メニュー

総拘束時間、個別規定で労使合意できず=厚労省/告示改正トラック部会

2022.01.27

厚生労働省は21日、改善基準告示改正を検討する専門委員会(委員長=藤村博之・法政大学教授)のトラック作業部会の第3回会合を開催した。14日開催のトラック・バス・タクシー合同の専門委員会で発表されたトラックドライバーの実態調査を踏まえ、労使双方が議論。年間総拘束時間について労組側が主張する「3300時間」に対し、使用者側が「3480時間」と主張し、合意は得られなかった。他の規定についても多くの点で考えが一致せず、次回の作業部会までに関係者間で協議することとした。

現行規定の維持、運用の自由度を要望

開会冒頭、部会長を兼ねる藤村委員長が挨拶し、改善基準告示の改正の目的はドライバーの過労死防止にあり、「他産業よりも長い労働時間の短縮を通じて若年層に選ばれる職場環境とすることが最重要」とあらためて確認した。

使用者側委員の全日本トラック協会副会長の馬渡雅敏氏は、長時間労働の要因のひとつである、待機時間問題に触れ、「行政が荷主に対して待機時間をなくすよう指導すれば、事業者も実質的に改善基準告示を守れるようになる」と指摘。

労組側の主張する休日労働込みの年間拘束時間3300時間は実態に合わず、「3480時間を目標に総拘束時間は減らしつつ、月単位の拘束時間や連続運転時間などの規定は現行を維持する」ことが現実的だとした。

使用者側委員として初参加の日本通運取締役執行役員の加藤憲治氏は「年間の拘束時間の時短を進めることには賛成だが、個々の規定については一定程度の緩和が必要」とし、年間の拘束時間を定めた上で、1日の拘束時間や休息期間、運転時間・連続運転時間などの規定について運用の自由度を認めるよう求めた。

それに対し、労組側委員の運輸労連中央副執行委員長の世永正伸氏は「年間拘束時間3300時間の実現は必須であり、拘束時間や運転時間も明確な規定なしでは過労死防止を実現できない」と強調。交通労連トラック部会事務局長の貫正和氏は「ドライバーの実態調査をみると、多くの事業者が3300時間内に収まっている。今後の議論は調査結果を踏まえて進めるべき」とし、個々の運用で左右されるようでは若年層の入職につながらないとの見方を示した。

違反の「裏付け調査」が荷主への〝抑止力〟に

14日の専門委員会では、労使ともにトラック分野の長時間労働の要因に荷主都合による待機時間の発生があるとの認識だった。藤村委員長は商慣行を見直さなければ、改善基準告示の改正を行っても守れない事業者が出てくることが容易に想像できると指摘。一方で、「荷主の無理な指示を(事業者側が)許容していることが問題ではないか」と投げかけた。

それに対し、馬渡委員は「直接の契約関係のない着荷主に対して待機時間をなくすよう申し入れをすることは実質的にはできない」と応じた上で、罰則付きの時間外労働上限規制の適用後、事業者が荷主都合による長時間待機が違反原因だと申告した場合、「対象となる荷主に対し、厚労省当局が裏付け調査を行ってほしい」と要請。加藤委員も賛同し、「長時間待機の抑止力になる」と主張した。

医学的なデータに基づく改善要請を〝突破口〟に

労組側の貫委員は「EUなどが定めている休息期間11時間」への改正を行うとともに、脳・心臓疾患による健康起因事故が増加傾向にある事態の詳細な調査を厚労省に要望した。馬渡委員は、「長時間待機はドライバーの健康阻害要因になりうると医学的データに基づいて説明できれば、着荷主に改善を要請する突破口が開ける」との認識を示した。

藤村委員長は、次回のトラック作業部会の開催までの期間に非公式な会合を含めて委員間で議論を重ねることを提案し、各委員から承認された。次回作業部会での改正原案の提示を目指す。
(2022年1月27日号)


関連記事一覧