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女性や高齢者に優しい現場を実現=デンソーロジテム

2019.10.31

今年の日本ロジスティクスシステム協会(JILS)主催「物流合理化賞表彰制度」で物流合理化賞を受賞した、デンソーロジテム(本社・愛知県安城市、岡﨑彰徳社長)。同社が取り組んだ女性や高齢者に優しい現場改善が、人手不足に悩む物流業界の注目を集めている。

体力弱者が活躍できる職場づくりを開始

デンソーロジテムは、1999年に自動車部品メーカー大手デンソーの物流部が分社化して設立。デンソーグループ唯一の物流会社として、製品の入出荷や、トラックのダイヤ組みといった輸送の手配、輸出梱包業務、さらに最近では仕入れ先からの調達物流管理も行っている。従業員数は契約社員70人を含む約320人。売上高の6割をデンソー本体が占め、残り4割がデンソーグループ会社向けとなっている。

今回、物流合理化賞を受賞したのは、デンソー高棚製作所内にある高棚部品物流センターの部品梱包課。高棚部品梱包課は2012年6月に開設し、調達部品を集約・梱包して名古屋港の輸出入センターへ発送する役割を担う。開設前は仕入先の立地とは別に責任製造部ごとに輸出梱包をしていたため、物流面では非効率となっていた。仕入先が愛知県西三河地域に集中していたことから三重県大安地区での梱包部品を移管し輸送を効率化させたもの。

主にデンソーのパワトレインシステムおよびサーマルシステムのCKDパーツを扱う。高棚部品梱包課に納品された部品は入荷検品の後、一時保管、ピッキング、梱包、荷造りを経て、ほとんどが同日中に出荷される。梱包対象仕入先は46社に上り、作業量は毎年、前年比で1割ほど増え続けている。

開設にあたり、将来の労働者不足を見通して高齢者・女性が活躍できる職場づくりを目指したが離職率は年々上昇し、作業者の定着が課題となっていた。そこで、在職者と退職者に「何が問題か」の聞き取り調査をしたところ、身体的な負担や、手順の複雑さへの不安を訴える声が多く寄せられた。また、作業者の60%が60歳代で、女性も全体の52%を占めることから、「体力弱者(高齢社員・女性社員)が楽しく、長く働きたい職場」を目指し、現場改善を進めた。

作業者目線に立ち“声なき声”を拾う

改善活動では、作業者目線に立つことを最も重視し、現場に目安箱「ツイートBOX」を置いて“声なき声”の収集に努めた。投稿された意見には、要望に応えられなくても必ず返事を書くようにしたという。要望の多い改善テーマから「楽に・簡単に・早く」を合言葉とした。

まずは、聞き取り結果で多くの要望が寄せられた身体的負担の軽減から着手。具体的には、倉庫への受け入れからライン投入までの作業姿勢の見直しだ。従来はパレットを床に直置きして検品からピッキング、ライン投入までの各作業を行っていたが、腰への負担が大きいことから、30㎝底上げができる専用の台車を開発。足腰を大きく屈めずとも作業できるようになり、疲労度の評価指数も改善した。

その反面、台車運搬を導入したために空きパレットの降ろし作業が新たに発生した。そこで、工場内で広く使用されていた機材を参考に、パレットクレーン「もっち~」(写真)も開発し、パレット降ろし作業も容易にした。作業者からは「楽になった」と歓迎された。

次に、作業を簡単にする取り組みとして、検品作業に着目した。検品作業はハンディターミナルで納品書と部品かんばんのQRコードを読み込んで情報を照合し、全箱に添付された現品票製造ロットナンバーを転記してパソコンに入力するものだが、高齢者にとってはハンディターミナルやパソコンの操作が苦手だったり、ロットナンバーの字が小さくて見えにくいことなどからミスが発生していた。

解決に向けて、ハンディターミナルの作業をハンズフリースキャナーへと変更。タブレット端末も導入・改善し、表示画面を拡大して色や音声による良否判定を取り入れるとともに、ワンタッチでパソコンへデータを自動送信できるようにした。結果としてミス発生率が大幅に低減した上、作業性も向上し、作業者からも「見やすくなった」「簡単になった」と喜ばれたという。

同様に、ミスが多く発生していた梱包材のセット作業も見直しを図った。同作業では、1日1600枚に上る梱包材を約3時間かけて手作業で数え、必要枚数に仕分けていたが、作業者の発案で専用の治具を開発。梱包材をセットして結束紐を切るだけで、治具内の凹凸に合わせて必要枚数が瞬時に分かれる仕組みで、導入後は月平均11件ほどあったセットミスがゼロになり、作業時間も大幅に短縮した。

「早く」のテーマでは、作業時間の短縮を狙った。具体的には、段ボール梱包工程のガムテープによる封函作業の負荷が大きく、時間を費やしていたことから自動封函機を導入。同時に、梱包ラインのレイアウトも改良し、多段式の梱包材シューターなどを設置することで、作業者が歩行することなく最小限の動きのみで梱包作業を完結できる配置とした。その結果、月間の梱包時間は15・3時間短縮し、作業時間全体としても14%の低減により残業時間も減り、主婦層にも好評を得た。

離職率が大幅に改善、今後は自動化がカギ

一連の取り組みにより、14年には80%を超えていた離職率が、15年に40%、16年に38%、17年には28%まで改善され、現在は4%まで低下させることができた。ツイートBOXへの月間投稿件数も、15年の開始時には2件だったものが現在は23件に増え、意欲的な意見が寄せられているという。

昨年まで高棚部品物流センター部品梱包課の課長を務め、改善活動に従事し、現在はSCM本部市販物流室岡崎物流センター製品管理課の髙橋弘行課長は「全体の作業負荷を軽減したことで男性と女性で作業を選ぶ必要がなくなり、人員の配置などもより効率的に行えるようになった」と話す。

現場では作業内容を変えることへの抵抗もあったが、「実際にやってみると作業が楽になり作業者からも喜ばれた」とSCM本部部品物流室高棚部品物流センター部品梱包課の近藤羽留奈係長も振り返る。

今後は、さらなる負荷軽減策として、歩行距離短縮を狙った自動搬送機(AGV)の導入なども視野に入れる。併せて、作業管理の進捗を見える化するシステムの開発も検討。秋元謙一・取締役SCM本部長は、「作業者の負担軽減と人手不足対応に向けて、自動化はひとつのキーになる」と指摘する。

こうした時、デンソーロジテムの強みはデンソーグループ各社の製造部門とノウハウを共有できる点にある。秋元氏は「デンソーの生産ラインでも様々な仕組みを取り入れており、グループの知恵を借りながら、引き続き、作業者目線の改善を進めていきたい」と展望する。
(2019年10月31日号)


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