【トラック輸送】政府の「働き方改革」は“物流”の視点が抜けている
政府がまとめた「働き方改革実行計画」で、トラックドライバーなど自動車運転業務の時間外労働の上限規制が「一般則施行の5年後に年960時間(月平均80時間)以内」とされた。他産業に適用される「720時間」から大きく後退した“決着”に、運輸労連や交通労連などの労働組合は反発を強めている。組合側は「休日労働が960時間の別枠で取り扱われており、時間外労働と休日労働を拘束時間に置き換えると、現行の規則である改善基準告示と何ら変わらない水準が維持され続ける」として、「トラックドライバーは過労死しても仕方がない業種として、政府の目標から切り捨てられた」との厳しい論調も出ている。
そうした見方に加え、今回の実行計画に対しては、「トラックドライバーだけに焦点が当てられており、物流やサプライチェーンをトータルで見る視点が抜け落ちている」という批判も寄せられている。計画ではトラックドライバーが960時間となった一方で、倉庫作業員などトラック以外の物流従事者については他産業と同じ720時間という上限規制が適用され、猶予期間も設けられていない。
この点について、ある3PL事業者の担当者は「物流は輸配送や入出荷といった一連の作業がシームレスにつながっている。ドライバーの長時間労働が温存されれば、当然、倉庫側にもしわ寄せがくる。サプライチェーンの中で一部分だけ規制の上限値が違えば必ず“歪み”が起こってくる」と指摘する。
●トラックの時短が進まなければ倉庫の時短も難しい
別の大手3PL事業者も「トラックドライバーに5年間の猶予期間を設けることは実態的にもやむを得ない」としつつも、「上限規制は一律で720時間とすべきだった。例えばトラックが延着すれば、荷受け側の倉庫も労働時間が長くなるなど、お互いが密接に関係している。双方が同じ“物差し”であれば、連携しながら時短に向けた生産性向上にも取り組めるが、目指す目標が違えば、ギャップが埋まらなくなってくる」との懸念を示す。
さらに別の物流大手の担当者も「今後、法改正が決まれば倉庫作業者の残業規制が待ったなしで始まる。しかし、トラック側の時短が進まなければ倉庫の時短もなかなか進められない。そこを無理にでも進めようとすれば、要員増加による人件費の上昇や省力機器などへの投資は避けられない。しかし、そのコストアップを荷主はなかなか認めてくれないだろう」と、料金転嫁への難しさに危機感を示している。
冷蔵倉庫関係者も「冷蔵倉庫の側からみると、トラックの冷蔵倉庫への延着が時間外労働の増大を招いているという実態がある。トラックだけでなく、物流業全体として一律に猶予期間を設けて欲しかった」としている。メーカー系物流会社の担当者も「トラックの長時間労働の背景には集荷先や納品先での手待ち時間があるとされているが、これは裏を返せば倉庫や物流センターの作業員も同じ状況だということ。猶予期間の是非はともかく、物流関係は一律で同じ上限規制にすべき」と語る。
●建設業は一律に規制、なぜ物流だけが…
これまで自動車運転業務と並んで現行規制の適用除外とされてきた建設業では、5年間の猶予期間が設けられたものの、猶予後は他産業と同じ720時間が適用されることが決まった。ある物流業界関係者は「建設業の場合、現場作業員だけでなく、事務作業者など全員に同じ上限規制が適用される。なぜ、物流だけがバラバラなのか…。物流やサプライチェーンを俯瞰する視点が欠如している」と批判している。
(2017年4月20日号)