【レポート】輸送手段の多様化を推進=宇部興産
国内大手総合化学メーカーの宇部興産(本社・山口県宇部市、泉原雅人社長)。同社は、JRコンテナを利用したモーダルシフトを計画するなど輸送手段の多様化を推進している。今後は、長距離を担うトラックドライバー不足に対応するため、ストックポイント(SP)を拡充するほか、新たな海上へのモーダルシフトも視野に入れ、長距離輸送を担う協力会社のドライバーの労働環境改善につなげるとともに、安定輸送の実現を図っていく。
千葉発西日本向けの長距離輸送でJRコンテナ活用
同社は合成ゴムや液化ガス、工業薬品など様々な化学品を手がけ、原薬や中間体製造など医薬事業も展開。物流分野での取り組みでは、2007年から「物流効率化プロジェクト」を発足し、共同運送やモーダルシフトなど様々な施策を実施してきた。16年からは新たに「グループ物流効率化連絡会」を設置し、顧客や協力会社との連携強化と輸送効率化に取り組んでいる。
一方、厳しさを増す物流環境に対する輸送手段の多様化の取り組みとして、JRコンテナの活用を計画。千葉石油化学工場(千葉県市原市)で生産するポリエチレン製品や合成ゴム製品などを西日本向けに輸送するもので、今年度中にトライアル運行の実施に向けた社内検討を予定していたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、延期となっている。
購買・物流本部の河裾伸物流部部長は「包装形状は現状によっては輸送ユニットコストが悪化する製品もあるため、安定輸送確保の必要性とコストの両方を鑑み、慎重に進めていきたい」と説明した。
海上輸送も視野、同業他社と共同輸送にも意欲
このほか、BCP対策の観点から包装品の新たな海上モーダルシフトも視野に入れるなど、さらなる輸送手段の多様化に取り組んでいく。同社では輸送手段の多様化がBCP対策として最も効果が大きいという認識の下、山口県宇部市のグループ会社と連携し、JR貨物の利用比率増加や、コンテナ船を活用したモーダルシフトについて、輸送会社数社と検討を進めている。
また、同社が扱う製品には危険品や毒劇物も多く、これまでは関西以東のSP向けとして、多くのルートを海上輸送にシフト。しかし、近年は危険品・毒劇物の引き受けを敬遠する輸送事業者も多く、SPも限定されるため、同業他社との共同輸送など新たな取り組みにも意欲を見せる。
パレット化に伴う回収物流も検討
同社は昨年9月、国土交通省らが提唱する「ホワイト物流」推進運動の自主行動宣言を提出。長距離輸送削減のための施策として、SPの拡充を掲げている。昨年度は新たに7ヵ所開設したことで、宇部興産単独のSP数は全国で約60ヵ所となった。今後もSP拡充を継続的に実施する方針だ。
また、慢性的なドライバー不足に陥る協力輸送会社を経済的に支援するため、運賃上昇の要請やSOx規制強化による燃油上昇分相当の値上げを受け入れている。さらに、現在はパレット化に伴う回収物流について検討を行っている。
河裾氏は「パレット紛失問題について顧客の理解・協力が進むような行政の取り組みを期待したい」とし、「引き続き協力会社と緊密に連携を図り、安全・安定的な輸送体制の確保を目指すとともに、納入先やグループ会社とホワイト物流の宣言目標の達成に向けた物流改善に取り組んでいく。24年4月からはトラックへの時間外労働上限規制が適用されるため、物流体制の再構築を検討していく」と語った。
(2020年5月28日号)