【働き方改革】運輸労連が一般則適用求め「100万人署名」へ
7月上旬に開催された定期大会において、「自動車運転者に改正労働基準法の時間外上限規制の一般則適用を求める決議」を採択した全日本運輸産業労働組合連合会(運輸労連)――。
昨年、安倍内閣が「働き方改革実現会議」をスタートさせると、労働組合からも長時間労働の是正に向けた大きな一歩だと期待が高まった。しかし、3月末に公表された「働き方改革実行計画」では、トラックを含む自動車運転業務について、規制開始後5年の猶予期間が設けられたとともに、適用される上限時間も他産業に適用される一般則(年720時間以内)から大きくかけ離れた年960時間以内となった。さらに、この960時間には休日労働が含まれておらず、年間総拘束時間に置き換えると、現行の改善基準告示と何ら変わらない水準となっている。
これを受けて運輸労連は「このままでは過労死認定基準を超えて働くことを国が承認しているのと何ら変わらず、法改正を受け入れるわけにはいかない」として、9月末にも召集される臨時国会に提出される労働基準法改正案の修正に向け、100万人を目標とした請願署名を集め、国会提出することを決めた。
同じ人間で、残業の上限が違うのは納得できない
20日に記者会見した難波淳介委員長は、今回の署名活動について「運輸労連の結成50年で初めての行動だ」と述べ、2019年4月にも施行される予定の労基法改正案の修正に強い意欲をにじませた。難波委員長の発言は次の通り。
「3月28日に示された働き方改革実行計画では、突然、他産業にも適用される一般則年720時間以内ではなく、トラックなど自動車運転業務については年960時間以内となった。法施行後5年間という猶予期間については業界特性上、やむを得ない面はある。しかし、特に960時間に休日労働が含まれていないことは、あまりにもおかしい。働く人はどの産業であろうが、同じ人間。働く場所や業種が違うだけで、残業時間の上限が違うのは納得できない話だ」
「止まりつつある物流を止めないためにも、上限規制の一般則適用を求める決議を定期大会で採択し、請願署名を衆参の両議長に提出していく行動を展開することを決めた。運輸労連の組合員は13万人で、家族を含めれば50万人を超える。連合傘下の多産別の皆さんにも声を掛けながら100万筆の署名を集めていく」
「立場によって様々な思いがあるのかもしれないが、トラック運輸産業を発展させていくためには、若い人の就労意欲を高めていくことが何より重要。人がもっと集まる魅力ある産業にするためにも、他産業と同じ上限規制を適用しなければならない。また、トラック事業者は今後、取引環境の改善に取り組んでいくが、改善を通じて適正な運賃・料金を収受したのちに、労働者に再配分する――つまりサプライチェーン全体で生み出した付加価値を再配分していくことが大事だ」
短期決戦に――、臨時国会での法案修正に注力
また、小畑明書記長は「まさに働き方改革に始まり、働き方改革に終わった大会だった」と定期大会を総括しつつ、働き方実行計画の中身について「自動車運転業務が適用除外でなくなったことは一歩前進と言えるが、年960時間というのはあまりにもひどい。960時間に休日労働を含まないと、現行の年間総拘束時間である3516時間を超えてしまう。長労働時間の是正ということで始まった働き方改革であり、我々の期待も大きかった。しかし、蓋を開けてみると今より悪くなってしまったことは理解できない」と強く批判した。
さらに、「大会で組合員からの『黄色い血や緑の血ではなく、赤い血が流れている同じ人間。なんで俺たちが差別されるのか』という発言に我々の思いが代弁されている」と述べた。
ただ、改正労基法を修正して一般則を適用させるには高いハードルが待ち構えている。小畑氏は「おそらく臨時国会は9月末に召集され、10月に入ると労基法改正案の審議がスタートする。審議の際にどこまで修正できるかが勝負になる」とスケジュールを見通す。「請願署名を集め、衆参で各20人の国会議員をまとめられれば、国会内の常設委員会に付託される。かなりの短期決戦になる」(小畑氏)と述べ、運輸労連の各単組を通じて集めるほか、連合に加盟する他産別にも協力を要請していく。
難波委員長は、「先日、厚労省から脳・心臓疾患事案に対する労災補償状況が発表されたが、引き続きトラック業がワースト1だった。また、支給決定件数でもっとも多かったのが時間外労働時間100時間以上であり、まさしくこれが実態だ。つまり我々の業界こそ、しっかりした時間外労働の上限規制が必要」と述べ、「せめて休日労働を含めた形で960時間にしないと、トラック業界は若い人から見向きもされなくなり、物流が本当に止まってしまう。ドライバーが集まらないと廃業、労務倒産にもつながりかねない。トラック運送の経営者のなかにも、960時間に休日労働が含まれていないことがあまり知られていない」と警鐘を鳴らした。
(2017年7月27日号)