【EC物流】「宅配危機」の年末、大手3社の対策は?
12月から本格化する年末繁忙期のピーク突入を控え、宅配便各社の対策が明らかになってきた。大手3社のスタンスを見ていくと、ヤマト運輸と佐川急便は“抑制的”。これに対し日本郵便は「動向を注視していく」としながらも、需要取り込みに前向きな姿勢がうかがえる。「宅配危機」が表面化するきっかけとなったのはちょうど昨年12月だった。急増する需要の大波を遅配や混乱なく乗り切れるかが各社の試金石となりそうだ。
今年の年末は過去最高の取扱個数に?
12月は歳暮やクリスマスの荷物が集中するため、平常月の1・5倍の荷物が集中する。さらに、ここ数年のネット通販が歳末セールなどを実施するようになったことで需要が急増しており、今シーズンは12月として過去最高の取扱いになるとの観測が出ている。
昨年12月を振り返ると、需要集中でヤマトと佐川のオペレーションがパンク、全国規模で遅配が発生したことは記憶に新しい。その日のうちに配達できない荷物が営業所に“残荷”として残り、その配達がままならない中で、翌日また新たな荷物が大量に届く…。こうした現場の混乱を契機に「宅配危機」が表面化した。
ヤマト「1週間前に連絡」、佐川「前日に集荷予約」
ヤマトと佐川の2社は、昨年の教訓を活かし、12月を前に対策を打ち出した。ヤマトは新規法人顧客を対象に、一度に20個以上の荷物を送る場合、出荷日の1週間前までに連絡することを求める。また、既存顧客についても出荷数量が通常月に比べ著しく増加する場合に事前通知を要請する。さらに、事前連絡を受けても、状況によっては出荷日を調整する場合があるとしている。期間は12月1日から31日までで、個人客については対象外。
佐川は電話やWebによる集荷依頼を前日までの予約制にする。期間は1日から29日までで、法人だけでなく個人客も対象。集荷量を前日までに確定することでオペレーションを効率化するともに、当日の集荷依頼で配達効率が下がることを防ぐ狙い。ただ、定期的に集荷に回っている既存顧客については対象外としている。
両社とも、荷物の受付けに一定の制限をかけることで、昨年の“二の舞”を避けようとする意図がある。特にヤマトは現在、今期の取扱個数を16年度比で約2%(4000万個)減らす「総量コントロール」を進めているため、ヤマ場である年末においても抑制的にならざるを得ない。ただ、その一方で、ヤマトホールディングスの中間業績は128億円の営業損失に沈んでおり、通期で営業利益250億円への転換を目指している。そのため、「あまりブレーキを掛けすぎると利益目標に届かない。コストコントロールを含め、アクセルとブレーキの配分が極めて難しい」(関係者)という声もある。
これに対し佐川は、親会社であるSGホールディングスの株式上場を12月13日に控え、“安全運転”で乗り切りたいとの意図も見える。社員の労働環境改善などコンプライアンス面からも微妙な時期に無理は避けたいのが実情だ。
カギを握る日本郵便、需要取り込みに前向き
こうした2社に対し、今繁忙期の動向のカギを握る存在が日本郵便。同社は現段階でヤマトや佐川のような対策は予定しておらず、「動向を注視していく」とコメント。22日の日本郵政の会見で長門正貢社長は「油断はしていないが、こなし切れると読んでいる」と述べた。
同社の関係者は「全国的にオペレーションが混乱するような事態は起こらないと考えており、仮に起きたとしても局地的なもの」とも述べ、抑制的なヤマト、佐川から流れてきた荷物の取り込みにも前向きのようだ。
ただ、懸念材料もある。マクロの労働需給がタイトになってきていることから、年末の要員確保が現段階で10%程度足りておらず、最終的には本社・支社からの応援要員の派遣も検討している。また、労働力確保が困難なエリアについては、配達委託単価の一時的な引き上げも検討材料にしている。ヤマトが総量コントロールを表明して以降、ゆうパックの取扱個数は月を追うごとに伸び率が拡大しており、「仮に平常月の2倍近い個数になれば、現場は厳しい状況に追い込まれる」との見方もある。
(2017年11月30日号)