信頼を強みに鉄道貨物取扱量を拡大=栃木県北通運
栃木県北通運(本社・栃木県那須塩原市、中郷昌男社長)は通運会社やJR貨物、荷主企業、協力会社との強固な信頼関係を築くことで、鉄道貨物取扱量を拡大させている。既存案件の増送や新規案件の獲得に成功し、輸送量はコロナ禍でも増加傾向を維持。今後、環境負荷低減やドライバー不足を背景に、鉄道輸送へのさらなる需要が見込まれるとして、荷主企業への提案営業を進めるとともに、輸送の「三安」(安全・安心・安定性)を目指し、輸送品質の向上や内航船の併用も推進していく。
宇都宮タ、矢板ORSで通運事業を展開
栃木県北通運は、栃木県北地域の各駅通運会社が合同して1943年に発足。長く、矢板駅をメインに通運業を営んできたが、84年の宇都宮貨物ターミナル駅への進出、および矢板駅のORS(オフレールステーション)化を経て、現在は宇都宮タを中心拠点としている。矢板駅では、JR貨物の委託を受けてORSの運営も担っている。
通運専用車両は、自社および協力会社で計15台を日々運用し、取扱コンテナ数は月間900~1500基になる。取扱品目は発送で飲料や住宅建材、到着ではゴム製品が中心となり、ゴム製品の輸送では31ftコンテナも使用。このほか工業用品や自動車部品など、栃木県北地域の生産拠点を発着する荷物を輸配送している。
鉄道コンテナ取扱量は、コロナ禍にありながらも、発送・到着ともに右肩上がりの増加を継続。その要因を、岡崎稔・取締役営業部長兼通運部長は「荷主企業と通運会社、そして鉄道会社とのパートナーシップを大切にし、信頼を得ることで、県北地域の仕事があった時に『栃木県北通運に話してみよう』と頼ってもらえているのではないか」と話す。
最近では、大手ハウスメーカーが遠方地域の施工現場へ納品する建設資材のモーダルシフト案件に携わり、トラックの空回送解消とCO2排出量の大幅な削減を実現。その後も、同スキームが水平展開され、「荷主企業および鉄道会社と三位一体となって知恵を絞りながら作り上げた事例」と振り返る。
こうした新規案件では初回輸送時の立会いを欠かさず、作業性や安全性、荷主ルールを厳しくチェック。本稼働後も、中継貨物駅での作業確認やコンテナ途中開扉による荷姿確認、着通運および配達先などへの訪問ヒアリングを継続的に行い、品質向上とアフターケアに努める。
輸送中の品質事故発生時にも徹底した現場検証の上で荷主企業と協議し、連携して解決を図ってきた。一連の継続的な取り組みが、荷主企業の鉄道輸送における「三安」を支えるとともに、栃木県北通運への信頼と評価につながり「お客様がお客様を呼んでいただき、新しい仕事にも結びついている」という。
「鉄道で運べない」が新たな輸送サービスに
鉄道輸送の「三安」をさらに高めるために注目しているのが、内航輸送の併用だ。2020年7月に第2種貨物利用運送事業(内航海運)の事業計画と集配事業計画の変更を行い、千葉港~宇野港、千葉港~堺泉北港、茨城港~苫小牧港の3区間で内航輸送を可能とした。内航輸送は、メインの鉄道輸送と併用して平時より利用することで、災害時など鉄道の運休・遅延時に荷主企業の貨物を海上ルートで安定的に運べるようにし、BCP(事業継続計画)の観点からも、荷主企業の信用・信頼につなげる。
今期(22年3月期)は新たに大手酒類メーカーの内航輸送を受託。栃木県内のストックポイントから各地へ移送する商品をISOタンクコンテナで鉄道輸送しているが、商品特性上、青函トンネルを通過できないことから、北海道のみ内航輸送を提案し、実現に至った。
さらに、栃木県内に工場を持つ菓子メーカーでは、鉄道と内航船を用いた沖縄向けの複合一貫輸送を開始。環境負荷低減やドライバー不足のリスク回避に貢献するとともに、12ftコンテナで積替えなく納品先まで届けられることから輸送品質の向上にも寄与した。同メーカーでは路線便と貸切便の中間に位置する12ftコンテナの利便性を評価し、コンテナ単位を1ロットとした拡販を進めているという。
岡崎氏は「輸送障害や青函トンネル、沖縄向けなど『鉄道で運べない』ことで輸送の受託を諦めるのではなく、それをきっかけに新たなルートを作れば、今後、お客様に提案できる最適な輸送の選択肢を増やすことにつながる」と強調する。
輸送品質の向上がコンテナ増送に必須
コンテナの増送には輸送品質の向上が欠かせないとして、鉄道会社への協力も呼びかける。ひとつは、多様な荷姿の商品を安定した養生で運ぶため、コンテナ内フックの増設を要請。また、三方開きコンテナの側面扉にラッシングレールを埋め込めれば、養生によってコンテナ後部の隙間への製品落下を防げるという。一部貨物駅では、路面凹凸による構内フォークリフト作業時の衝撃も荷物事故の一因となっており、各貨物駅における定期的な路面調査と修繕の必要性も指摘する。
併せて、現在はコンテナの偏荷重を防ぐ「輪重測定装置」が貨車ごとの偏積可否となっており、異常測定時には該当する貨車に積載された全コンテナが次の駅で降ろされるため、偏荷重のないコンテナの荷物にも影響が生じている。そこで、受託前の偏積防止策として各貨物駅へのポータブル型重量計の導入なども提言する。
「より利便性が高く、バリエーション豊かなコンテナを供給してもらい、輸送品質が高められれば、通運会社が品質改善に割いていた時間を拡販に費やせるようになり、鉄道貨物輸送の拡大に寄与できる」と話す。
「チーム県北」で鉄道ニーズに応える
来期は新しい取り組みとして、栃木県内を中心に所有する同社倉庫を「ハブ」とし、鉄道やトラック、内航船による「スポークス」輸送を組み合わせた複合一貫物流を提案していく考え。内貨・外貨を問わず、ハブ倉庫への在庫移送および一時保管、同所からの輸配送を一貫して請け負うことで物流最適化と荷主企業の負担軽減につなげる。
他方で、増加する取扱量に対応できる輸送能力の確保も急務で、協力会社の拡大を図る。「『チーム県北』として一体となり、品質を維持・向上するとともに、協力会社に対しても安定した仕事を委託できるよう努めたい」と岡崎氏。全国の通運会社との連携も深め、通運業のみならずトラック輸送など多様な仕事で協力していく。「通運の仕事は一社で完結しないところが大きな特徴。パートナーは皆“仲間”であり、しっかりとコミュニケーションを取りながらいい物流を作り上げたい」と意欲を示す。
ドライバー不足や環境対応といった物流業界の課題に対し、鉄道は“未来につながる”輸送モードでもある。「こうした仕事に携われたことを幸せに思うとともに、まだまだ認知度の低い貨物鉄道の周知を進め、多様な荷主企業を訪問して潜在する課題に最適な物流を提案し、足りない部分はパートナーと協力しながら、この栃木県北の地で仕事をしていきたい」と展望する。
(2022年3月29日号)