【ズームアップ】青函、道内線区の維持が課題=ホクレン
道外へ移出される年間約350万tの農畜産物のうち、約7割にあたる260万tの物量を担うホクレン農業協同組合連合会(本所・札幌市中央区、内田和幸会長)。昨年、創立100周年を迎えたホクレンでは、日本の“食料基地”である北海道から全国各地に安心・安全な農畜産物を安定的に供給するため、業界団体との連携を図るなど、道内外への農畜産物のサプライチェーン維持・拡大に向けた取り組みを積極的に推進している。
道外移出の鉄道コンテナ比率は3割超の約80万t
北海道の農畜産物の道外への移出は年間約350万tに達し、これは1日に換算すると約1万tのペース。このうち、約7割の物量をホクレンが担っているが、本州までは車両道路が整備されていないため、鉄道コンテナやフェリー・RORO船、船舶・不定期船が主な輸送手段となっている。
輸送モード別のシェアは、鉄道コンテナが32%(年間約80万t)で玉ねぎや馬鈴薯(じゃがいも)、米、フェリー・RORO船が47%(約123・5万t)で生乳や野菜、米、内航船が19%(約48・6万t)で麦や米を道外へ輸送している。
農畜産物は季節ごとで繁閑期が異なる上、近年頻発する自然災害の対応として、特定の品種をひとつの輸送モードで運ぶことのリスクを考慮し、多様な手段を活用した効率的な物流を実現している。
一方、道内の輸送はほぼトラックによる陸送で、ホクレンの物流子会社であるホクレン運輸や日本通運などがこれを担っている。
道内線区の維持と青函トンネルの共用走行問題が課題に
道外への農畜産物の鉄道輸送で現在、大きな課題となっているのが、貨物列車が走行する道内線区の維持問題だ。JR北海道が運営する道内13線区は、収益面で採算が合わない“赤字路線”となっているが、このうち、ホクレンの農畜産物を運ぶ貨物列車は主に石北線(網走~旭川間)と根室線(富良野~滝川間)、室蘭線(岩見沢~沼ノ端間)の3線区。仮に、JR北海道がそれら路線を廃止した場合、JR貨物単独では路線の維持が困難であり、産地から北海道と本州をつなぐ青函トンネルまでの輸送が難しくなるという。
ホクレン管理本部物流総合課の湊興令課長は「石北線が年間22万7000t、根室線は5万8000t、室蘭線が14万9000tの物量を担っている。理論上、海上へのシフトも考えられるが、北海道は広大で、港までの距離が長いため、道内のトラックドライバー不足を鑑みると、これらの物量を海上に切り替えることは難しい」と指摘する。
13線区の維持問題と同時に、貨物列車と新幹線による青函トンネルの共用走行問題と、新幹線の札幌延伸による並行在来線の存続問題も大きな課題となっている。現在、新幹線は青函トンネル内を時速160㎞で走行しているが、2030年度末に予定されている北海道新幹線の札幌延伸で、JR北海道が目指す東京~札幌間を4時間半の壁を切って走行するには、青函トンネルを含む共用走行区間(約82㎞)の走行速度を高速化する必要がある。しかし、新幹線とすれ違う風圧などで貨物列車の鉄道コンテナが損傷するなど、安全面での影響などが懸念されている。
行政では当初、貨物列車を全面撤廃し、フェリーやRORO船などの海上輸送にシフトする代替案も浮上していたが、道内のドライバー不足が深刻化している中、新たに道内で700人、道外で1550人のドライバーが必要とされる試算(みずほ総研試算)などを考慮し、全面撤廃を断念。現在は一部貨物の海上転換などの検討を進めている。
また、北海道新幹線が札幌まで延伸された場合、貨物列車も利用する函館~長万部間が並行在来線としてJR北海道から経営分離されるため、地方自治体との第3セクター化によって線区を維持させる必要がある。しかし、同区間の旅客需要が低く、地方自治体として路線を存続させる理由が乏しいため、今後の同区間での運行について、先行きが不透明な状況となっている。仮に、JR貨物が単体で同区間を貨物専用路線として維持するにも莫大なコストが発生するという。
業界全体で連携し、物流課題の解決へ
こうした状況に対し、ホクレンでは、JA(農業協同組合)グループ北海道の北海道農業協同組合中央会と連携し、青函トンネルの共用走行問題と道内13線区の維持、函館~長万部間の並行在来線の存続問題などの課題解決に向けた対応を、国土交通省や農林水産省、北海道、道選出の国会議員、道議会議員、北海道経済連合会などに要望している。また、ホクレンをはじめとした荷主や通運事業者らで構成される「北海道物流を支える鉄道輸送の会」や、道主催の「北海道交通物流連携会議」などに参画し、現在の農畜産物の物流実態について、情報を収集・交換するなど連携を深めている。
湊課長は「現在のところ要望に対する正式なフィードバックはないが、引き続き情報の収集・交換を行った上で、行政等の動きや状況を注視し、適切な対応をとっていく」との方針を示す。
ドライバー不足解消に“往復物流”を推進
道内のトラックドライバー不足の解消に向け、ホクレンでは異業種と連携し、フェリー・RORO船を活用した“往復物流”を推進している。17年からキリングループロジスティクスとの間で、北海道~神奈川県湘南および静岡県間の往復物流を開始。北海道からは車両に米穀を積み込んで、フェリー・RORO船でキリングループの製造拠点がある湘南、静岡まで輸送。湘南、静岡の製造拠点からは北海道向けの飲料品を同じ車両に積載し、フェリー・RORO船で運ぶもので、昨年は年間3000t(米穀換算の数値)を輸送した。
このほか、別の異業種企業2社とも協働し、茨城県の大洗港を活用した関東向けの米穀と北海道向けの製品、京都府の舞鶴港を活用した関西向けの米穀と北海道向けの製品を、フェリー・RORO船を活用した往復物流で運び、ドライバーの有効活用につなげている。今年度に実施した往復物流の実績は、合計で8500tに達する見通し。
一方、道内における鉄道輸送の取り組みも積極的に実施している。通常、本州から移出された貨物は札幌近郊でまとめられ、各方面にトラック輸送される場合が多いが、ホクレンは輸送された各方面からの空パレットの回収を、トラックから鉄道に切り替え、鉄道の利用促進とトラックドライバー不足の解消につなげている。
さらに、国交省などが提唱する「ホワイト物流」推進運動の自主行動宣言も手続き中であり、パレット等の活用を促進していく。また、昨年実施した日通とUDトラックスとのトラック自動運転「レベル4」の実証実験については、「自動運転や隊列走行など、どこまで実用化されるか注視し、将来的にどのように活用していくか検討していく」(湊氏)としている。
(2020年3月26日号)