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トラック運送業界で同業者間のM&Aが増加

2022.06.02

トラック運送業でM&Aが増加している。2024年4月からドライバーに時間外労働上限規制が適用される「2024年問題」を控え、人手不足がさらに深刻化する見込みから、同業者間でのM&Aが活発化したものと推定される。大手・中堅企業が商圏や事業拡大を見据えて、中小規模の運送会社を買収するケースも目立つ。1990年の物流二法による規制緩和以降、事業者数が約6万者超まで膨れ上がったトラック運送業界で、“再編”の兆しが見え始めている。

巣ごもり需要が後押し、65%は同業が買収

M&A総合研究所はこのほど公表したレポートで、2019年3月から22年2月の間にかけて上場企業が適時開示したM&Aに関する発表の中から、譲渡企業が「運送・運搬業」の企業であった案件を集計した。それによると、19年は16件、20年は19件、21年は17件で、21年3月~22年2月にかけては同水準で推移している。

一方、20年3月~21年2月は新型コロナウイルス感染症拡大における巣ごもり需要で「運送・運搬業」の需要が高まり、M&A件数が増加した。「運送・運搬業」を買収した企業の業種を調査したところ、買収した企業の業種は同業の「運送・運搬業」が65%と最多だった。買収した企業の「運送・運搬業」比率は19年68・7%、20年68・4%、21年64・7%となっている。

5割超で人手不足、M&Aでリソース確保

M&Aの背景にあるのが、トラック運送業界の人手不足問題だ。全日本トラック協会の景況感調査(22年1~3月)によると、労働力が「不足」(「不足」「やや不足」の合計)している割合は、56・6%と5割を超える。今後の見通しでは、「不足」が62・5%と6割超まで上昇し、人手不足感は強まる。

24年4月から、トラックドライバーに罰則付きの時間外労働の上限規制が適用されると、人手不足感はさらに強まる。特に長距離輸送では、規制を遵守するため、ドライバーの増員が必要となるが確保は容易ではない。ある物流会社の協力会社へのアンケートでは、「2024年問題」対策として、5割が「現状維持」と回答し、「増車する」は約3割だった。
こうした中で、M&Aは人手不足問題の解決策のひとつとなる。M&A総合研究所では「昨今のオンラインでの購買行動は年々右肩上がりで上昇している。国内でのきめ細やかやサービス・確実な時間指定・温度や品質の管理のクオリティ確保を目的としたリソースの拡充を目的に、今後もM&A件数が増加すると考えられる」と予想している。

大手、中堅が有力運送会社をグループ化

昨年来、大手で運送会社のM&Aを加速しているのが、SBSグループとハマキョウレックス。SBSグループでは、物流子会社のM&Aとともに、有力運送会社をグループ化。ハマキョウレックスは、栄進急送およびマルコ物流、大一運送、中神運送、東日本急行を子会社化した。

中堅によるM&Aの勢いも目立つ。フジトランスポート(旧富士運輸)を中核とするフジホールディングスでは35年に大型トラック保有台数5000台体制を目指し、昨年はひばり商運(現北陸トランスポート)、日向商運、サンコー運輸をグループ化。低温輸送の福岡運輸ホールディングスも同業3社を子会社化した。

トラック運送業界の経営課題として浮上しているのが、後継者不足だ。東京商工リサーチの調査によると、20年時点で「運輸業」の後継者不在率は53・7%で19年の52・2%から1・5pt上昇した。今後、後継者難に陥ったトラック運送会社の事業譲渡によりM&A件数がさらに増える可能性もある。
(2022年6月2日号)


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