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ビール4社がトラック待機時間対策で共同取り組み

2018.05.31

アサヒビール(本社・東京都墨田区、平野伸一社長)、キリングループロジスティクス(本社・東京都中野区、戸叶弘社長)、サッポログループ物流(本社・東京都渋谷区、松崎栄治社長)、サントリーMONOZUKURIエキスパート(本社・東京都港区、小嶋幸次社長)の4社は共同でトラックの待機時間対策に取り組む。日本酒類販売(本社・東京都中央区、田中正昭社長)の発案により、神奈川県内の物流センターに専用バースを設置して、4社が計画的に納品時間を分散させるトライアルを実施したところ、待機時間の大幅削減と庫内作業の効率アップが実証された。こうしたWin―Winの事例が普及すれば、トラック待機時間問題を巡る発荷主と着荷主の関係は「対立軸」から「協調軸」へ大きくシフトする。

双方がメリットを享受できる納品・荷受けプロセス検討

ビール4社は2015年に「物流部長会」を発足し、物流の諸課題に対する共同の取り組みを推進。16年11月には、納品車両の長時間待機をテーマとするワーキングチームを設置した。同12月から3ヵ月間、4社で大規模な実態調査を行った結果、物流センターでのトラックの受付からバースに接車するまでの待機時間は4社平均で90分で、2時間を超えるものも3割あることが分かった。

ワーキングチームの幹事を務めるアサヒビール物流システム部東日本物流部の坂田隆生担当部長は「個別に改善を申し入れても限界があり、個別最適になってしまう。また、待機時間を削減するには、物流センター側で人員を増やさなければならないなどトレードオフになり、協議が進まなかった」と話す。そこで4社が連携し、発荷主と着荷主の双方がメリットを享受できるような納品・荷受けプロセスを検討することとした。
こうした中で、日酒販から「ビール4社の納品をコントロールすることが問題解決につながるのではないか」との発案があり、4社がこれに賛同する形で共同で取り組みを検討。着荷主の日酒販は「荷受けの効率化」、発荷主であるビール4社は「待機時間の削減」とそれぞれWin‐Winの成果を得ることを目標に、昨年6月から日酒販の「厚木L.C」を対象に実証をスタートさせた。

物流センター側で専用バースと納品時間帯の枠を設定

従来、ビールメーカーは納品数量が多い上に空容器の回収を行うことから、納品が集中すると物流センターの限られたバースを占有。受付は先着順で、バースは共通であるため、納品数量が少ないメーカーとビールメーカーとが混在し、長時間待機が発生していた。また、ビールメーカーの大量の商品がプラットホーム上の検品場に滞留してしまうことで、構内の作業効率の低下を招いていた。

そこで、物流センター側で「ビール専用バース」と納品時間帯の枠を設定し、ビール4社が出荷場所からの距離や出荷作業の体制を考慮しながら計画的に納品時間を分散するよう調整。ビールメーカーでは納品車両の待機時間が短縮され、それ以外のメーカーもスムーズに納品できるようになった。物流センター側ではビールメーカーの荷受けの集中が緩和されたことで、構内作業の効率がアップした。

納品時間帯は、「7時半~9時」「9時~11時」「11時~13時」の3枠が設定され、それぞれの時間帯ごとに最大の荷下ろし可能台数を割り当てる。「朝一番」の時間帯に希望が集中するように思われるが、「当日朝の出荷のため、朝一番より遅い時間帯の方が都合がいい」、「出荷場所からの距離が長いため、朝一番納品で車両の回転率を高めたい」など各社固有の事情や希望を組み合わせながら調整できた好事例と言える。

1時間以上の待機がゼロに検品作業員も削減

取り組みの結果、ビール4社では受付からバース接車までの滞留時間が1時間以上の車両がゼロになり、平均待機時間は従来の5分の1の13分に短縮。ビール以外のメーカーの待機時間も実施前の平均41分から24分に半減した。物流センターでは荷受け、検品スペースの円滑な運用が可能になり、バースを固定化することで格納場所へ動線を短縮。検品作業員や入荷フォークリフトの台数も削減できた。

坂田氏によると「これまでは納品時間は着荷主の要請により決められていた。今回の取り組みは、『発荷主側で調整して計画納品を行う』というもの。着荷主の手待ちが発生しないよう車両入場することを前提に、発荷主が納品時間をコントロールすることによって、納品の順番を調整したりトラックの回転率を高められるなど効率化の可能性が広がる」。納品時間についても「待機が発生しなければ必ずしも朝一番に到着する必要性はなく、枠の取り合いにはならない」と指摘する。

トラックドライバーの長時間労働の要因のひとつとして、荷主軒先での長時間の荷待ち時間・荷役時間が挙げられ、国土交通省では貨物自動車運送事業輸送安全規則の一部を改正し、昨年7月から荷主都合による30分以上の荷待ちについてトラック事業者の記録を義務付けた。また、同11月に施行された改正標準貨物自動車運送約款では、運送の対価である「運賃」とは別建てで「待機時間料」の収受を可能としている。

今回の取り組みは、発荷主と着荷主の連携により「待機時間をなくすことで費用化を回避する」ものだが、コスト削減よりもドライバーの労働環境改善という社会的課題への対応を主眼としている。日酒販が加盟する日本加工食品卸協会(國分晃会長)の物流問題研究会でも評価され、「複数の発荷主が納品時間を調整して決めるスキーム」がサプライチェーンの効率化のトレンドになる可能性もある。
(2018年5月31日号)


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