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レポート 化学品物流も“クライシス” 物流費上昇で価格改定も

2018.05.29

トラックドライバー不足など物流業界の労働力不足の深刻化で運送料金の値上げの影響が化学品業界でも顕著になってきた。化学品や危険物は取り扱いが難しいこともあって特積み会社の引き受け制限も始まっている。「運べなくなる」危機感から、昨年後半から原料価格の高騰や物流費の上昇を理由とするメーカーの価格改定が相次ぐ。一方で運送会社からは、「荷主との価格交渉は難航している」という声も聞こえ、商品の価格転嫁分が末端の物流まで還元されるには至っていない様子もうかがえる。

ナフサ高騰と物流費上昇のWパンチ、自助努力に限界

化学メーカーの価格改定が本格化し始めたのは昨年秋頃。出光興産が2017年10月24日、アクリル酸とアクリル酸エステルを10月30日出荷分から、それぞれ15円/㎏以上の価格改定した。11月28日にユニチカがスパンボンド不織布(ポリエステル/ポリエチレン複合糸)を12月20日出荷分から値上げしたのに続き、いよいよ最大手の三菱ケミカルがポリエステル、ナイロンを主原料とした製品の値上げに踏み切った。

「原油価格の急騰に伴い、製品の原料となるナフサの価格や運送業界の運送価格の上昇に対し、経費削減など自助努力のみでは対応することが困難になった」――各化学メーカーは価格改定の理由として挙げるのは「ナフサ高騰」「物流費の上昇」のWパンチだ。年が明けてもこの動きは止まらず、DICは、11月の可塑剤、12月のエポキシ樹脂などの価格改定に続き、2月にポリスチレン製品とスチレン系製品の価格改定を決定した。

原油価格急騰、製品価格だけでなく運賃も改定

石油化学メーカーの製品原価に大きく影響するナフサは石油化学製品の基礎原料であり、原油価格と連動している。原油とナフサの価格を見てみると、17年2月の原油価格は1KLあたり3万9416円で、ナフサは4万76円。3月には一時的に原油・ナフサとも4万円を超えたものの、9月に再び3万円台に。しかし、10月から再び高騰し、11月には4万円を超え、18年1月には4万6930円まで上昇。2月も4万6000円台と高値で推移している。

原油価格と物流費の上昇による値上げが続くなか、製品価格だけでなく運賃の改定を行ったメーカーも出てきた。日本ペイントホールディングスでは2月5日、製品と運賃の価格改定を発表。製品では溶剤系塗料8%、紛体と水系塗料5%、シンナー10%を値上げ。運賃は石油缶(10~50㎏未満)が30円/個、中小缶(0・5~6㎏未満)が10~20円/個の値上げとなる。運賃が2月21日、製品は4月1日から実施するとした。

強気な姿勢で価格交渉にのぞむ荷主も

日本ロジスティクスシステム協会(JILS)の「2017年度物流コスト調査報告書」によれば、2年連続で回答した企業で売上高物流コスト比率が上昇した企業98社(58・3%)は、低下した企業70社(41・7%)を上回り、コスト比率も微増した。

また、「カーゴニュース」が行った16年度「大手荷主の物流コスト調査」によると、業種別で「化学」は調査対象の7社は売上高が前年度比でマイナスとなったが、物流コストについてはうち6社でプラスとなっている。

化学品メーカーに聞くと「当然、値上げの要求にはある程度、応じざるを得ないだろう」と一定の理解を示し、とくに小口貨物や特殊な危険物などは「いまはまだ運べているが、これからどうなるか」と言う不安も聞かれる。一方、運送会社側に対し、「値上げに応じるからには、100%運んでもらう保証がほしい」と条件提示する荷主も少なくない。

これに対し、化学品を扱う運送会社は「値上げではなく、適正料金の収受」であると強調しつつも、中継拠点を新設するなど輸送力の拡充を図り、安定した化学品輸送に取り組んでいる。その一方で、将来的なトラックドライバーの確保がままならない運送会社は、強気な姿勢で価格交渉にのぞめない事情も垣間見える。
(2018年5月29日号)


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