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IoTパレットシステムで物流を効率化=AGC

2023.02.14

AGC(本社・東京都千代田区、平井良典社長)は、IoT技術を活用したパレット管理システムを構築し、物流効率化を推進している。ガラス輸送用パレットにデバイスを設置し、位置情報や稼働状況をリアルタイムに可視化。パレットの位置、在庫、滞留情報を輸送計画に反映することで、積載率の向上や輸送効率化によるCO2削減につなげている。今後も最新技術を活用しながら管理レベルの向上を図り、物流の課題解決をリードしていく。

動態管理が困難、回収効率や紛失が課題に

AGCでは建築用、自動車用、電子用のガラス、化学品用のパレットを扱っており、中でも建築用のリターナブルパレットは製造・用途に合わせた加工を経て、不特定多数のユーザーに納品されるため、サプライチェーンが複雑。従来、AGCから出荷後のパレットについては動態管理が難しく、パレットの回収が非効率となっていた。

具体的には、納品先からパレットの回収依頼を受け付けると、積載率が低くてもトラックを手配して回収せざるを得ないこともあった。また、パレットの所在地を確認するために、ガラス加工会社、倉庫、納品先への問い合わせ業務が発生するなど、間接部門の工数もかかっていた。

パレットの紛失も課題だった。板硝子協会によると、国内で流通する建築用ガラスパレットおよそ10万枚のうち約1割が毎年紛失している実態がある。建築用ガラスパレットは通常のパレットに比べ製作費が高額で、紛失により追加の購入コストがかかるほか、パレット不足が生産計画や出荷計画に影響を及ぼすこともあった。

パレット位置情報、移動履歴、滞留情報を可視化

新たな取り組みとして、2020年3月から本格運用を開始したのが、AGCが独自に開発した「パレットIoTシステム」。アルプスアルパイン製の物流資材管理用IoTモジュール「物流トラッカー」をパレットに取り付け(写真)、デバイスから送信される情報を地図上に一覧表示し、パレットの位置情報、移動履歴、滞留情報を可視化する。

「物流トラッカー」の通信方式には、LPWAのうち、屋内でも電波が到達しやすく低価格・低消費電力・長距離伝送が可能なSigfoxを採用。パレットが特定の動きをした時や一定の時間が経過するごとに計測し、物流資材の所在管理に必要最低限の処理に集約することによって低消費電力が可能で、約10年の無充電連続稼働を実現している。

対象パレットは1400台から3万台に拡大

AGCでは「物流トラッカー」を日本で初めて採用し、第1弾として建築用ガラス向けの1400台のパレットを対象に運用開始。パレットの位置・在庫・滞留情報を把握できることで、パレット回収の際、輸送会社が積載率を考慮した積み込みや効率的なルート選択を行えるようになり、物流効率化とCO2削減につながっている。

従来は発荷主、輸送会社、着荷主間でパレットの在庫を電話で確認していたが、システム導入以降はこうした確認工数を大幅に削減。滞留情報が明確になったことで早期回収など在庫回転率も向上。紛失の防止のほか、パレット不足に伴う製品の一時仮置き、追加パレットの購入、生産計画や出荷計画の変更の削減にも貢献している。

サプライチェーンが複雑で高額な建築用のガラスパレットから運用を開始したが、建築用の他のパレットや、自動車用、電子用、化学品用にも対象を拡大。国内だけでなく欧州やアジア地域への導入も進め、「22年までに対象パレットを3万台に増やす」とした当初目標をすでに達成した。

共同物流やマッチング、シェアリングにも期待

他業界でもパレットの回収や紛失に悩む企業は多く、物流資材の位置情報管理に対する潜在的ニーズが見込まれる。これまではデバイスのバッテリー寿命が短いこと、管理のための追加作業の発生、システム構築費用負担などがハードルとなっていたが、AGCではこうした課題をクリアした新技術を先駆けて導入した。

アルプスアルパイン社製以外のデバイスを活用したパレットIoTの仕組みをリリースするシステムベンダーも登場し、今後は「業界標準」となる可能性もある。仕組み自体は汎用性のあるデバイス・通信・クラウドで構成されているため、高額なリターナブルパレットを導入している他社への横展開のハードルは比較的低い。

IoT化の普及によりデバイスや通信費が安価になっていくことも期待される。AGC資材・物流部プロフェッショナル(Industrial Engineering)高橋正人氏によると、「将来的にはパレット情報が企業間、異業種間で共有化されることによって、共同物流やマッチング、シェアリングといった新たなビジネスモデルに発展する可能性も考えられる」。

なお、AGCでは管理するパレットの種類や運用方法に応じてRFIDやQRコードなどSigfox以外の技術も活用。「パレットの管理レベルが向上し、輸送の効率化などSDGsにもつながっている。当社は『DX銘柄』にも指定されており、今後も最新技術を使って効率化を進めていきたい」としている。
(2023年2月14日号)


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