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【ズームアップ】M&A仲介会社が「物流」に熱視線

2023.09.07

M&A仲介会社が物流業界に照準を定め、サービス体制を強化している。近年、物流業界のM&A件数は高水準で推移しており、2024年4月にドライバーに時間外労働の上限規制が適用される「2024年問題」を巡っては、対応が困難なためトラック運送事業を売却・譲渡したい「売り手」と事業規模を拡大したい「買い手」双方の思惑が合致しやすく、仲介会社の“特需”も見込まれている。

今が売り時でもあり、買い時でもあるか

物流業界のM&Aが活発化している。レコフデータによると、21年に物流業界のM&A件数は過去最多の94件に達し、22年も82件、23年上半期(1~6月)も39件と高い水準で推移している。仲介業のM&Aサクシードによると、同社を経由した22年のM&Aの全成約のうち、物流は第3位。21~22年の物流関連M&A成約件数は、19~20年と比較すると、1・8倍に増加している。

M&Aが活発な背景にあるのが、業界再編の動きだ。6割の事業者が労働者不足感を感じており、7月時点の軽油価格は20年7月時点と比べ約40円上昇し、価格転嫁も他業種と比べ進んでいない。人材の確保、生産性向上を図るためのDX投資、荷主との価格交渉は、業界の99%を占める中小・零細企業単独では困難になりつつある。後継者不在率も5割を超え、経営課題の解決、事業承継を目的としたM&Aが増えている。

M&Aキャピタルパートナーズによると、「物流業界ではすでに『2024年問題』に対応し成長を加速させていている企業と対応できずに四苦八苦している企業の二極化が進んでいる」ため、M&Aは経営戦略の選択肢のひとつとなる。また、「業界再編がひと段落すると、収益力は同じでも買収金額として上乗せするのれんが減少する傾向にある」(ストライク)ため、「今が売り時でもあり、買い時でもある」との見方もある。

承継公募、専門家チーム設置も

仲介各社は「2024年問題」を控えた“特需”をにらみ、物流業界向けのサービス体制の強化に乗り出している。M&Aサクシードは今年2月から5月にかけて、同業者の買収に積極的なフジトランスポートに事業を譲りたい経営者を募る「承継公募」を実施。M&Aキャピタルパートナーズは8月に物流業界プロフェッショナルチーム立ち上げ、体制を強化した。ストライクも8月、業界の構造改革に関する論客である辻卓史氏(辻事業サポート事務所代表)などを講師に迎え、「運輸・物流業界の2024年問題に向けて」と題し、セミナーを開催した。

ただ、物流業界において、経営課題解決策としてのM&Aの認知度はまだ低いのが実態だ。M&Aキャピタルパートナーズが5月に物流・運送業の経営者100人を調査したところ、業界の先行きに対して70・0%が「厳しくなる」と回答し、悲観的な見方を示す一方で、経営課題を解決するために、他社とM&Aなどによるパートナーシップ(提携)を検討したことがない企業は78%と8割にのぼった。

また、仮にパートナーシップを検討する場合、パートナーにふさわしい企業を聞いたところ、「同業の大手企業」が26・0%と最多だった。同業者間の大手と中小のM&Aマッチングはすでに先行事例もみられるが、潜在的な可能性が見込まれる。そのメリットとしては、売り手は大手傘下に入ることで資金獲得や債務解消、後継者問題の解決が可能で、買い手もドライバーや荷主、ノウハウを獲得し、事業規模拡大が可能になる。

一方で、デメリットがないわけではない。売り手が足元をみられ、納得のいく売却を行えないケースもある。また、経営基盤がぜい弱な中小零細のトラック運送事業者は、社会保険未加入や未払い残業も含めて深刻な労務問題を抱えていることも多い。買い手側にとっては、こうしたコンプライアンスリスクのほか、簿外・偶発債務の承継や、従業員の流出、のれんの減損に伴うリスクもある。
(2023年9月7日号)


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