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【レポート】危険物倉庫の新増設が活発化

2020.05.28

全国的に危険物倉庫の新増設が活発化している。企業のコンプライアンスやストックポイントのニーズの高まりを背景に、運送・倉庫会社の新規参入も急増し、定温・低温対応など施設の高度化も目立つ。昨今では新型コロナウイルス感染拡大を機に、危険物に該当するアルコールを使った消毒剤の保管需要も旺盛で、さらに注目が高まっている。危険物倉庫のトレンドを追った。

関東、関西で危険物倉庫事業に大型参入

昨年から関東、関西で危険物倉庫への大型本格参入も見られる。
上野グループ(本社・横浜市中区、上野孝代表)は、2018年11月に設立した新会社上野ロジケム(本社・横浜市中区、中村哲郎社長)が昨年12月、横浜市鶴見区安善町で危険物倉庫6棟を稼働させた。

危険物倉庫6棟(鉄筋造平屋建て、計5832㎡)は、野外貯蔵所(1万445㎡)、総合集積所(1652㎡)を備え、消防法危険物第4類2、3、4石に対応。一部は保税蔵置場とし、輸出入貨物も扱える。

同社は世界第4位のISOタンクオペレーター、BERTSCHI Global AG(スイス)と日本総代理店契約を結び、昨年7月から営業を開始。成長が見込まれるタンクコンテナによる国際複合一貫輸送にも業容を拡大している。

関西では、兵機海運(本社・神戸市中央区、大東洋治社長)が神戸市内で兵庫埠頭物流センター(神戸市兵庫区)を竣工した。危険物倉庫(写真)2棟と普通品倉庫1棟で構成され、いずれも定温管理に対応。ISOタンクコンテナ100基の貯蔵施設も設けた。

同社では姫路支店(姫路市飾磨区)で18年9月に稼働した危険物倉庫の好調を受け、危険物倉庫事業を拡大。兵庫ふ頭の準工業地域(臨海地区)の用地(約1万5400㎡)で新たな物流センターを開業した。

内外航船の岸壁を備え、危険物倉庫A棟(約1000㎡)は消防法危険物第2類、第4類を扱い、将来的に第5類も対応予定。第4類については定温庫として5℃を2室、15℃を2室設置した。
危険物倉庫B棟(約1000㎡)は第4類に対応。一般品倉庫(約7300㎡)は3階建て(倉庫は2層)で定温庫(15℃)を設けた。一般品倉庫は1階の天井高は9・2mで床荷重が1㎡あたり5t。野積場には危険物等のコンテナ100基を保管できる。

輸送と倉庫を連携し、サービスを充実

危険物の輸配送機能と一体となった保管サービスを充実させる動きもみられる。
危険物輸送を強みとする小野運送店(本社・東京都品川区、小野正彦社長)は、年内をメドに茨城県小美玉市で「東茨城営業所」(仮称)を新設する。約2000㎡の用地に、一般品倉庫約430㎡と約100㎡の危険物一般取扱所を設けて、北茨城~鹿島・神栖地域への危険物配送の積替え拠点としても活用する。開設当初はトラック5台を配備し、順次増車する計画。

さらに、来年4月には千葉県東金市で「九十九里倉庫」を稼働する予定。約5000㎡の敷地に約500㎡の危険物倉庫4棟を構え、消防法危険物第4類第1~4石油類に対応。全棟に5mの庇を備え、荷降ろし作業の品質・効率向上と従業員の作業負荷軽減につなげる。

栃木県でも危険物倉庫と一般品倉庫を併設する営業所の新設を計画。1万㎡規模の建設用地を選定中にあり、取得用地の規模に応じて一般品倉庫3000㎡と1000㎡以上の危険物倉庫を開設する見通し。

小野運送店では危険物を含む輸配送機能を自社で保有しており、幅広い倉庫用地の中から柔軟に立地を選べることが特長。荷主企業に対して、「提案力のあるサービスを用意できる」(同社)という。
今年2月、兵庫県丹波市氷上町に9棟目となる危険物倉庫「絹山物流倉庫第10倉庫」を竣工したのが石見サービス(本社・兵庫県丹波市、川口浩樹社長)。主要顧客の出荷量増加の動きに対応したもので、新倉庫は床面積450㎡。主に消防法危険物第4類を取り扱う常温倉庫として活用する。開設と同時に既存顧客の貨物でほぼ満床となった。今後は同社が強みとする倉庫・運送の一体型サービス展開に活用していく。

同社では危険物輸送において小口化が進んでいることを踏まえ、丹波市を中心とした北・中兵庫エリアの化学メーカーのニーズに対応し、輸送ネットワーク強化も推進している。具体的には、関東(埼玉県)、関西(大阪市)、九州(福岡県)地域の運送事業者と連携することで中継輸送・配送のネットワークを構築した。

定温・低温危険物倉庫への投資も活発

化学品の高付加価値化などを背景に定温・低温危険物倉庫への投資も目立つ。ダイセル物流(本社・大阪市北区、坂本勝哉社長)は昨年11月、厚木営業所(神奈川愛川町)で定温対応の危険物倉庫の営業を開始した。床面積は900㎡で、高付加価値な化学品の取り扱いを想定し、うち380㎡を定温スペースとした。常温スペースについても将来的な定温化が可能な設計となっている。
消防法危険物第4類1~4石対応で、常温スペース(450㎡)、定温スペース(380㎡)に区分し、定温スペースは5~15℃に温度設定できるが、5℃で運用する。従来、温度管理が必要な危険物は同業他社に預けていたが、自社の拠点で対応できるようになり、外部流出費用を抑えられるという。

設定温度が30分逸脱した場合、事務所と倉庫の制御盤で警報を発報。温度測定結果はUSBメモリーにデータ保存。夜間休日に温度異常が発生した場合は、警備会社の警報システムで連絡を受けることができ、停電時には自家発電機が1秒後に自動で稼働。空調機故障時の緊急対応体制も整えている。

地方港でも定温保管のニーズは旺盛だ。鶴丸海運(本社・北九州市若松区、鶴丸俊輔社長)は昨年3月末、同社の危険物物流拠点「化学品センター」(北九州市門司区)で初の定温危険物倉庫を稼働させた。同センターでは消防法危険物の第1類から第6類まで(第3類を除く)対応し、温度管理が必要な危険物も取り扱えることで、さらに幅広い顧客ニーズに応えられるようになった。

同センターで6棟目となる「危険物6号定温倉庫」は床面積が全体で600㎡。A室(約304㎡)は10~20℃、B室とC室(それぞれ約152㎡)は5~15℃に設定可能。現在、同センターの危険物倉庫は引き続きほぼ満床状態で、定温危険物倉庫の稼働率も70~80%。今後も西日本地区における危険物の保管需要を取り込んでいく。

新規プレイヤーは地域の保管ニーズ取り込む

地域における危険物の保管ニーズを取り込むべく、新規プレイヤーの参入も活発だ。
小樽倉庫(本社・北海道小樽市、山本みゆき社長)は昨年10月、出光興産の北海道全域の潤滑油配送拠点として、同社初となる危険物倉庫を備えた自社倉庫「一本松配送センター」(北海道苫小牧市)を本格稼働した。

同センターは9156㎡の敷地内に倉庫面積999㎡の危険物倉庫「1号倉庫」と699㎡の指定可燃物倉庫「2号倉庫」が立地。1号倉庫は消防法第4類第2~第4石油類を扱い、苫小牧市の危険物倉庫では初めてとなる移動パレットラックを導入した。このほか、836㎡の屋外保管施設と26㎡の少量危険物保管庫を設け、全体の保管能力はドラム缶換算で8714本となる。

小樽倉庫では1992年10月から、出光興産の「北海道配送センター」(北海道苫小牧市)でエンジンオイルやグリースなど、潤滑油製品の構内作業および運営を受託。近年は潤滑油製品の少量多品種化が進み、既存の設備レベルでは対応が難しくなったため、自社倉庫「一本松配送センター」を開設した。今後予想される需要増に対応できるよう、隣接地約1万㎡も確保した。

新センターの向かい側には小樽倉庫グループの中央トラックの営業所が立地。効率的な配車を実現するとともに、運行距離は従来と比べて約7㎞短縮されるため、CO2排出量を月に換算すると1万976t削減する。また、同営業所には新センターに設けた非常用発電設備の動力である軽油の自家タンクを保有しているため、災害発生時でも継続的な運営を可能とする。

石油製品などのローリー輸送を手掛ける大郷運輸(本社・宮城県塩釜市、高橋利滋社長)は、2018年9月に東北最大級となる危険物倉庫を開業した。床面積約1000㎡の平屋で、消防法危険物第2類、第4類を中心に第3類、第5類にも対応している。

大郷運輸の本社敷地内に立地し、仙台港からは約8㎞とショートドレージの距離にある。庫内の約400㎡を保税蔵置場とし、輸出入貨物も取り扱う。国内貨物のバラ出荷にも対応しており、毒劇物もドラム換算で200~300本程度の保管が可能だ。直近では新型コロナウイルスの感染拡大を受け、消毒用アルコール類の保管の引き合いも急増しているという。

当初、京浜港の混雑を背景に、仙台港を利用する危険物貨物の取り込みを想定していたが、仙台港のコンテナヤードの整備、拡張工事に伴い現在は、入港日当日搬入・当日搬出での運用になっている。拡張工事は、22年3月をメドに急ピッチで進められている。

リンコーコーポレーション(本社・新潟市中央区、南波秀憲社長)は19年3月から、新潟港初となる本格的な営業用危険物倉庫「東港ケミカルセンター1号」(新潟県聖籠町)の営業を開始。従来、京浜港を利用していた貨物の誘致も順調に推移し、今後、同倉庫を拠点に新潟港の利用を検討する動きもあるという。

同倉庫は床面積が約990㎡の平屋で、消防法危険物の第4類全般に対応。危険物倉庫の庫内全体に固定ラックを導入し、多品種小ロット貨物に対応し、保管効率も向上。庫内には毒劇物保管庫(140㎡)も設け、すでにフル稼働しているが、保管状況を確認しながら、小口、スポット案件も受け入れが可能となっている。

倉庫全体を保税蔵置場とし、倉庫の稼働率は7割強と安定した取り扱いを維持。新型コロナウイルスの影響からか、輸出品は3、4月と荷動きが鈍化しているが、新規貨物の引き合いの案件もあるという。敷地内には増設のスペースもあることから、荷主と十分な打ち合わせをしながら検討していく。
(2020年5月28日号)


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