軽貨物の安全対策で検討会立ち上げへ=国交省
EC市場の拡大に伴う宅配需要増加を受け、軽貨物運送事業者が急増している。軽貨物運送業は「黒ナンバー」とも呼ばれ、1台から事業を開始できるため個人事業主を中心に新規参入が加速。事業用軽貨物車は2022年3月末に33万台となり、16年末と比べ約10万台増加した。その中で問題視されているのが、軽貨物による事故の増加だ。黒ナンバーは一般貨物自動車運送業、すなわち「緑ナンバー」に課せられている運行にかかる様々な義務が免除されていることから、安全対策が不十分との見方もある。国土交通省は、事故の増加に歯止めをかけるため、23年度から黒ナンバーを対象とした安全対策検討会を立ち上げる計画だ。
トラックは事故件数3割減も軽貨物は2割増
営業用貨物車の事故件数をみると、一般貨物運送と軽貨物運送を合わせた交通事故件数は21年に1万4031件だった。17年の1万7985件以降、18、19年は減少傾向にあり、20年、21年は横ばいで推移している。ところが、事故件数の内訳をみると、一般貨物運送は減少しているのに対し、軽貨物は増加している。
軽貨物の事故件数は、17年に3769件、18年に3968件、19年に3977件、20年に4017件と年々増加傾向にあり、コロナ禍による巣ごもり需要により、インターネット通販などによる宅配需要が急増した21年には過去最高の4616件となり、17年対比では22%増えた。一般のトラックの事故件数が34%減となっているのとは対照的だ。
人身事故件数に限ってみると、軽貨物は17年の419件から21年は548件と31%増となった。事業主体が個人事業主である場合も、貨物輸送の安全法令を遵守する義務があるが、できるだけ多くの配達件数をこなしたり、ノルマを果たすため法令違反となる長時間乗務を行うことが事故増加の要因になっているとの見方もある。
死亡・重傷事故が5年間で約8割増
こうした事態を受け止め、国交省も対策に乗り出している。昨年10月、軽貨物の事故増加を受けて注意喚起を促す文書を関係団体(全国赤帽軽自動車運送協同組合連合会、全日本トラック協会、日本経済団体連合会、日本通信販売協会、日本フードデリバリーサービス協会など事業者および荷主団体)に発出。
文書では、トラック運送全体は死亡・重傷事故が減少傾向にあるのに対し、軽貨物の21年の死亡・重傷事故件数は16年と比べ5年間で約8割増えたことを報告するとともに、追突や交差点での出会い頭の衝突事故が急増していることを指摘し、交通ルール遵守などの指導を求めた。
軽貨物事業者も点呼やドライバーへの指導・監督など適切な運行管理を行う義務があり、ドライバーの勤務・乗務時間についても関係法令を遵守するとともに、安全運転の遵守、点検整備の実施など要請。併せて個人事業主の場合も適切な運行管理や健康管理を自らが行う必要があるとあらためて周知した。
軽乗用車の参入も、安全対策の議論に注目
国交省の関係者によると「軽貨物事業者は運行管理者を選任する必要はないが、安全運行を行う義務はある。事業者自らが過労運転の防止、アルコール検知器を用いた酒気帯びの有無の確認を含め、乗務前後の点呼を行い、ドライバーに対する指導・監督を行わなければならない」。
個人事業主も本人が運行管理を行う必要があるだけでなく、勤務時間と乗務時間を定めた関係法令の遵守が求められる。軽貨物であっても「輸送の安全確保が必要である」ことは一般のトラックと同様であり、遵守事項は法令で定められている。
なお、軽貨物の市場は今後も拡大が予想される。昨年10月27日に軽乗用車も軽貨物運送で使用できるよう規制緩和が行われた。これにより、宅配需要をターゲットに新規参入する事業者数が今後さらに増加すると見込まれる。規制緩和後1ヵ月の昨年11月末現在、軽貨物運送を行う軽乗用車は全国で921台登録されている。
市場拡大に対応し、軽貨物を対象に配達スキルを学べる実地研修を提供する企業なども登場しているが、起業や契約の結び方などが中心で、安全や事故防止に焦点を当てたものはまだ少ない。国交省が新たに立ち上げる安全対策検討会で、実効性のある安全対策がどのように議論されていくかが注目される。
(2023年1月19日号)