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返品抑制へ、外装破損判断にAI活用=サントリーBF

2021.01.19

サントリー食品インターナショナル(サントリーBF、本社・東京都中央区、齋藤和弘社長)は、AI解析を活用した製品段ボールの破損判断の標準化に向け、取り組みを推進している。不要な返品を抑制し、物流現場などの負荷を軽減するのが狙いで、現在は富士通と協働し、システムの精度向上やグループ内での実運用に向けた実証実験を実施している。将来的には、他のメーカーや卸、小売と共同で各物流現場などでの破損判断基準を統一して業界全体に水平展開し、輸送・作業・食品をはじめとした様々なロス削減など社会課題の解決を目指していく。

倉庫担当者間の基準のズレが返品の一因に

サントリーグループでは、工場から倉庫に商品を出荷する前工程の検品作業において、現場担当者が写真やイラストによる貨物毀損範囲の判断基準に基づき、外装段ボールの汚れや破れなどの判断を下している。しかし、出荷可否が微妙な状態の商品については、最終的に現場担当者自身の経験に頼ることになり、商品の受け側となる倉庫担当者との間で判断のズレが発生し、持ち戻りや手直しとなる場合がある。

さらに、得意先である卸や小売にも農林水産省・経済産業省・国土交通省主催の「飲料配送研究会」の汚破損判断基準に基づく商品の受け入れを要請しているものの、得意先の現場担当者や業務を受託している物流会社まで周知が行き届いていないことが多い。小売りは消費者の目や各店舗での陳列時の荷崩れ等のトラブルを意識するため、担当者間の判断基準のズレが大きく、返品の確率が高まるという。返品になると、現場担当者間でのやり取りや手続き等が必要となるため、ドライバーの待機時間が増加して輸送ロスが発生。商品自体には破損がないため、包装し直して再出荷しても、すでに製造日が新しい商品が先に納品先に届く「ロット逆転」が起きた場合は、商品を廃棄せざるを得ない。食品ロスに加え、再検品や再包装に伴う作業ロスも課題となる。

「レコメンドモデル」で出荷可否を判断

これら一連のロス削減に向け、同社は輸送・作業・食品ロス削減活動に賛同した富士通とAI開発を担当する富士通クラウドテクノロジーズと連携し、2019年9月からAI解析を活用した共同研究を開始。「判断基準のテスト版の作成、システム精度の向上研究」、「サンプル倉庫現場での運用確認」、「運用倉庫現場の拡大」の3ステップを経て、将来的に業界全体の製品段ボールの破損判断基準の標準化を目指す。現在はサントリーグループ内で行うステップ1のPoC(Proof of Concept=概念実証)の段階で、これまで撮影した製品段ボールの画像をデータベースにアップロードし、AI解析のテストシステムを開発した。

現場担当者は専用のタブレット端末を使用して破損が疑わしい段ボールの写真を撮影し、AIの「領域抽出モデル」により、段ボールの破損部分を抽出する。その後、AIの「レコメンドモデル」が破損部分を抽出した写真の状態と類似している過去の画像をデータベースから5枚表示し、それらの画像が過去に出荷可の判断を受けていた場合は、撮影した段ボールも出荷可とする。過去の担当者の判断のバラつきにより、画像5枚のうち、3枚が出荷可、残り2枚が出荷不可と表示される場合は、最終的に現場担当者が抽出した写真と最も類似している画像を選定し、その判断結果を基に出荷可否を判断する。画像の過去の破損判断そのものが間違っている可能性もあるため、現在は判断の見直しを進め、「レコメンドモデル」をはじめとしたシステム精度の向上に取り組んでいる。

業界全体の標準化が、より大きな効果を生む

19年の同社グループにおける返品・持ち戻り数量実績と判断ミス率から一連のロスの最大モデルを計算すると、年間約1100万円分のコストがかかると試算される。しかし、必ず発生するとは限らない一連のロスにおいて、サントリーグループ単独のモデル計算分だけでは、判断基準の標準化の効果は限定的。生産・SCM本部SCM部の上前英幸部長は「社会全体の基準共通化とセットで実施することで、より大きな効果が期待できる」と強調する。

判断基準の統一、同業他社との展開を優先

今年1月からは、ステップ1のシステム精度の向上と並行してグループ内における現場実験にも取り掛かる。また、同業他社や得意先である卸にも共同研究の協力を要請するなどサントリー以外での現場への導入も目指す。「同業他社との共通化は将来の物流活動において意義は大きい」と上前氏。現状では、卸や運送事業者からすると、サントリーと同業他社の商品を共同輸送する際に事故が発生し、商品に破損が起きた場合、同じ破損状態でも両社ごとで破損判断基準が異なる。メーカーごとの判断の差を統一化することで、運送事業者は商品破損時の弁金発生の抑制につながり、卸は同じ基準で商品が届くため、より商品の状態が明確化される。

次の段階では、メーカーと卸側でも判断のバラつきがあるため、卸側の基準も取り入れるなど破損判断の標準化に向けた実証を共同で進め、段階的に小売側にも協力も求めていく方針だ。

最終的な目標について上前氏は、「新型コロナで生活様式が変わり、商品が直接外装のまま消費者のもとに届く機会も増えている。消費者の選択が小売、卸、メーカーの判断基準に影響を与えるため、業界の基準への準拠を呼びかけて理解していただき、世の中全体がひとつの標準で回せるようになれば、返品や持ち戻りによるロス発生を大幅に削減できる」と展望する。

スマホアプリで誰でも利用可能なシステムに

現在はサントリー社内における破損判断のテストシステムとして、専用のタブレット端末を使用しているが、同業他社や卸などへの展開が見込めれば、スマホアプリでの運用も視野に入れる。アプリを起動するとカメラが破損箇所を特定し、出荷可否を判定するもので、誰もが簡単に利用できる商品破損判断の基準ツールとする。

SCM部の玉井浩課長は「物流業界の人材不足が加速し、倉庫では外国人の雇用も進んでいるが、文化が異なる方々に写真と絵だけで破損の基準を理解させるのは難しい。また、新任者への教育の手間も課題だ。スマホを使用してAIが判断することで、各現場の担当者間で揉めることがなくなり、検品やトラック待機時間を削減できる」と期待を語る。
(2021年1月19日号)


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