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【レポート】物流不動産、商品ラインナップが多様化

2023.11.30

物流不動産のマーケットに変化がみられる。需要は依然として堅調であるものの需要を上回る供給により、大都市圏を中心に空室率が上昇。CBREの調査によると、7~9月期は大都市圏(首都圏、中部圏、近畿圏、福岡圏)の大型マルチテナント型物流施設の空室率が上昇。首都圏は8・9%、中部圏は8・2%、一時空きのなかった福岡圏も5・9%にまで上昇した。テナント誘致のため、“汎用性”をセオリーとしてきた物流不動産の商品ラインナップも多様化し、ハード以外の差別化が進む。

【ケース①】冷凍・冷蔵倉庫 

賃貸用冷蔵倉庫は従来、転用がきかないため、デベロッパーはBTS型以外の開発を敬遠してきたが、マルチテナント型の開発も進む。日本GLPは神戸市東灘区で国内最大級の全館冷凍冷蔵および全館可変温度帯仕様のマルチテナント型物流施設「GLP神戸住吉浜、完成イメージ」(延床面積約4万5000㎡、収容能力約5万2000t)を2025年2月末に竣工予定だ。

湾岸地区の冷蔵倉庫の庫腹がひっ迫する中、三菱地所は大阪市住之江区でマルチテナント対応の賃貸型冷凍冷蔵倉庫を25年3月末に竣工予定。また、大阪市大正区でも一棟貸しを可能とした賃貸型冷凍冷蔵倉庫プロジェクトを始動。同社の賃貸用冷凍冷蔵倉庫の開発は累計4件となる。

【ケース②】危険物倉庫 

大手物流会社も積極投資に乗り出している危険物倉庫。リチウムイオン電池や半導体関連の危険物保管需要の高まりを想定した賃貸のニーズを掘り起こすべく、物流不動産デベロッパーも注目する。プロロジスは茨城県古河市で危険物倉庫8棟から成る物流施設「プロロジスパーク古河6」を開発。24年12月の竣工を目指す。

日鉄興和不動産も埼玉県越谷市で同社初となる危険物専用倉庫を建設。東武運輸が入居予定となっており、同社のニーズに沿った全4棟・平屋建てとし、24年6月末の竣工を予定。三菱地所は神奈川県厚木市でマルチテナント型物流施設を24年11月末に竣工後、危険物倉庫を増設する計画だ。

【ケース③】「24年問題」対策 

トラックドライバーの時間外労働規制が強化される「2024年問題」。輸送距離を短く、輸送頻度を少なくするためのストックポイントの設置需要は物流不動産には追い風となるが、テナント企業の「2024年問題」対策を施設の供給というハード面だけでなく、運用のソフト面でも支援しようという動きがみられる。

日本GLPの一部の施設では、夜間の不在時でも24時間、荷物の入出庫が可能な「置き配バース」を設置。監視カメラや無人の時は暗証番号やカードで解除できるシャッターをバース部分に設置し、セキュリティも完備。大和ハウス工業はマルチテナント型物流施設「DPLシリーズ」にHacobuが提供するMOVOのトラック入場予約システムを標準装備する。

【ケース④】新たな輸送モードとの連携 

次世代モビリティと物流不動産の連携も注目される。三井不動産、日鉄興和不動産が開発中の「MFLP・LOGIFRONT東京板橋」では、広大な敷地を活かしたドローン飛行用のフィールドと、倉庫の一部スペースをドローン事業者等への賃貸用R&D区画として整備。ドローンによるラストワンマイル配送や災害時の支援物資搬送等実証実験の場を提供し、物流におけるドローンの実用化を目指す。

三菱地所は京都府城陽市で日本初となる高速道路IC直結「次世代基幹物流施設」を計画。新名神高速道路の宇治田原IC(仮称)から物流施設に直結した専用ランプウェイを設けることで、完全自動運転トラックや後続車無人隊列走行、ダブル連結トラックの受け入れを可能とし、一般道に下りることなく利用できる物流施設を想定する。

【ケース⑤】福利厚生

物流施設内で働く人の健康や福利厚生に配慮した取り組みも多様化している。1月末に竣工したESRの「ESR横浜幸浦ディストリビューションセンター2」では、ESRとして初めてマシンジム型フィットネス「KLÜBB Fitness(クラブ フィットネス)」を導入。施設で働くワーカーは無料で利用できる。

今年の夏の酷暑を受け、ロジランドでは物流現場での熱中症対策に設備工事不要で導入可能な「パレットエアコン」の提供を開始。来年1月竣工予定の東急不動産の「LOGI’Q南茨木」では、アルバイトも含めた全ての従業員向けに、独自の福利厚生サービスを提供。商業施設や宿泊施設の優待利用などが可能となる。

【ケース⑥】シェアリング・協創

マルチテナント型物流施設の特徴を活かしたテナント同士のシェアリングを促す取り組みも始まっている。野村不動産とIHIが開発する「Landport横浜杉田(仮称)」は、コンセプトとしてオープン・シェア型の物流拠点を掲げ、自動倉庫のシェアリングサービスを構想している。

日本GLPの「ALFALINK相模原」では、入居企業の共創を育むため、カスタマーと連携し様々な取り組みを実施。カスタマー連絡協議会を定期的に開催するほか、物流事業の人材育成という同じ課題を持つカスタマーを対象に研修や交流会を行っている。
(2023年11月30日号)


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