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ズームアップ 東京五輪、物流効率化の“レガシー”を

2018.05.10

2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会(2020大会)に向け、物流分野での交通需要マネジメント(TDM)の試行が今夏いよいよ始まる。会期中の円滑な輸送には自動車交通の3割を占めるトラックの交通量抑制が不可避。東京都では企業に対し物流効率化への協力を求める。国際的な一大イベントの成功という共通目標のもと、商慣習の是正や消費者の意識改革まで踏み込んだ物流効率化の取り組みの環が広がれば、五輪後の“レガシー(遺産)”となる。

今夏試行、テレワーク10万人目標

20年7月から9月にかけて開催される2020大会では、選手村や競技会場、メディアセンターなどが市街地や、物流拠点である東京臨海部に点在するとともに、夏季の行楽シーズンで一年のうち交通量が増える時期に重なる。TDMなどの対策を何も行わない場合、首都高の渋滞は現況の2倍まで悪化すると試算され、物流では遅配やそれに伴うドライバー、運送会社の負担増も予想される。

そうした事態を回避するためにTDMを導入するもので、重点期間を設定し、平日の15%程度交通量が抑制された状況である休日並みの交通環境を目指す。7月からの試行実施に向け、4月から主要経済団体会員やスポンサー企業、市民への協力の呼び掛けを開始。大会時に混雑するエリアの企業を中心に、10万人、1000社の協力を目標とするテレワーク、時差ビズ等の取り組みとも連携するほか、通勤を抑制するため、夏季休暇制度やボランティア休暇制度の導入も推奨する。

大会の成功は輸送にかかっている

物流分野のTDMでは配送の抑制、輸送手段、ルート、物流拠点、時間帯の変更などのメニューを提示。在庫を多く持つことで配送頻度を減らしたり、再配達削減、共同配送、鉄道・船舶へのモーダルシフト、納品の前倒し、夜間時間帯の配送などが考えられる。TDMへの協力に賛同する発着荷主と物流事業者は「行動計画書」を作成し、必要な調整事項を共有し、解決策を検討していく。

東京商工会議所を通じて行ったアンケートによると、TDMへの協力要請があった場合に「対応・検討が可能」、「対応・検討が不可能」という回答はいずれも約3割程度で、運輸業は「対応・検討が不可能」との回答が業種別で最多だった。輸配送を発生させるのは、BtoBでは荷主、BtoCでは消費者であることから、TDMの効果を上げるには荷主や消費者の協力不可欠となる。

東京都のオリンピック・パラリンピック準備局大会の松本祐一輸送課長は「大会の成功は輸送にかかっていると言われる」と強調し、「協力企業のCSRに訴求できるようなインセンティブも検討する」と説明する。通販の「送料無料」「返品無料」が不要不急の配送を増やす一因にもなることから、これらの有料化の機運醸成など「五輪を物流の慣習を変えるきっかけとして利用してほしい」と話す。

トラックドライバー不足をはじめ“物流危機”が顕在化する中、再配達や不要不急の配送の削減は社会的課題。国土交通省の調査によると「運輸業」はテレワークの普及率、制度の導入率が約7%超と全産業中最低とされる。1964年の東京大会では東海道新幹線や首都高の整備といったハードのレガシーを残したが、大会ではTDMを通じ、次世代に受け継がれる物流効率化のベストプラクティス、ソフトのレガシーが期待されている。
(2018年5月10日号)


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