マッチング率6割の裏に“人の手”=トランコム
求貨求車業界でシェア1位を誇るトランコム(本社・名古屋市東区、恒川穣社長)。1日の貨物情報は1万件、空車情報は1万2000件に上り、マッチング件数は6000件に達する。圧倒的な情報量とマッチング率を支えるのが「アジャスター」と呼ばれるスタッフだ。一般的な求貨求車システムはWeb上などで貨物と車両の情報を引き合わせて完了するが、トランコムのアジャスターは文字通り、車と貨物を人の手で“アジャスト(調整)”する点が大きく異なる。
中ロット貨物やドレージのマッチングも好調
トランコムの求貨求車サービスは調達、生産物流における幹線輸送の手配が中心となる。全体の8割が、スポットの輸送需要と帰り便の空きトラックの引き合わせで、定期便の車両手配は2割ほど。求貨側を含めた運送会社の取引社数は1万3000社に上り、トラック運送事業者の約2割が同社のサービスを利用していることになる。事業売上高は前期まで10年連続の増収を達成し、今期は新型コロナウイルス感染症の影響を受けて出足こそ振るわなかったが、「底を打った印象はある」と上林亮常務は話す。
最大の特長が、先述の「アジャスター」だ。全国38ヵ所の「情報センター」(写真は東京情報センター)では、総勢670人のアジャスターが電話を使い、日々、車と荷物をマッチングしている。オンラインチャネル「みんなのコンパス」も用意するが、実際にはマッチングの98%をアジャスターが“人の手で”担う。約1万件の情報の4割は、アジャスターのアウトバウンドコールによるもので、例えば、直近に荷物がなくても「来週になれば新製品が出る」「来月のセール前に大きな出荷がある」といった将来のデータを積極的に集め、マッチする便を運行する運送会社にいち早く輸送を提案する――。こうした営業活動が、高い成約率を実現している。
アジャスターの業務を支えるのが、運送会社と荷主の情報を蓄積した「コンパス」と呼ばれるシステム。各荷主企業、運送会社、さらにはドライバー一人ひとりのマッチング履歴や過去の取引案件の詳細がまとめられており、アジャスターはコンパスのデータをもとに最適なマッチングを判断する。以前あった輸送案件が再び依頼された場合などには、コンパスの履歴から、前回輸送を担当したドライバーを最優先で引き当てたり、初めての案件でも類似した輸送の経験豊富なドライバーをマッチングすることで高品質な輸送サービスにつなげている。
もうひとつの特長が、「専属車両」の存在だ。協力会社のトラックをトランコムが借り上げる形で手配した車両で、直近の台数は1750台、協力会社数は500社となっている。この専属車両があることで、昨今のドライバー不足においても、一定数の車は安定的に確保することができる。
貸切便のマッチングに加え、2013年からは、荷物の小口化を受けた中ロット貨物の混載マッチングも開始した。中ロット貨物は、「宅配便や路線便ほど小口ではないが、チャーター便を貸切るほどではない量の荷物」を想定し、手配されたトラックは複数箇所で荷物を積み込み、それぞれの納品先へ届ける。現在は、事業売上高の1割を占め、取り扱いは増えているという。このほか、東京港と大阪港ではドレージのマッチング事業も行っている。
最新技術はアジャスターの補佐役として位置づけ
「2000年ごろに70サイトほどあった求貨求車サービスは現在ほとんど残っておらず、そうした中でも当社が成長してこられたのは人手によってマッチングしていたことが最大の要因」と上林氏は強調する。宅配などのラストワンマイルと異なり、生産・調達物流の場合、荷姿はもちろん荷物の固定方法や必要な緩衝材、その数量、積み降ろし場所のルールまで要求事項は多岐に渡り、積込場所や時間の変更、納品の遅れなど急なイレギュラーの発生も少なくない。こうした煩雑な調整は、アジャスターが間に入るからこそ対応が可能となる。
また、Web上の求貨求車サービスでは、情報をアップしても、車がマッチングできるまで担当者は不安を抱えたまま時間を過ごすことになる。アジャスターに電話を掛ければ、その場である程度の見込みを伝えてもらえる上、マッチングが難しそうだったら、「時間や運賃などの条件を見直せば手配できる車両がある」――といった助言も得られる。仮に輸送が急遽キャンセルされても代替の仕事を手配するなど、迅速で手厚い対応力も売りのひとつだ。
AIやIoTの活用による自動マッチングの可能性については「荷姿がある程度標準化されているラストワンマイルや、ユニットロード化が進展するのであれば可能かもしれないが、現在の調達、生産物流は人手でなくては手配できない」と上林氏は言い切る。同社としてもAIやIoTなどの新技術の活用はアジャスター業務の“サポート”と位置づけ、コンパスに蓄積されたデータの集約や分析に役立てる考え。コンパスでも曜日や時間による情報は瞬時に抽出されるが、各社からの情報提供の傾向を分析し、天候などの要素を需要予測につなげていく。アジャスターのアウトバウンドコールについても「AIによる分析で何度コンタクトすれば情報をいただけるかが見えれば、その前にくじけてしまうことも少なくなる」と上林氏は話す。
近距離輸配送のマッチング事業にも進出
今後は、トランコム全体の事業方針「高度な『はこぶ』仕組み」の構築に向けて、求貨求車でもサービスのさらなる高度化を図る。定量的な目標値としては、現在の事業売上高920億円を早期に1000億円への大台へと引き上げる。今期はコロナショックを受けて貨物情報の減少傾向が続き、4月は前年同月比3割減、5~6月は4割減に低迷。6月中旬以降は回復傾向にあるという。逆に求貨情報は4月に4割増、5~6月は3割増。マッチング率は貨物の減少を受けて8割へと上昇しているが、コロナ収束後の回復に向けて、まずは専属車両への安定的な荷物の供給を最優先する。
事業拡大に向けては情報センターの開設が欠かせない。“現地・現物・現場”主義の下、アジャスターらが各地の取引先に足を運び、現場の視察や会議への参加、人材育成への協力などフィールドワークも行うためだ。今後もエリア拡大に向けた情報センターの開設を進める方針にはあるが、今期は新型コロナの影響から予定していた3拠点の開設を一旦ストップ。状況を見ながら東京や静岡、仙台、広島などを候補に、情報センターの増設を進めていく。
さらに、「はこぶ」を深堀りする事業戦略のひとつとして、中ロット貨物の混載便を拡充させる。具体的には、中ロット貨物を集約するクロスドック拠点の開設を計画するほか、混載便に回収パレットも積み合わせることで安定した積載率とマッチング率の維持につなげる。開設する拠点は、パレットの一時保管や長距離便のリレー輸送における中継拠点としても活用し、ドライバーの拘束時間問題にも対応していく。また、資本提携関係にある日野自動車と両社が出資するNEXT Logistics Japan社によるダブル連結トラックを活用した幹線輸送や隊列走行なども研究していく。
併せて、今月から新事業として、通販などで取扱いの増加が見込まれる近距離輸配送のマッチングも開始。対象にはBtoCを含めず、あくまでBtoBおよびB to Small Bの輸配送をターゲットとする。これまでも2t以下の近距離輸送のオーダーは寄せられてきたもののマッチングできずにいたため、今回、正式にサービス化することで旺盛なニーズに応える。
ドレージの求貨求車サービスも、先月から川崎港へ展開。東京オリンピック・パラリンピックの開催を前に、東京港の代替港として川崎港を活用するような荷主企業の需要を見込む。開催時期の延期を受けて当初の予定本数は扱えていないものの、来年に向けた需要増に期待を寄せる。今年10月には名古屋港での展開も計画しており、両港でのサービスを確立した上で、将来的には5大港全てをカバーしたい考えだ。
(2020年7月30日号)