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【レポート】全ト協が災害物流の専門家育成に着手

2019.12.19

全日本トラック協会(坂本克己会長)では2019年度から、大規模災害発生時における緊急支援物資の円滑な流通を支援するため、「災害物流専門家」の育成に着手した。緊急支援物資の輸送だけでなく、拠点の運営、自治体との連携を含めたトータルコーディネートを担うスペシャリストを養成する。19年度にワーキンググループ(WG)を立ち上げ、育成プログラムの検討に入り、20年度後半をメドに研修をスタートさせたい考えだ。

業界を挙げて被災地への救援物資輸送に注力

トラック運送業界では自然災害などの緊急時に国や地方自治体と連携し、支援物資輸送を優先的かつ迅速に遂行している。11年3月11日に発生した東日本大震災では、マグニチュード9・0という世界最大級の地震とともに、巨大な津波が太平洋沿岸を襲ったが、発災直後から業界を挙げて被災地への救援物資の緊急輸送に取り組んだ。
昨年7月の「平成30年7月豪雨」では、国による緊急輸送として67台、都道府県による緊急輸送として199台、同9月の「平成30年北海道胆振東部地震」でもそれぞれ9台、34台のトラックが被災地に物資を届けた。また、直近の今年9月の台風15号、19号においても支援物資の輸送を担った。

“中央司令塔”としてテレビ会議システム導入

全ト協ではくらしと経済を支える「ライフライン」の使命を果たすため、災害対応力の強化に注力してきた。その一環として、災害発生時に中央対策本部を置く全ト協と現地対策本部のある都道府県ト協との間で被災地の情報を的確に共有できるようにするため、テレビ会議システムの導入を進めている。

大規模災害発生時の緊急物資輸送の“中央司令塔”としての存在感を一層高めたのが、14年に竣工した「全日本トラック総合会館(全日本トラック防災・研修センター)」だ。非常用発電装置や備蓄倉庫を備え、各種通信機能も備えた免震構造のビルで、同年8月に、全ト協は内閣総理大臣より「災害対策基本法」に基づく指定公共機関に指定された。

官民一体となった取り組みを強化するため、全ト協として「防災の日」を中心とした各種防災訓練を実施し、政府主催の広域医療搬送訓練にも参加するなど、指定公共機関としての役割を果たしている。また、全ての都道府県ト協では自治体と災害時の輸送協定を締結し、万全の緊急輸送体制を構築している。

「災害物流専門家」育成のプログラム策定へ

災害時緊急輸送の中枢機能として期待が高まる一方、緊急物資輸送を円滑に行うためには、災害対策本部や物資拠点などさまざまな現場において、的確に輸送計画を策定し、諸調整や現場の作業指示等を行うことが重要で、全ト協ではこうしたノウハウを有する専門人材の育成に着手した。

具体的には、災害支援物資の円滑な流通を支援するため、トラック協会の職員や会員事業者を対象に支援物資の仕分け管理などに特化した「災害物流専門家」の育成方法などを検討することを決定。5月に交通対策委員会のもとに「災害物流専門家育成プログラム策定WG」を設置した。
WGは有識者、全ト協の交通対策委員会の委員、過去に災害対応を行った地方トラック協会専務理事がメンバーとなり、オブザーバーとして国交省自動車局貨物課、同総合政策局参事官(物流産業室)、日本倉庫協会、災害対策基本法に基づく指定公共機関である日本通運、福山通運、佐川急便、ヤマト運輸、西濃運輸の5社の担当者が参加している。

関係自治体との情報共有・発信のあり方も検討

WGでは過去の災害対応経験も活かしながら、関係自治体との災害協定等によりトラック運送事業者もしくは地方トラック協会などが派遣する「災害物流専門家」の役割、業務等を整理。効果的な育成プログラム、育成手法、テキストを検討し、作成する。また、関係自治体との情報共有や情報発信のあり方も検討する。

支援物資拠点の確保、入出荷指示、在庫情報等の把握を行う「拠点」班と、物資拠点で物資の管理や取り扱い作業を行う「拠点内業務」班の2つを「災害物流専門家」が担当する業務範囲と想定。「拠点運営」「輸送」「全体コーディネート」の各分野において自治体と「災害物流専門家」の役割分担などを整理した。

物流業界団体や各企業では大規模化する自然災害と物流の重要性を鑑み、災害対応力の強化を打ち出している。被災地の最前線で支援物資の輸送を担うトラック運送業界が災害に特有な物流の課題や対応策に関するノウハウを蓄積し、“専門家”としての知見を高めることで、社会的評価や職業のとしての魅力アップにつながる期待もある。
(2019年12月19日号)


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