メニュー

注目集まる“商品を動かさない物流”=三陽商会

2021.01.14

サプライチェーンの持続可能性が重要視される昨今、三陽商会(本社・東京都新宿区、大江伸治社長)が東京納品代行(当時・センコー)とともに、同社の市川ファッションロジスティクスセンター内「東日本商品センター」(千葉県市川市)で構築した“商品を動かさない物流”に注目が集まっている。庫内に品質検査や輸入通関、EC物流、さらには百貨店納品代行会社の配送ターミナルを備えることで拠点間の横持ちを廃し、輸送コスト削減とリードタイム短縮を実現。品質面においても、ハンガー荷姿のまま一貫して格納・搬送できる独自の「スピードレールシステム」を確立することで、“早く・正確で・安価で・商品にやさしい”物流を具現化している。

5・5万㎡の大型拠点に国内の全商品在庫を集約

市川ファッションロジスティクスセンター(写真)は延床面積5万5000㎡、6階建て、幅180m×奥行き60mの大規模物流拠点。施設にはランプウェーを備え、トラックバースは1階両面と3階に設ける。場所は京浜港に近く、輸入貨物の輸送に優れるとともに、主要納品先である百貨店や商業施設へのアクセスも良好。JR二俣新町駅から徒歩圏内にあり、センター勤務者が通いやすい立地であることも用地を選ぶ際の決め手となった。
庫内では主に三陽商会の商品全般を扱い、同社の代名詞といえるコートやスーツ、アパレル雑貨などを保管。同所から全国の百貨店やショッピングモール、アウトレットモールなどへ商品が出荷されるほか、EC商品の保管・発送、子会社のサンヨーアパレル、また、ルビー・グループの物流も担う。
開設は2008年8月。三陽商会では02年より、業務改革の一環として物流の外部委託と物流センターの統合に着手し、アウトソーシング先に東京納品代行(当時・センコー)を選出するとともに、08年には全国13ヵ所の物流センターを東日本商品センターと大阪南港の東西2拠点へ集約した。その後、10年6月に同センターと、「潮見商品センター」(東京都江東区、現在の東京納品代行ファッションロジスティクスセンター)の東日本2拠点体制とし、14年11月からは東日本商品センターに一本化されている。

ハンガー荷姿による一貫物流を具現化

東日本商品センターの大きな特徴が、同一施設内にファッションアパレル物流に必要となる機能が集約されている点だ。国内外の縫製工場から同センターに入荷した商品は、施設内に構えるロン・リバイス社の検査工場で品質検査を受けられる上、保税蔵置所も構えることから輸入通関業務も横持ちなく行える。

さらに、1階にはセンコーグループで百貨店納品代行業務を担う東京納品代行とアクロストランスポートの配送ターミナルが入居し、上層階の倉庫でピッキングされた商品を1階へ搬送するだけで出荷作業が完了。出荷締め時間を後ろ倒しできるとともに、商品を複数拠点間で動かさずに店舗まで納品できることから商品ダメージの低減にもつながっている。

品質面では、コートやスーツといったハンガー荷姿の重衣料が多いことから、倉庫内に独自の設備「スピードレールシステム」を導入する。庫内全体にレールを設置し、ハンガー商品を「トロリー」と呼ばれるレール上の搬送治具に掛けることで庫内を手動で容易に動かせる仕組みで、階層間の移動はトロリーを「Vラインコンベア」が自動搬送し、棚入れもハンガーのままラックへ移し替えられる。

縫製工場から東日本商品センターへの輸送もハンガー荷姿で行われ、入出荷時にはトラック内までレールを伸ばせるため、ハンガー商品の品質を維持しながら作業員の負担なく搬出入作業が可能。保管についても、1階と2階事務所を除く各階に「ハンガーラックシステム」を取り入れることで、ハンガー掛け商品の保管効率を向上しており、「お客様の手にシワなく商品をお届けできるよう、考えに考え抜いたオペレーションとなってる」とSCM統括本部物流部の水野貴則部長は話す。

店舗とECの“融解”を物流から支援する

新型コロナウイルスの感染拡大はアパレル・ファッション業界全体に影響を及ぼし、売上の減少と商機を逸した春物・初夏物の在庫負担が大きな課題となっている。嗜好品に位置づけられる衣料品への支出意欲は今なお戻らず、需要回復には時間が掛かるとの見方も強い。

こうした状況下における物流の役割として、流通統括課の森野保則課長は「まず現状に則した物流オペレーションを確実に遂行することが重要」とした上で、「今後は『新しい生活様式』に対応したBtoC物流の強化や、D2C(Direct to Consumer)、O2O(Online to Offline)など新たな販売形態にも物流を常に最適化させていく必要がある」と指摘する。

実際、同センターにおけるEC商品の在庫量は12年3月の取扱開始時の約10倍まで拡大し、出荷量も急増している。三陽商会では店舗と倉庫、ECの在庫がデータ連携され、EC在庫が欠品した時に店舗在庫で対応できるなど、倉庫と売場を一体とした在庫管理が可能なことが強みのひとつであり、「商売の仕方が変わる中、物流も日々進化させ、投資ありきではなく“工夫”の力でリアルとWebの壁を取り払えるよう考えていきたい」と話す。

業界と連携しながら環境やホワイト物流に対応

三陽商会では、新宿区四谷の本社ビルと併設する「ブルークロスビル」も物流を考慮した設計となっている。物流センターとの商品移動や工場・商社など取引先との荷物のやり取りが多いため、敷地の高低差を利用してビル北側に荷捌きエリアと4t車が接車できるトラックヤードを設け、円滑に搬出入できるようにしている。

全社的な物流への意識は高く、19年9月には「ホワイト物流」推進運動の自主行動宣言も提出。東日本商品センターでも、ピッキング指示の見直しにより出荷時間の前倒しを実現し、「物流のことを考えて出荷を早めていただき、非常にありがたい」と東京納品代行市川支店市川FLCの会田友晴センター長も話す。

環境に配慮した物流にはいち早く着手し、日本アパレル・ファッション産業協会(JAFIC)の百貨店統一リユースハンガーは1997年の運用開始時から導入するほか、03年12月より店舗納返品の梱包資材「折り畳みコンテナ」の利用を開始。現在は、環境配慮型の物流資材への移行や共同購入も検討する。
JAFICの出荷・集荷作業における標準EDI「JAICS‐L」も運用し、梱包資材サイズも標準化して「アパレル企業共同開発標準段ボール箱」を継続利用。アパレル企業との共同配送にも参加し、業界として納品リードタイムの緩和や運行定休日の設定、夜間検品業務の緩和も実行していく考えにある。

その上で、さらなる物流業務のシステム化や自動化、省人化によるコスト合理化も視野に入れるが、「実現には標準化が欠かせない」と水野氏。業務の標準化・平準化を進めながら、「人の手と最新鋭の物流機器によるハイブリッド物流が当社にとって最適な形であり、現場作業の負担軽減や高齢化に適した“高齢者にやさしい物流”を作りたい」と展望する。
(2020年1月14日号)


関連記事一覧