまでは、トラックドライバーが仕分け・検品などを〝サービス〟として行っていた部分がありましたが、ドライバーの本来業務は荷物を運ぶことであり、その先の保管場所への棚入れやラベル貼り等の附帯業務は倉庫などの荷受け側が行っていくというものです。倉庫業とトラック運送業は物流業界の中で密接な関係にあるので、当協会としても引き続きトラック業界の労働環境改善に協力したいと考えています。

――倉庫業界での労働力不足の状況はどうなっていますか?
松井 トラックドライバーほどではないにせよ、徐々に深刻化してきています。とくに地方では人材が確保できないという声が増えていますし、流通加工などに従事するパート・アルバイトが確保できないという状況も出始めています。ただ、6大港をはじめ大都市部ではまだ、そこまで深刻化していません。ですが、5年10年のスパンで見ていくと、倉庫業界でも間違いなく人手不足は進んでいきます。倉庫業に従事する若者が減っており、現場で働く人の平均年齢は年々上がっています。

――トラック業界ではここ1~2年、人手不足を背景にして運賃適正化が進んでいますが、倉庫業界では料金改定の動きはないのでしょうか?
松井 正直なところ、そういう動きはあまり聞こえてきません。どちらかと言えば、まだ過当競争による値下げ競争が続いているような状況です。人手不足を理由に倉庫料金を改定できるような段階には至っていないのかも知れません。
ここ数年、物流危機の顕在化で宅配やトラック運賃の値上げがだいぶ進み、お客様である一部の荷主企業では意識が変わってきた面は確かにあります。ただ、大多数のお客様は、物流コストはまだまだ削減できると考えています。我々のような倉庫事業者は1~3年程度の契約期間でお客様の物流業務を受託するケースが多いのですが、契約更改時期になると入札になって料金が安くなってしまうという声も聞かれます。

――物流不動産の供給スペースが拡大していることも、倉庫料金の適正化が進まない背景にあるのではないでしょうか?
松井 現時点では、物流不動産と直接的な競合関係があるとは思っていません。ただ、eコマース業者が物流不動産のスペースを借りてセンターを運営する事例が最近増えています。ということは、これまで小売店経由で売れていたものが、ECに置き換わっているということです。そうなると、これまでどこかの営業倉庫に入っていた貨物が、物流不動産のECセンターに移り、その倉庫は空いてしまうことになります。当然、その倉庫会社は安い保管料金でも新たな貨物を誘致するでしょう。そのような〝玉突き〟的な形での影響は予想されることですし、今後も増えていくでしょう。

営業倉庫のロボット化はすぐには難しい

――IoT、AIなどによる庫内作業のロボット化・自動化への関心が高まっています。
松井 倉庫内業務のロボット化・自動化についての関心が高まっていることは間違いありません。しかし、倉庫業者が現段階で、こうした新技術を導入できるかと問われれば、なかなか難しいと思います。その理由のひとつは、営業倉庫業者は形や大きさなど多様な荷物を扱っており、マテハン機器にも相当な汎用性が求められるからです。eコマースや宅配などの領域ではロボットの導入が進んでいますが、それは取り扱う荷物がほぼ一定の大きさに限られモジュール化されているからです。もう一点は投資対効果です。仮に特定のお客様向けに自動化機器を導入したとしても、契約期間が1~3年では初期投資を回収できず、投資に二の足を踏んでしまうという課題があります。

――現時点では様子見をせざるを得ない…。
松井 人手不足は年々深刻化していくことは明らかなので、将来的に自動化・ロボット化が必要になってくることは了解していますが、現状では高い関心を持って調査研究や情報収集に努めているという段階だと思います。もちろん、日倉協としても会員事業者への情報提供や支援活動には力を入れていきます。

――2020年4月から施行される改正民法の影響についてはいかがでしょうか?
松井 改正によって倉庫への寄託が「要物契約」から「諾成契約」に変わるということですが、個人的には大きな影響はないだろうと考えています。民法よりもお客様との個別の契約が優先されるわけですから、実際の業務が大きく変わるようなことはないと思っています。ただ、会員企業には様々な事情などもあるでしょうから、協会として今年度の重点活動のひとつに位置付け、しっかりと調査研究を行っていきます。

民法改正、物効法の認定増加、人材育成に力を入れる

――一昨年11月に施行された改正総合物流効率化法(物効法)への対応は?
松井 改正物効法における総合効率化計画の認定を受けるためには、環境負荷低減に加えて、省力化による生産性向上も要件になっています。さきほど申し上げたトラックドライバーの労働環境改善についても、日倉協として物流ネットワーク全体の労働負荷軽減に資するトラック予約受付システムの紹介などにも取り組んでいます。また、認定件数の増加に向けて、日本倉庫協会の「物効法認定取得相談室」では、引き続き、会員事業者からの相談などに対応しています。

――倉庫業界の人材育成についても引き続き力を入れていかれますか?
松井 倉庫業界の健全な発展のために最も重要なことは、倉庫業従事者のスキルアップであり、人材育成です。その育成を支援していくことは、協会としての最大の使命だと考えています。新入社員や若手社員を対象にした基礎研修や中堅層を対象とした専門研修など幅広い研修を全国で開催しています。また、オンデマンド研修や安全衛生教育DVDライブラリーなども用意しています。今後も、物流ニーズの変化などを捉えたタイムリーな研修メニューを充実させていきたいと考えています。
(2018年11月27日号)


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