メニュー

日販、配送コース最適化へ運送会社と連携

2021.10.26

日本出版販売(本社・東京都千代田区、奥村景二社長)は持続可能な出版配送実現に向けたサプライチェーン改革の一環として、配送コース再編に取り組む。運送会社と連携し、綿密なヒアリングとAIによるデータ分析を行い、首都圏エリアで先行して配送コースの最適化に着手した。荷主主導でかつここまで運送会社と踏み込み、取り組んでいる事例は珍しい。日販では非効率な納品条件の改善を進めながら、出版配送網の「オープン化」=出版物以外の商材でも活用されるプラットフォームへと再構築していく考えだ。

持続可能な出版配送実現へ改革に着手

日販は、輸配送問題に端を発する「出版流通崩壊の危機」に対し、出版社、取次、書店の業界三者が同じベクトルで持続可能な流通モデルをともに構築していく「出版流通改革」を掲げ、「業界三者のビジネスが成立し、かつ、紙の出版物を全国へ流通し続けられる状態」の実現を目指している。

出版流通改革は、物流協業や拠点の統廃合など「取次自助努力のコスト削減」に加え、「サプライチェーン改革」「取引構造改革」の3つが柱。このうち「サプライチェーン改革」では、2023年度中に持続可能な出版配送を実現することを目標に設定し、「配送コースの再編」と「配送のオープン化」を主要施策に位置付けた。

運送会社と連携し、配送コースの再編と配送のオープン化に向けた研究を春から開始。6月以降、これまでに出版輸送を担う全国の運送会社25社に延べ55回のヒアリングを実施し、納品の実態把握とともに意見や要望を聴収したうえで、“仮説”を立てた。

仮説では、「納品時間指定の緩和」「納品方法の効率化」「業量の標準化」が共通の課題とされ、「首都圏では取次の荷渡し時間を前倒しし、書店とCVSを同一車両で配送し、制約の少ない他商材を配送の終わった日中に配送する」「地方では幹線輸送のタイムフローを改善し、他商材を取り込む」ことが“打ち手”とされた。

この仮説を検証するため、日立製作所の協力のもと、首都圏の自家配送エリアを対象に配送コースを分析。現状272コース、約8000軒の配送について運送会社の車両・重量情報や積載率、配送順序、稼働時間を調査し、首都圏の先行稼働エリアでの配送最適化に関し、3つの方向性から実行策を立案した。

納品の「時間」「場所」「条件」の緩和を

具体的には、納品の「時間」「場所」「条件」の緩和だ。シミュレーションの結果、現状、納品時間指定のある店舗(商業施設、スーパー・スタンド、駅・図書館・大学など)のうち、朝に集中している納品時間の一部を前日の夜間に分散させることによって、配送コースの効率化が可能になると予測できた。

ただ、配送の稼働時間は「荷卸し時間」「移動時間」「待ち時間」で構成される。配送指定時間の制約がなくなっても短縮されるのは「移動時間」のみ。稼働時間の半分を占める「荷卸し時間」が短縮されない限り、配送コースを最適化しても効果は薄い。このため「時間制約の緩和」と「納品形態の変更」をセットにしたアプローチが必要となる。

具体的には、ビル・商業施設等で「指定場所に置く」「個別に用意した場所に置く」など時間指定や対面の制約を外した「置き配」をベストとし、それが難しい場合でも、搬入から店舗までの配達の時間を減らし、トラック荷卸し時間(滞在時間)の短縮を目指すこととした。

書店とCVSを同一車両で配送する案では、現状では取次の出荷が早いCVSを先に配送し、その後で書店分を配送しているが、取次の拠点で業務調整・組み換えを行い、書店分の出荷時間を繰り上げることによって、同一配送が可能になると判断した。

納品に関するすべての制約を緩和し、最も効率的な配送を実現した場合、1日あたりの走行距離を約3割、稼働時間を約2割、積載率を約10pt改善できると試算。配送網をオープン化し、同一車両や日中の時間帯などの配送余力を有効活用した文具・教育商材など、他商材の取り込みも想定している。

「希少なインフラ」、維持・発展がミッション

日販の出版流通改革の背景には、出版配送の維持に対する強い危機感がある。出版物の販売額は1996~7年のピーク時から半分以下に減少し、書店数も約半減。増加の一途を辿ったCVSもここ数年横ばいで推移する。配送数量の減少と配送件数の増加による非効率により出版配送を担う運送会社の事業環境は悪化し、値上げ要請が続く。

苦境にある出版配送だが、業界全体で一定のルールのもとで全国にほぼ毎日配送し、地方での共同配送スキームがすでに確立されているなど「希少なインフラ」としての価値も再認識されている。日販では出版配送網を維持し、他商材の配送を担うなど、配送網としての発展をミッションとしている。またトーハンとの物流協業や物流拠点機能の再編にも並行して取り組んでいる。

物流拠点機能の再編にあたっては、運送会社の課題解決にも目配りする。5月には、日販物流サービスおよび運送会社3社の共同デポを開設。日販の旧入谷営業所をリプレースし、都内近郊向け配送拠点に活用するもので、共同運営による拠点維持費用の削減や集荷・仕分・返品処理の効率化のほか、運送会社の作業員不足やコスト削減にも貢献していく。
(2021年10月26日号)


関連記事一覧