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【インタビュー】 NLJ代表取締役社長CEO 梅村幸生氏

2021.07.29

業種の壁を超えた物流シェアリングを実現――。長距離幹線輸送におけるドライバー不足が深刻さを増す中、日野自動車は2018年にNEXT Logistics Japan(NLJ)を設立。荷主企業や運送事業者など14社のパートナーと連携しながら、効率化された幹線輸送のプラットフォームづくりを進めている。構想段階から同事業に関わってきた日野自動車出身の梅村幸生社長に、NLJが目指すものや事業の現況、将来の方向性などを聞いた。
(インタビュアー/西村旦・本紙編集長)

物流業界の課題に正面から向き合う

――NLJを設立した経緯と目的を教えて下さい。
梅村 会社設立は2018年6月ですが、構想や企画はその1年前の17年初頭からスタートしました。当時、トヨタ自動車と日野自動車の合同プロジェクトで、CASE(Connected=コネクテッド、Autonomous/Automated=自動化、Shared=シェアリング、Electric=電動化)と呼ばれる、自動車まわりで大きく変革しつつあるテクノロジーを使って社会課題を解決していこう、そのためにどんなことができるのかについて検討を開始したことが出発点になっています。CASEを使って解決すべき社会課題には人流分野を含めて様々ありますが、その中でも課題としてのインパクトや深刻度が最も大きいと考えられたのがトラック幹線輸送の問題でした。ドライバー不足が進む中でも、とくに長距離幹線輸送における不足が深刻化しており、経済全体に与える影響も大きい。この課題に正面から向き合って解決していこうと考えたのがNLJを設立した理由です。

その際、将来的な姿として描いたのは、今後実現する自動運転技術を使って長距離幹線輸送で省人化を実現するということです。ただ、そのためにはいくつかのプロセスを踏んでいく必要があります。そこで会社設立後にまず実証実験を開始し、19年12月から事業を本格的に開始しました。

――当初はトヨタグループの日野自動車が運送事業に参入するとの受け止め方も一部にあったように思います。
梅村 確かに我々の存在が、既存の物流事業者にとってコンペティターだと捉えられてしまう懸念は当初からありました。しかし、考え方としてぶれてはいけないこと、コンセプトとしてもっとも大事にしなければならないことは、社会課題の解決に貢献するということです。そのためには、ノウハウだけを提供したり、コンサルティング的にアドバイスするだけでは不十分であり、本当の意味での課題解決にはつながらないのではないかと考えました。運送事業者や荷主企業と同じフィールドに立って、自分事として課題に向き合って解決していく必要があると思ったわけです。実証実験はとても大事ですが、ある意味では実験に過ぎないとも言えます。やはり、日々の実業を通じてしか分からない、見えてこないものがあると思っています。

ですから、ご指摘のような懸念はあったものの、それよりも一緒のフィールドに立って課題解決していくことのほうが大事だと判断しました。もちろん、そうした懸念に対しては運送事業者をはじめとする関係者の皆様に丁寧に説明させていただいています。

――その一方で、自動車メーカーに非常に近い立ち位置にいるNLJが運送事業を行うことの意義も大きいと思います。
梅村 そこは大きな意味があると思っています。当社は物流というフィールドの中で、母体である日野自動車がつくった商品(車両)を使ってビジネスをしているわけですが、その中で、本当に使いやすい車とはどういうものなのか、物流を効率化していくために車はどう変わっていくべきなのかといったテーマについて事業を通じて日々考えており、それを具体的にフィードバックしていけることの価値は測り知れないものがあります。

私自身、日野自動車で国内向けの商品企画部門に長く在籍した経験があり、車はこうあるべきといった考えを持っているつもりでした。しかし、いざ自分で荷物を運ぶ仕事に携わってみると、「ここは使いづらい」「何でこんな風になっているんだ」と、今までとは全然違う課題や問題点が次々に見えてきます。それを日野自動車に逐一フィードバックして次の開発に役立てていく。その意義は本当に大きいと感じています。

積載率を高めることに徹底的にこだわる

――19年12月から本格的な事業がスタートして約1年半が経過しましたが、現在取り組んでいる事業について改めて教えてください。
梅村 CASEを活用した社会課題解決を目指しており、大きく4つの観点から取り組みを進めています。まず、C(コネクテッド)では、様々な荷物、車両、ドライバーの情報を〝つなぐ〟ことで、1台のトラックに荷物を効率的に積み合せて幹線輸送する「混載」を展開しています。A(自動化)では、将来的な自動運転の実現を見据えながら、まずは25mダブル連結トラックを使った輸送の省人化に取り組んでいます。また、S(シェアリング)では、現在構築を進めている幹線輸送の枠組みにパートナーをはじめとした運送事業者にも参画いただき、よりオープンで幅広いネットワークづくりを進めていきます。さらにE(電動化)では、来年から大型燃料電池トラックを使用した幹線輸送の実証実験を開始する予定です。

つまり、様々な荷主企業の荷物を積み合せて効率化を図っていくのと同時に、将来的な自動運転による省人化、さらには燃料電池トラックによるカーボンニュートラルを実現していこうというのがNLJの事業コンセプトであり、ビジネスモデルです。

――幹線輸送のスキームおよび現況について教えて下さい。
梅村 現在、相模原センター(神奈川県相模原市)と西宮センター(兵庫県西宮市)の東西間を4台の25mダブル連結トラックで1日往復8便を運行しています。すべての便がダイヤグラムによって定時運行されているのが特徴です。また、豊田営業所(愛知県豊田市)に中継拠点を置いています。ドライバーは出資いただいているパートナーの運送会社から派遣で来ていただいていますが、全員が豊田営業所に所属しています。1回の勤務で西または東方面に一往復して豊田に戻ってくるという勤務体系で、働き方にも配慮しています。例えば、ドライバーのAさんが出社し、豊田からフルトレーラに乗って相模原に着くと、そこで荷物を降ろし、西宮に運ぶ荷物を載せて豊田に戻る。豊田に着いたら、今後はドライバーBさんの勤務が始まり、BさんはAさんが乗ってきたフルトレで西宮に行って荷物を降ろし、相模原向けの荷物を載せて豊田に戻るという勤務体系になります。

運んでいる荷物は、ビール・飲料や加工食品、菓子類などパートナーである荷主企業の製品が中心で、それら多様な荷姿の荷物を重量や容積などを勘案しながら積み合せることで、積載率を徹底的に高めることにこだわっています。

また、当社の幹線輸送のもうひとつの大きな特徴は、タイヤや冷凍食品といった混載することが難しい荷物をトレーラ単位で積載し、ダブル連結トラックの後部に連結して運んでいることです。積載率を高めると同時に、1人のドライバーが大型車2台分の荷物を運ぶことで効率性の高い輸送を実現しています。

――積載率に徹底的にこだわっているとのことですが。
梅村 効率化を通じて社会課題を解決することを会社の方針として掲げていますので、いかに荷室を〝お腹いっぱい〟にするかが事業の大きな肝になります。ただ、けっして簡単なことではありません。荷物の軽重のバランス、東西の荷量のバランス、さらには朝晩の荷量のバランスなど複合的な要素を組み合わせながら調整していく必要があり、現場は日々格闘しています。

例えば、ビールや飲料は重量が重く、菓子類は軽いものの容積が嵩張るなど、荷物それぞれによって特性が違います。その組み合わせのパターンをどれだけ増やせるかが積載率を高めることにつながりますので、多様な荷主企業に参画いただくことが重要になります。また、リードタイムを1日延ばすことを荷主企業の皆様にお願いするといったことにも取り組んでいます。こうしたやり取りを日常的に繰り返すことで、積載率を高める努力を継続的に続けていることが当社の事業の大きな特徴です。

――現状の積載率はどのくらいでしょうか。
梅村 当面の目標を70%に置いていますが、現状では60%台をキープできるところまできました。最近、日当たりベースでようやく70%を超える日も出てきましたが、今後はこのレベルをコンスタントに維持できるようにしていきたいと考えています。それが達成されれば、CO2排出量を個々に運んでいた場合と比べて3割以上削減することになります。

荷役作業の自動化にも挑戦していく

――運行をダイヤグラム化している以上、積み込みなどの荷役作業にあまり時間をかけることができません。しかし、高い積載率を維持するためには手間がかかります。このあたりで工夫していることはありますか。
梅村 荷役をいかに効率化するかも大きな課題です。まず、当社では前提として、荷役作業をドライバーから完全分離して、積み降ろし業務は各センターの作業員が担当しています。その中で、定時運行を維持するために、前段取りをしっかり行うことで荷役時間を極力短縮するようにしています。具体的には、フルトレーラが到着する前に積み込む分の荷物を養生材を含めて予めセットしておき、車両が到着してウイングが開いたと同時に両側から一斉に積み込むという方法をとっています。

――段取りが大事だということですね。
梅村 現状では有人のフォークリフトで作業していますが、将来的には無人フォークリフトなどで荷役作業を自動化していくことも検討しています。そのためには、支線から集まってきた荷物を幹線便に効率よく積載するためにどのような組み合わせが最適なのか、事前にプログラムされた通りに荷物を組み合わせることができるか――などを常に考えながら作業を行っています。具体的には、荷物の組み合わせによる積み込みパターンを作成し、そのデータに基づいて〝固まり〟として載せていくということですが、例えば、下段に積む荷物の天面が揃わない場合には、BOXパレットを使って規格化するといったことも行っています。こうした作業を今は人の手を中心に行っていますが、すべての情報をデータとして蓄積することで、将来的な自動化に備えています。

――確かに、こうしたオペレーション上の課題は、実際に業務に携わってみないと学べないことですね。
梅村 基本コンセプトとして、業種の枠を超えた多様な荷物を混載して運ぶことで効率性が高まるという考え方で取り組んでいますが、実際にやってみると、本当に色々な荷姿の荷物があり、それらをパズルのように組み合わせることの難しさは、実際の業務を通じてしか見えてこない課題です。

今後は、こうした積み込みパターンを作成する業務にAIを活用していくことも検討しています。荷物のサイズや重量、強度、他の荷物と混載してもいいか、あるいは使用するパレットが樹脂製か木製か――といった多様な条件をパラメータとして付加して、その中から最適な組み合わせを割り出していくという作業は、今後荷物の種類が増えれば増えるほど複雑化していきます。ですから、現段階から様々なデータをAIに学習させていくことが必要になってくるわけです。

業界の壁を超えた共同化の〝場〟を提供する

――日本におけるトラックの平均積載率は4割程度と言われていますが、これを7割に高めるには相当の工夫と努力が必要だということがよく分かります。
梅村 当社が目指している70%と世の中の平均値である40%のギャップの間に、物流業界が抱えている課題が集約されていると思います。例えば、飲料業界では長年、共同配送に積極的に取り組んでこられましたが、同じような荷姿・重量の荷物ばかりなので空いた空間をなかなか埋めることができません。他の業界も同様で、同業種内での効率化はほぼほぼ限界に達しつつあります。今後は業種の壁を超えて共同化に取り組んでいかないと、これ以上の効率化は難しい段階に来ていると思います。当社がそれを実現していく〝場〟になっていければいいと考えています。

――まずは、積載率を高めることにこだわり、その上で自動運転による省人化や電動化を進めていくことができれば、ドライバー不足やCO2削減といった社会課題の解決につながるということですね。
梅村 燃料電池トラックや自動運転については、日野自動車を含めたトヨタグループがまさに自分事として開発していかなければなりません。ただ、将来的に自動運転が実現して省人化されたとしても、積載率などの効率性が低いままでは本末転倒です。効果を最大化していくためにも、自動運転が実装される前にできることをやっていくことが大事だと考えています。

――来年から燃料電池トラックによる幹線輸送の実証走行が始まります。
梅村 大型車の分野ではすでにバスで実用化されていますが、カーゴ系の大型トラックとしては初めての取り組みとなります。NLJはパートナーであるアサヒホールディングス様とともに実証に参画しますが、我々が想定している航続距離500㎞程度の幹線輸送にも十分耐えられる性能を有しており、それを実際の業務を通じて検証していくということになります。

燃料電池トラックは、政府が目指しているカーボンニュートラルの実現にも大きく貢献するものです。現状、我々は荷物の混載輸送を通じてCO2を従来比で3割以上減らしていますが、さらに燃料電池トラックで運ぶことによってさらなる削減が実現できます。効率化と電動化の両面からカーボンニュートラルへの対応を進めていきます。

シェアリングの枠組みをさらに広げる

――現在の4車8便の運行体制を今後増やしていく計画はありますか。
梅村 当然増やしていく考えです。ただ、今後はNLJが保有する車両を増やすのではなく、パートナーをはじめとした運送会社に車両を持っていただくことで、共同化スキームをシェアリングしていくことを考えています。また、荷主企業のパートナーを増やすことにも力を入れていきます。現在の荷物は飲料、ドライ食品、冷凍食品、自動車部品、タイヤなどですが、世の中にはまだまだ多様な荷物があります。荷のバリエーションを増やしていくことは、積み合せのパターンが複雑化して難しい部分もありますが、さらに積載効率を高められるメリットのほうが大きいと思います。また、当社にとってのノウハウの蓄積にも寄与します。

――NLJにとっては、事業を通じて課題が見えること自体が収穫だとも言えますね。
梅村 その通りです。やはり事業という形にしてみない限り、何が問題かさえも分かりません。事業を通じて課題を〝見える化〟していく――。NLJという会社の存在意義はそこにあるのだろうと思います。自動運転や電動化についても、誰もが「こうなればいい」と思っていますが、実際の仕事で使うことで課題を〝見える化〟し、その課題をひとつずつクリアしていく――そのプロセスを繰り返すことが社会実装につながっていく道だと考えています。

――ダブル連結トラックは現在のところ走行区間が制限されていますが、規制に関わる部分で要望することなどはありますか。
梅村 現在の走行区間は高速道路が中心ですが、将来的にもっと走れる区間が増えて、東北から九州まで運べるようになることが理想です。それをオープン・プラットフォームとして束ねることで幹線輸送の大きな枠組みをつくることができればと考えています。

ただその一方で難しいのは、ダブル連結トラックが現時点における有効な〝解〟であることは間違いないとして、果たしてそれが3年後、5年後もそうであり続けるのかという問題があるわけです。現在の自動車のテクノロジーはまさに日進月歩です。今後、自動運転技術がレベル3、レベル4、レベル5と上がっていく中で、ダブル連結トラックがもっとも有効なソリューションでなくなってしまう可能性もあります。例えば、単車がクロスドック拠点に集まって3台、5台の隊列を組むことができるようになれば、ダブル連結トラックで運ぶ必然性は薄れてしまいます。さらに、その先に単車ごとの自動運転が可能になれば、将来的に隊列を組む必要すらなくなってくるかもしれません。当社は現状で実用化されている技術という観点で、ダブル連結トラックを使った事業からスタートしましたが、それが今後、どのような形に変化していくかを常に頭の中に描いていく必要があるわけです。

――テクノロジーの進展を見据えながら、常に色々な想定を考えておく必要があるわけですね。
梅村 そうです。ですから、仮にダブル連結トラックが現状において便利だからといってたくさん購入してしまうと、何年後かに自動運転が実現した時には陳腐化してしまう可能性も考えられます。そうなってくると、今後は車の持ち方という概念を変えていく可能性が出てきます。例えば、定額のリース料を払えば、あるタイミングで自動運転トラックや燃料電池トラックに替えることが可能なサブスクリプションのようなビジネスモデルが必要になってくるかもしれません。〝車〟という視点で考えていくと、今後10年くらいの期間で様々なことが大きく様変わりしていくと思います。そこについても、我々をはじめとする自動車メーカーは時代に合ったビジネスのあり方を考えていくことが大事になっていきます。

スピード感と丁寧な調整の両立を

――トラックの「2024年問題」については、どのようにお考えでしょうか。
梅村 ドライバー不足問題の本質は、単純に運ぶ量に対してドライバーの絶対数が足りないということです。そこに、積載効率の悪さなどが加わり、さらに24年4月からはドライバー1人あたりの労働時間がさらに制限されるということです。状況は非常に深刻だと思っており、このままでは需要に対して輸送キャパシティが2~3割は確実に不足します。これは言い換えると、工場に2~3割モノが届かなくなる、あるいはつくったものが2~3割出荷できなくなるということであり、メーカーや流通各社が事業を継続する上で決定的に大きな問題だと認識しています。今後は、運賃をいくら積まれても、運ぶことができない運送会社もたくさん出てくるでしょう。そうした深刻な状況が目の前に迫っているにもかかわらず、社会全体の危機意識が少し足りないように感じます。

――NLJとしては、かなり前から〝運べない危機〟を強く意識していた。
梅村 2024年問題や、将来のカーボンニュートラルに向け30年にCO2排出量を13年度比で5割削減するという目標は、まさに〝待ったなし〟の課題です。ですから、当社の現状についても、当初思い描いていたスピード感が出せていないという意味で焦りを感じています。ただ、その一方で、将来的な理想像や〝あるべき姿〟を描きつつも、目の前の一歩、二歩を確実に踏んでいくことも大事です。例えば、積載率の向上といった地道な努力を怠って近道を選んでも、真の意味での社会課題解決にはつながりません。また、ステークホルダーの誰かが損をしても、ビジネススキームはうまくいきませんので、丁寧な調整は不可欠です。そういう意味では、スピード感と丁寧な進め方という2つの難しい課題の間で常に悩んでいますが、設立当初に掲げた理念を見失うことなく前に進んでいきたいと思います。
(2021年7月29日号)


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