【トラック輸送・物流】働き方改革、“副業”が盲点に‐‐時短が逆効果? 長時間労働の懸念も
来年の通常国会で再び審議が始まる見通しの「働き方改革法案」。長時間労働を抑制するため、トラックドライバーの時間外労働にかかる規制が盛り込まれたが、盲点となりそうなのが、政府が「働き方改革」の施策のひとつとして進めている“副業”“Wワーク”だ。現状、ドライバーの副業についての規制はなく、残業時間が減った分の収入を補うため、副業するケースが増えてくる可能性もある。副業が長時間労働につながり、過労による安全運転への影響も懸念される。
手取りが減った分を補てん、副業拡大の可能性も
ドライバーは固定給が低く、残業代や時間給の比率が高いため、「働き方改革」で「時短」により長時間労働が抑制され、残業が少なくなれば、賃金の手取りが減ってしまう。ドライバーの他業種への流出も懸念されるが、賃金が減った分を補てんするため、現在、新聞輸送など限られた業種のドライバーで行われている「副業」「Wワーク」が拡大する可能性が指摘され始めている。
現在、就業規則で副業を規制している会社が多いが、政府は「働き方改革」の一環で「副業」の推進を掲げており、これを受け、厚生労働省では副業・兼業に関して一定の制限を設けた上で、原則、認める方向でのガイドラインおよびモデル就業規則の策定準備に入った。本業に支障をきたすような副業や兼業は認めらないものの、ドライバーの副業そのものが規制されているわけではない。
“休む”のも仕事。安全確保の観点から認められない
「安全確保の観点から、ドライバーの副業・兼業は認められないというのが基本スタンス」と話すのは、全日本運輸産業労働組合連合会(運輸労連)の世永正伸副委員長。「トラックドライバーは“休む”“寝る”ことも仕事。現状、本当に寝ているのか正確な把握が難しいにしても、副業・兼業を認めてしまえば安全を担保できない。政府には業種によっては認められない産業があることを理解してもらう必要がある」と指摘する。
「仮に認める場合でも会社の枠を超えて労働時間をしっかり把握できる制度や社会インフラが必要。社会全体でトータルな労働時間などを管理できる仕組みが確立されない限り、認めるべきではない。他方、『働き方改革』が進み労働時間が減れば、収入ダウンにつながる。そこは適正運賃・料金の収受を進め、ドライバーの給与に還元するサイクルをつくらなければならない」と話す。
「働き方改革」が逆効果、しかし、背に腹は変えられず
中堅運送会社の社長は「所得が増えないのに、時短をやろうというのだから、『給与が減った分は補てんしよう』と副業に流れるのは当然。時短が逆効果になる可能性がある。既にドライバー以外で『二毛作』は始まっている。当社は安全が担保できないため、副業のドライバーは採用しないことにしているが、ドライバー不足で背に腹は変えられず、受け入れている会社も多いのでは」と話す。
国土交通省も副業には慎重な姿勢だ。「副業する場合、A社とB社の労働時間を合わせた時間がその人の労働時間になり、無制限に長く働けるわけではない」とした上で、「旅客、貨物ともに運送業は安全輸送が前提。安全の観点から副業を考えるべき」「手取りが減るから副業すればよいという考えではない。長時間労働削減と賃金アップのどちらも進めて、待遇改善を図らなければドライバーのなり手はいなくなる」と担当者は話す。
(2017年11月21日号)