「2024年問題」対策で荷主に包囲網
物流の「2024年問題」が1年後に迫り、荷主包囲網が敷かれつつある。軽油価格の高騰がトラック運送業の経営を直撃し、昨年の物価高倒産はトラック運送業が突出。価格転嫁の遅れも他業種に比べ際立つ。輸送力縮小が危惧され、トラック運送の効率化と労働環境の改善が喫緊の課題となる中、関係行政は法的規制も含めて荷主対策に本腰を入れ始めた。“物流危機”に立ち向かう物流政策は、「ホワイト物流」推進運動のような「機運醸成」から「規制」へと舵を切りつつある。
軽油高騰、価格転嫁難航でトラックに打撃
2024年4月から、トラックドライバーに時間外労働の上限規制が適用される「2024年問題」――。併せて実施される改善基準告示の改正により、拘束時間が短くなるため、「運べる時間」が少なくなり、人手不足が一層深刻化する。人手の確保にはドライバーの待遇改善が必要だが、原資となる価格転嫁は進んでいない。中小企業庁の調査によると、トラック運送業の価格転嫁状況は「0割」が3割を超えている。
新型コロナウイルス感染症による輸送需要の停滞に続き、エネルギー高騰と円安により軽油価格の高騰がトラック運送業の経営の打撃となった。東京商工リサーチによると、22年の「物価高倒産は「運輸業」の76件が最大で、全体の26%を占める。産業別を細かく分類した業種別(業種中分類)件数は、道路貨物運送業が69件で最も多く、燃料価格の上昇が資金繰りに大きな影響を与えている。
「2024年問題」への準備として、18年12月に改正貨物自動車運送事業法が公布され、トラック運送事業者に対する荷主の配慮義務や国交省による荷主への働きかけが規定された。しかし、荷待ち時間をはじめトラック運送業の負荷や非効率はいまだ解消されていない。また、20年4月には、運賃水準の引き上げを狙った「標準的な運賃」が告示されたが、事業者の届出は進んだ一方、実勢運賃は低水準が続く。
関係省庁が荷主対策を強化、法的規制も検討
これまで「ホワイト物流」推進運動などにより、トラック運送の効率化や負荷軽減の「機運の醸成」を図ってきたが、より強い規制に舵を切ろうとしている。厚生労働省は12月23日の改善基準告示改正に合わせ、都道府県労働局でトラック運転者の長時間労働の是正のため、発着荷主等に対して、長時間の荷待ちを発生させないことなどについての要請とその改善に向けた働きかけを行うことを目的とした「荷主特別対策チーム」を編成した。
また、国土交通省、経済産業省、農林水産省は、「持続可能な物流の実現に向けた検討会」の中間とりまとめ案において、既存法令を参考に「荷主企業が経営者層を中核として物流改善に取り組むことに資する措置」を提言した。併せて、荷主企業とトラック事業者の適正取引のため、貨物自動車運送事業法に基づく時限措置である荷主への働きかけ、標準的な運賃の延長の必要性も盛り込んだ。
公正取引委員会も監視の目を強めている。昨年5月には、労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇分の転嫁拒否が疑われる事案について荷主19名に対する立入調査を実施し、独占禁止法上の問題につながるおそれのあった荷主641名に対し、具体的な懸念事項を明示した文書を送付したことを公表。また、価格転嫁状況をモニタリングする重点立入調査の対象業種として「道路貨物運送業」を指定した。
規制強化で「誰が荷主か」も今後の論点に
荷主に対する規制が強まる中、新たな議論も浮上している。例えば、コンテナターミナルでの海上コンテナ車両の待機について、待機を発生させているのは、当該ターミナルなのか、そのターミナルを利用する船会社を選んだ荷主または輸送元請けであるフォワーダーなのか――という問題がある。CFS(コンテナ・フレート・ステーション)も含めて港湾地区の待機の責任所在をめぐり“荷主不在”となり規制の実効性が伴わなくなる可能性もある。
「持続可能な物流の実現に向けた検討会」では当初、着荷主に対する規制的措置がことさらにクローズアップされ、これに対し小売4団体(全国スーパーマーケット協会、日本小売業協会、日本スーパーマーケット協会、日本チェーンストア協会)が意見書を提出し、中間とりまとめ案の方向性修正された経緯もある。なお、待機が発生している小売りや卸の物流センターは、運営主体が3PL業者であることも多く、そうすると「着荷主」=「物流会社」となることも考えられる。
「冷蔵倉庫は荷受人・出荷人であっても貨物を差配できる発着荷主ではない」(日本冷蔵倉庫協会)との主張も見られる。トラックが待っていても荷主の出庫オーダーなしには出庫できないというわけだ。また、待機の要因のひとつに倉庫のオーバーフローがあるが、「『今日はいっぱいで荷受けできません』『その時間には納入できません』など荷主に言うには相当の勇気が必要」(倉庫会社)との声からも、「倉庫は貨物の差配権がない」ことがうかがえる。荷主包囲網をめぐって、「誰が荷主か」も今後の論点になってきそうだ。
(2023年1月31日号)