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サッポロHDがビール類の中継物流拠点を設置

2019.10.31

サッポロホールディングス(本社・東京都渋谷区、尾賀真城社長)とサッポロビール(本社・東京都渋谷区、髙島英也社長)は物流拠点の再整備計画を推進している。来春から北陸の中継拠点の稼働を開始し、その後北陸、山陰、南九州、四国エリアをカバーできる中継拠点設置の検討を行う。拠点から届け先までの輸送距離と時間を短縮するとともに、既存の生産物流拠点の機能を拡充し、安定的な車両の確保と供給網の維持を目指す。

愛知県愛西市に北陸をカバーする中継拠点

サッポロビールのビール類製品の生産拠点のうち、物流機能を備えるのは北海道工場、仙台工場、千葉工場、静岡工場、九州日田工場の5拠点。各工場で配送エリアを分割し、全国の届け先まで直送するのが基本だが、現在、サッポロビールでは働き方改革やドライバー不足の観点から、各工場から半径150㎞を超える長距離輸送を減らす方針を打ち出しており、北陸や山陰、南九州、四国地方へのトラックによる長距離配送が大きな課題となっている。

課題解決に向けた最初の取り組みとして、来春の稼働を目指し、北陸と東海エリアをカバーする中継物流拠点を愛知県愛西市に設置する。静岡工場の配送エリアは静岡や愛知、長野のほか、三重の最南端や北陸など直線距離で約300㎞の遠隔地まで及ぶ。この配送エリアの中間地点である愛西市に中継拠点を設けることで、静岡工場から三重の最南端および北陸への長距離輸送を削減すると同時に、ドライバーの負担を軽減する。

サッポロホールディングスの松崎栄治ロジスティクス部長は「ビール社の拠点は太平洋側に偏っているため、北陸をはじめとした日本海側への届け先に向けた安定的な供給網の構築が必要だった。加えて、中継物流拠点を設置し、届け先との距離を短くすることで、運行上のコンプライアンスの強化にもつながる」と説明する。

また、愛西市の中継拠点の新設と並行的に進めているのが千葉工場の物流機能の拡充だ。同工場はもともと、少ない品種を大量生産する目的で稼働しており、現在主流である多品種少量生産への対応が難しいほか、ピッキング機能が乏しく、商品の出荷までに時間がかかるため、結果的には配送時の移動距離が短くなってしまっている。

「千葉工場は出荷量でサッポロビール社最大規模を誇るが、そのボリュームの半分はピッキング対象品のため、荷揃えに時間を要してしまう。また、トラックバースなどの空きスペースを活用しながら出荷業務を行う場合もあるため、安全面での問題もある」と松崎氏は語る。
機能拡充の施策としては、まずピッキングを含む流通加工業務を効率化するため、施設内のスペース確保の検討を進めている。その後、出荷機能を見直し、工場からの出荷にかかる時間を極力短くした上で、関東以北をカバーする中継拠点の設置に関する検証を進めていく。

山陰エリアでは他社との協業も検討

静岡工場と千葉工場のほか、今後は山陰や南九州、四国エリアでも物流拠点の再整備に向けた取り組みを検討していく。中国地方の届け先は広島や岡山など瀬戸内海沿いに集中している上、山陰への配送は岡山の物流拠点から離れており、効率が悪い。松崎氏は「選択肢として当社が直接アセットを所有するのではなく、同じような課題を抱える企業とコラボすることも視野に入れている」とし、「届け先がマッチングすれば共同配送なども検討できるため、配送単価の抑制のほか、CO2の排出量の削減につながる」と述べる。

このほか、南九州や四国エリアについても今後、中継拠点の新設などの具体的な計画案を作成し、物流の再整備に取り掛かかる。

仙台に酒類と食品のハイブリッド工場が稼働

サッポロビールとポッカサッポロは8月、物流拠点の再整備施策の一環として、ポッカサッポロのカップ入りスープの製造設備をサッポロビールの仙台工場内に設けて、稼働を開始した。仙台工場では、ビール類のビン製品を製造していたが、数年前にこの製造設備を撤去。一方、ポッカサッポロは製造拠点を群馬、静岡、愛知に配置しているが、好調に推移しているカップ入りスープの製造能力を高め、さらに顧客ニーズに応えることを目的に、ビン製品の空きスペースにスープラインを導入した。

サッポロHDロジスティクス部の井上剛グループリーダーは「東京から仙台向けの荷物はあるが、その逆は少なかった。仙台工場の空きスペースにスープラインを入れたことで、グループ資産の有効活用と仙台から東京への車両の積載率と稼働率が向上し、協力運送会社は安定的に輸送計画を組めることになる」と語る。

松崎氏によるとビール工場内で食品を製造するのは業界で初だという。「当社グループは、競合他社と比べて物量が少ないため、抱える荷物や量をいかに集約しつつ効率を上げていくかが重要だ」と指摘する。

需要予測から在庫補充までをシステム化

サッポログループは8月、サプライチェーン(SC)全体の標準化施策として「LPSプロジェクト」を立ち上げ、その一環として需要予測、生産計画、供給補充をシステム化し、週の物流を平準化する補充計画を稼働させた。

松崎氏は「昨今のドライバー不足によりトラックが確保できず、拠点の在庫補充が難しくなってきた。各拠点にどれくらいの在庫を持つのが適正なのか――。ただ単に在庫を抑制するのではなく、SKUごとに計算して適正な在庫を維持し、それから生産計画と需要予想につなげていく」と計画を語る。

補充計画では、主に金土日で販促計画を立てるチェーンスーパーなど、小売の都合に合わせた拠点への在庫補充数と車両調達を火曜や水曜に分散し、平準化を図る。「例えば、協力運送会社に“この日だけ50台用意してください”とお願いするのは難しい。月曜から金曜まで満遍なく50台が理想。平均的な在庫量は上昇するが、安定的に輸送できる」と井上氏は説明する。
今後は、プロジェクトの第2弾として生産計画の自動化を進める。松崎氏は「担当者が職人的に行っている作業をAIでシステムに組み込み、省力化につなげる」と語る。
(2019年10月31日号)


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