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【ズームアップ】コロナショック受け食品宅配活況

2020.04.16

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、食品宅配サービスの利用が増している。外出や、買い物客が集まる店頭での購入を避ける消費者が増加する中で、通信販売や配達員が自宅まで食品や日用品を届ける宅配サービスへのニーズが高まっているためだ。物流の現場では取扱量の増加で対応に追われながら、配達時の感染防止対策も進められている。

「安心感」求め、食品宅配の利用が増加

オイシックス・ラ・大地が運営する有機野菜や国産自然食品などの宅配サービス「大地を守る会」では冷凍食品やコメ、缶詰、乾物など保存の効く食材や、生活雑貨の販売が拡大。3月30日から4月5日までの配送売上は19年4月8日~20年2月24日の平均値に比べて、コメが74・5%増、冷凍食品が37%増、缶詰や乾物が22・6%増、生活雑貨が28・7%増と大幅に増加している。とくに電話の注文が1月に比べて3月末時点で25%増えていることからコールセンター体制の強化や、パソコンやスマートフォンによる注文方法を電話で説明するような対応も取っている。

関東を中心とした1都10県を活動地域とするパルシステム生活協同組合連合会の3月度(4週間)の受注高も、前年比17%に達した。いわゆる“生協宅配”は利用開始にあたって、生協の組合員としての加入が必要となるため、通常は5%の増加でも“急伸”と呼ばれる中、3月の伸び率は“異常な数字”という。
セブン&アイ・ホールディングスの通販および宅配関連事業の売上高を見ると、セブンネットショッピングは2月が0・7%増だったものが3月は30・9%増と大幅に伸長。外出自粛により書籍、ゲーム等が好調だったと見られる。IYネットスーパー(西日暮里)は2月が2・4%増、3月が7・1%増と好調でミールキットやレトルト食品、牛乳や卵といった頻度品の購入も伸び、宅配サービスの拡大がうかがえた。

物流センターの新設などで事業拡大を進めている楽天西友ネットスーパーは「ローンチ以降継続的に、需要の方が供給を上回っている状況が続いている」(楽天広報)という。他方で、小売店によるネットスーパーや買い物宅配サービスでは、非常事態宣言を受けて店頭への来客数が増える中で「まずは店舗運営に集中する」方針の店舗もあるという。

「ライフライン」として取扱増に対応

実際に食品の宅配業務などを担当する輸送会社に聞くと、3月末ごろから取扱量は大幅に増加。東海や関東、関西で生協宅配を担当するトランコムDSでは、生協に寄って、4月に入ってから前年同期比10%~40%ほど伸びているという。急激な物量増に、基本的は既存の社員で対応するものの、物量の増え方があまりにも多いエリアでは別便を仕立てて配送。管理者なども日々総出で、センター帰着後作業など現場のフォローを行っている状況にある。

首都圏エリアを中心に生協宅配を担うSBSゼンツウでも、3月の売上速報値は前年同月比で2桁増の大幅な伸長を記録。売上増をけん引しているのは生協関係などの個別配送事業だ。同社でも、取扱数量が増加している業務に人員を振り向けるなどして、需要増に対応している。
外出に伴う感染症拡大を防ぐため、さらには政府の自粛要請に従う形でこうした宅配サービスが人気を集めているが、一方で、配達の場面ではドライバーとの接触を敬遠する傾向もある。買い物宅配サービスを提供するある配送会社では、「配達時にマスクを着用していないと届け先から怪訝な顔をされたり、直接相対することのないように玄関から出てきていただけなかったりすることもある」と話す。

各宅配会社でも配達時の感染予防を進めており、会社備蓄のマスク着用や体調管理、毎日の検温、消毒液の使用や手洗いなどを徹底。物流センター側でも感染予防に努め、日本生活協同組合連合会子会社で生協のDCや幹線輸送を担うシーエックスカーゴでは、センター入場時の手指消毒を徹底するほかトイレやドアノブ、階段の手すりなどの消毒も毎日実施する。事業所によっては乗務前のトラック運転席の消毒なども行っている。

トランコムDSでも、マスク着用や出発点呼時検温を義務付け、配達中は小ボトルのアルコールを持参して消毒。帰着後の手洗い、うがいも徹底している。こうした状況下、従業員とその家族の不安も少しでも和らげようと、備蓄マスクの一部とハンカチを、社長の手紙とともに家族宛に贈った。松葉純也社長は「我々の仕事はライフラインであり、時には配達時に涙を流して喜んでくれる方もいる。従業員とそのご家族の協力なくしては成り立たない」と話す。繁忙を極める現場だが、社内SNSを通じて「現場の士気も日を増すごとに高まっている」という。

配達時の感染対策として置き配に注目

宅配現場の感染予防策のひとつとして広がっているのが「置き配」だ。大地を守る会では、開封されていないことを確認する「留め置きシール」を利用した、玄関前の「留め置き」が選択可能。パルシステムでは、置き配は1コース80件のうち1~2件ほどあり、件数と受注量の増加から相対時間も短くなっている上、配送担当者も配慮していることで「食品店のレジでの支払い時間より短いはず。毎週顔を合わせる担当がマスクも着用して訪問するので、安心感を抱いてもらえているのではないか」という。

トランコムDSも希望する組合員に対する置き配を進めながら、商品を直接手渡しする場合であっても組合員に箱から商品を取り出してもらってから空箱の回収をするなど、可能な限り接触を避ける工夫をしている。合わせて、これまで行ってきた会員勧誘などの営業活動も今は自粛している。
宅配時の接触を防ぐ取り組みは大手宅配会社でも取り入れており、ヤマト運輸ではインターホンなどで希望の届け方をSDに伝えれば、自宅の玄関前といった指定場所に宅急便を届ける方法を用意。日本郵便も8日から、通常は対面で手渡しする「ゆうパック」や「書留郵便物」などを希望に応じて郵便受箱や玄関前に置くことで配達完了とする対応を開始している。

外出自粛、通販宅配全体への影響は?

食品宅配への利用が増える一方で、通販全体への影響は――というと限定的との見方も強い。日本通信販売協会が発表した2月の販売実績は、前年同月比1・1%のマイナスで、3月についても保存が効く食品や健康食品などは動いているものの、外出の機会が減ったことで化粧品などは減っており、商品によって増減の差があるようだ。
他方で、政府の緊急事態宣言を受けて百貨店などの店舗が営業を停止したことの影響が、今後表れてくる可能性もある。楽天では4月に入って在宅勤務が本格化したことで、「自宅でも楽しく過ごしたい」「充実した時間を過ごしたい」「リラックスしたい」「元気に過ごしたい」といったユーザーニーズをキーワードにした、カテゴリーや商品の需要が高まっているという。

宅配各社の取扱実績にも大きな変化はまだ表れておらず、ヤマト運輸の3月の宅急便取扱実績も前年同月比3・9%増と微増。同社広報によると「一部通販荷物が増えている状況」という。日本郵便と佐川急便は3月の実績は公表前。首都圏などで通販商品などの配達サービスを行うラストワンマイル協同組合では荷物の総数は増えており、1荷主当たりの出荷数は食料品や生活雑貨などの生活必需品分野で顕著に伸びているが、「全体的には当面は落ち込むのではないか」としている。
(2020年4月16日号)


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