日販が持続可能な出版流通実現へ、物流を抜本再編
日本出版販売(日販、本社・東京都千代田区、奥村景二社長)は、持続可能な出版流通の実現に向け、大規模な物流再編に取り組む。「汎用性」「柔軟性」「高い生産性」をコンセプトとし、取引先のニーズへの対応力を強化。10月には、最新のロボティクス技術を導入した新たな物流拠点「N-PORT新座」(埼玉県新座市、完成イメージ)が稼働開始し、まずは文具雑貨の物流を統合する。日販が14日に東京都内で開催した「NIPPAN Conference 2024」で、伊藤宏治常務取締役物流本部長が、同社の物流の将来計画について説明した。
書店の売り場の変化を支える物流に
伊藤常務は物流の現状について、「物流を取り巻く環境は厳しく、燃料費や人件費などの物流コストの増加、将来的な労働力不足、直近では『2024年問題』への対応などトラックドライバーを守る環境整備が喫緊の課題となっている」とし、日販として2022年に王子流通センターでトラックバース予約受付システムを導入し、9割以上の車両で待機時間を30分未満に短縮できた成果を報告。今後は、既に導入済みの王子流通センター、蓮田センター(出版共同流通)から範囲を拡大し、ドライバーの負担を軽減していく意向を示した。
日販のこれまでの物流政策では、1990年代の業量拡大期にシステム化や機械設備への大規模な投資を行い、今日の出版流通を支えるインフラを構築した。ただ、2000年代以降は流通量の減少に伴い、拠点集約を行いつつ、業界全体でのコスト削減の最小化を図るため、他の取次との物流協業を推進。直近の24年3月には返品拠点のひとつだった新座センターを撤収し、既存拠点に機能を移管した。25年にはトーハンとの協業を書籍返品にも拡大する予定で準備を進めている。
これらの一連の取り組みにより、23年度の物流コスト総額は14年度比で70億円以上減少。一方で、年間の送品冊数は同じ期間でほぼ半減しており、結果として1冊の出荷にかかる物流コストは配送運賃、それ以外のコストも含めて上昇が続いている。伊藤氏は、「コスト削減の効果が効率悪化のスピードに追い付いていない。業量の拡大期だった90年代に導入した設備や機械がいまの市場規模に見合っておらず、他の商材に転用しにくいといった課題を解決しながら、変化する書店様の売り場を支える物流につくりかえていく」と表明した。
新物流拠点にロボティクス技術を導入
抜本的な物流再編に踏み込むにあたって、①オールインワン物流②多様な書店の形に合わせた送り方(多品種・小ロット)③業界横断でつなぐ潤沢な在庫でタイムリーに配送④AI・ロボティクスによる高い品質――を掲げるとともに、「1冊1冊、1個1個を丁寧にお届けする」との方針を強調。様々な商材に対応可能な「汎用性」と流通量の変化に対応できる「柔軟性」、最新技術を活用した「高い生産性」を再編の3つのコンセプトに挙げた。
「これまでは、雑誌・書籍など商材の特性に応じて固有の設備、システムを構築してきたため、流通量が減少すると稼働率の低下に直結してしまっていた。これからの仕組みは、大きさ、形状、重さなど様々な特徴を持った商材に対応可能な設備につくりかえ、設備の稼働率を維持しながら、多様な書店の形に合わせた送り方を実現する」と展望した。
従来、システムも商材や拠点ごとに構築されていたが、あらゆる商材や商流に対応できるグループ共通の倉庫管理システムを導入し、書店が展開する商材をこれまで以上にオールインワンで供給するとし、「汎用性のある物流につくり変えることで、流通量に対し柔軟な物流を実現したい」と述べた。
「高い生産性」に向け、10月に稼働する物流拠点「N-PORT新座」ではラピュタロボティクスとの協業によりロボットを使った最新の自動倉庫を導入し、書店別の仕分けにも最新のソーターを採用。自動倉庫はGTP(Goods to person)により、商品ピッキング作業の生産性を従来の3倍に向上させ、作業者の歩数を85%減らせるとの試算値も紹介し、「生産性が高いだけでなく、働く人にもやさしい設備になる」と説明した。
物流再編のコンセプトを体現した「N-PORT新座」は、まず文具雑貨の拠点の最適化を目指す。日販とグループのカルチュア・エクスペリエンスでばらばらだった文具雑貨拠点を統合し、最新機能を有した出荷拠点とする。「N-PORT新座」は汎用化に向けたグループ共通の倉庫管理システムを導入した最初の拠点となり、ロボティクス導入による業務DX化を実現。CO2排出量を抑えた地球環境にやさしい拠点として構築し、従業員の職場環境の改善にも一層取り組む。
(2024年5月21日号)