“新常態”、倉庫スペース需要を喚起か
新型コロナウイルスに関する政府の緊急事態宣言が5月25日、全都道府県で解除された。感染防止策を前提とし、経済活動が再開されていく中、物流業界でもウィズ・コロナ、アフター・コロナにおける“新常態”や“ニューノーマル”“新しい生活様式”に向けた変化が求められる。サプライチェーンの結節点となる倉庫では、EC化のさらなる拡大や在庫の積み増し、ソーシャルディスタンス確保への対応により、これまで以上にスペース需要が喚起される可能性がある。
在庫過多、収束した際のスペース確保も
緊急事態宣言の発令による外出自粛や感染への不安から、ECの利用が急増している。CBREの調査によると、大型マルチテナント型物流施設のテナント(内定含む)に占めるECの割合は、19年にはおよそ30%に達しており、EC化率がいまだ2・6%程度の食品類のEC化が進むと、そのシェアはさらに拡大する可能性がある。
ECのテナント1件あたりの平均契約面積は約1・8万㎡とされる。これは一般のテナントに比べて約4割大きい規模となっている。EC貨物を扱うには、軽量棚を設置したり、作業者の通路を確保するために保管効率が20%程度落ちるため、より広い倉庫面積を必要とするためだ。
ECに限らず、荷主がリスク対応として在庫の積み増しや物流拠点の拡充を進めていることも、新たなスペース需要を生み出す。日本ロジスティクスシステム協会(JILS)が行ったアンケートでも、「工場感染となった場合のリスクを想定し、あえて在庫過多にしている」、「感染が収束し、物量が急激に増加した際のスペース確保」といった対応が報告されている。
一定の距離を保つ作業空間、人員配置に
新型コロナウイルス感染対策としてのソーシャルディスタンスの確保は、従来の倉庫のオペレーションの見直しを迫る可能性がある。「三つの密(密閉・密集・密接)」を生じさせないため、一部の製造現場では作業員同士が接触しないような動線や人や機器の配置などが取り入れられているとされ、倉庫でも同様な取り組みが考えられる。
日本倉庫協会がこのほど公表した新型コロナウイルス感染症対策ガイドラインでは、「できるだけ2mを目安に一定の距離を保てるような作業空間、人員配置とする」ことなどが盛り込まれた。コロナ禍では感染防止策が、移動距離の短縮や効率性より優先され、スペース効率が悪化する懸念もある。
コロナを機に、ロボットなど最新の省人化技術の導入が加速することも予想されている。帝国データバンクが企業の今年度の設備投資意向を調べたところ、「運輸・倉庫」は「ある」が68・1%で全業種中トップだった。ロボット等の導入には一定以上の拠点規模を要するため、倉庫の大型化傾向に拍車がかかる可能性もある。
倉庫の駐車場についても従来以上のスペースの確保が必要になりそう。ある倉庫会社ではコロナ感染拡大防止策として、これまで禁止していた社員の倉庫へのマイカー通勤を許可し、新たな駐車場を確保した。カフェテリアや休憩室も「三密」を避けるため、スペースの拡大や分散化、レイアウトの見直しが考えられる。
コロナを機に倉庫のスペース需要の高まりが予想される中、全国的に倉庫は満床で空きがないのが現状だ。荷動きの減速による出庫の鈍化や延期となったオリンピック関連商材の在庫滞留もスペースをひっ迫させている。首都圏では4~9月に竣工予定のマルチテナント型施設の5割強の面積ですでにテナントが内定しており、新たなスペース確保は難航が予想されている。
(2020年6月4日号)