【物流効率化】“物流危機”で商慣習是正にドライブ

トラックドライバー不足など“物流危機”に対する社会的関心が高まる中、サプライチェーンの維持に向け、商慣習の是正も含めた改革にドライブがかかってきた。食品・飲料メーカーでは賞味期限表示を「年月日」から「年月」表示に変更したり、通販会社が急がない配送やまとめ買いに対してインセンティブを与えるなど、不要な配送や物流負荷を軽減する取り組みが広がっている。

荷主が配送、倉庫など物流現場に携わるマンパワーの限界を認識し、これまでの〝過剰サービス〟を見直すことで末端の消費者の意識改革を促し、物流サービスを維持しようという意図が読み取れる。その一方で、物流にやさしい社会を実現するには、物流事業者側からの「サービスの多様化」と「適正価格の設定」による荷主、消費者の啓発も不可欠だ。

賞味期限延長、「休配日」を増やす取り組みも

多頻度配送や倉庫での管理が煩雑になっている一因が賞味期限。味の素では、賞味期限が１年以上の家庭用製品について賞味期限の表示を「年月日」から「年月」への変更を進めており、２０１９年度中をメドに移行を完了する予定。味の素ＡＧＦも家庭用製品約９割の賞味期限を17年度中に「年月表示」とする。また、サントリー食品インターナショナルも商品の約90％を18年末までに「年月表示」に移行する。賞味期限が長くなることで、配送回数が減ったり、物流のオペレーションが簡素化できる。

出版業界もサプライチェーン全体で物流への「配慮」に動き始めた。長引く“出版不況”で配送数量が減少する一方、コンビニ向けの多頻度配送増加で配送会社が苦境にあえぐ中、日本出版販売では、日本出版取次協会を通じ、昨年４月からコンビニへの時間指定納品の緩和が実現。日本雑誌協会の協力で稼働日数の見直し、業量の少ない土曜日の「休配日」を増やす取り組みも進む。業量の平準化は配送会社の負担軽減、長時間労働対策に寄与することから、書籍でも中長期的に発売日見直しを要望していく考えにある。

通販会社、「急がない」「まとめ買い」にインセンティブ

靴とファッションの通販サイトを運営するロコンドは昨年９月から、急ぎでないにもかかわらず、当日や翌日に届いている“過剰サービス”を見直し、「急ぎません。便」を導入した。最短の「当日夜間・早朝便」より２００円、「お急ぎ便」「日時指定便」より１００円安い。また、アスクルは同10月から、個人向け日用品通販サイト「ＬＯＨＡＣＯ」で、急を要しない買い物をなるべくまとめてもらうことで、配送サービスの負担軽減につながるとして、２００ポイントを付与するキャンペーンを行っている。

経済界も商慣行是正に向け共同宣言

物流業界の長時間労働など低い生産性の改善に向け、経済界からの追い風も吹き始めた。日本経済団体連合会（経団連、榊原定征会長）は昨年９月22日、他の経済団体とともに「長時間労働につながる商慣行の是正に向けた共同宣言」を発表。長時間労働を前提とした企業風土や職場環境の見直しを経済界として強力に推進していく意向を明らかにした。残業につながる無理な発注や短納期の抑制、サービスの価値に見合う価格での契約・取引を求めており、商慣習に起因する物流の非効率解消に期待が集まる。

一方、商流を変えるには、物流事業者側からのアクションも不可欠だ。「経済成長フォーラム」が昨年６月にまとめた「サービス産業の生産性革命のための提言～流通・運輸サービス業を中心に」では、物流費用の明確化と多様化を図り、消費者に選択肢を与えるべきとした。経済同友会（小林喜光代表幹事）が同７月に公表した物流・生産分科会の報告書では、「物流業界でも繁閑や緊急度に応じた価格設定などの工夫をすることが他社との差別化になると同時に、需要の平準化につながる」としている。

物流会社のサービスと価格、利用者が選べるように

国土交通省の重田雅史物流審議官は昨年11月20日、日本物流記者会の懇談会で、物流の持続性のためには商習慣の是正が不可欠とした上で、「サービスレベルに応じて価格設定には『松・竹・梅』があってしかるべき。利用者が選べる環境にすることによって、マーケットのメカニズムが正常化する。物流サービスのレベルと価格の紐付けは物流会社が行うべきで、その選択肢を提案することが大事」とし、物流事業者側が価格決定権を持つ必要性を強調した。

重田物流審はまた、商習慣の改善に向け「荷主が敢えてその慣習を続けるというのであれば、物流事業者はそれに見合った対価をもらうべきで、仮にそれが払えないと言うのであればしっかり『ＮＯ』と言うべき。そうしないと、適正取引の実現やその先にある物流業界の働き方改革に進むことができない」と述べた。

今年は物流維持に向け、その根底にある商習慣改善が大きく進展する年になりそうだ。
（2018年1月16日号）