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“運びきる”体制の構築へ=キリンビバレッジ

2020.11.17

キリンビバレッジ(本社・東京都中野区、堀口英樹社長)は“運びきる”体制の構築を目指し、物流拠点の再整備を急ピッチで進めている。消費地に近いエリアに物流拠点を設置し、工場での在庫集中型の物流体制から分散型に切り替え、トラックドライバーの拘束時間や配送距離の短縮につなげている。今年3月には、神奈川県厚木市で新拠点の稼働を進めるなど今後も、消費地近郊での在庫ストックを拡充していく方針だ。

2年間で物流拠点を11ヵ所増設

同社はこれまで、工場周辺地に倉庫を構え、そこから各納品先に商品を配送していた。しかし、2018年夏の猛暑による急激な物量増と西日本豪雨の発生で物流現場が混乱した状況を踏まえ、消費地に近いハブ拠点を経由する方針に転換。併せて保管や荷捌き機能の拡充も実施している。

ここ2年間では兵庫県尼崎市や愛知県小牧市など計11ヵ所に、消費地近郊への輸送をカバーする物流拠点を設置し、“運びきる”体制を整備。今夏には配送困難エリアとされる青森にも拠点を新設した。青森エリアは保管機能を設けるほどの物量はないものの、岩手県の拠点から青森方面への配送距離を短縮し、ドライバーの労働負担を軽減している。

保管・荷捌き機能の増強では、今年9月に堺市堺区の物流センター(写真)を稼働させた。尼崎の既存拠点の保管キャパシティを超える物量に達したため、その分散を目的に延床面積約2300㎡のスペースを確保。一大消費地である堺エリアへの配送距離も短縮されるため、遅配などのリスクを低減するとともに、ドライバーの拘束時間も大幅に削減した。このほか、岡山では4月に、既存拠点を岡山県総社市に移転し、物流機能を拡充。これにより、拠点数は配送機能を保有する拠点を含めると43ヵ所に増加した。

持続可能な商品供給を目指し、ネットワーク体制を再構築

今後は、拠点再整備の取り組みとともに、持続可能な商品供給体制の構築として、生産体制の見直しも進めていく。同社では全国を7ブロックに分けた需給管理を行っているが、このブロック内の生産比率を高めることで、輸送距離の短縮につなげていく。また、隣接するブロック間での相互供給網を構築し、運びやすい体制の実現を図る。

SCM部の掛林正人部長は、アフターコロナを見据えた今後の拠点増設の計画は未定とする一方、「24年4月から適用されるトラックドライバーの時間外労働の上限規制が目前に迫っている。24年度以降も“運びきる”体制を維持していくため、どのような拠点ネットワーク戦略がベストかを継続して考えていくことが重要だ」とし、「当社の物流全体を俯瞰し、様々な視点から組み立てていきたい」と語る。

製販配連携でサプライチェーンを最適化

キリングループでは、サプライチェーン最適化に向けた戦略として、グループ会社間、各部門間の連携を図っている。ビバレッジではサプライチェーンをトータルで管理するSCM部を今年4月に設置。製造と販売、キリングループロジスティクス(KGL)それぞれで機能分担していた体制を、SCM部が間に入ることでつなぎ合わせ、製販配連携による最適なサプライチェーンの構築を目指している。

その中で、現在はSCM人材の育成に注力している。営業部門や、バックオフィスから異動してきた社員がSCMの専門性や重要性の理解を深めるようなジョブローテーションを推進。社員が別部署に異動した場合でも、製販配の各視点から業務を行うことで物流の効率化につなげていくという。

掛林氏は「営業部門の物流効率化に対する取り組みは大きく変化し、近年は社内で様々な仕組みづくりが進んでいる」と述べ、「これまで、物流改革は物流部門単独で実践していたことが多かったが、18年の猛暑による物流混乱で、社内の物流に対する課題認識が高まった」と指摘。「SCMだけでなく、外部から幅広い知識を取り入れ、会社全体でビバレッジのサプライチェーンを最適化する仕組みを構築したい」と展望する。このほか、グループ会社間の連携ではKGLと各事業会社間でSCM人材マネジメントを共同で進めている。

検品レスの検証、門前倉庫の導入も

また、納品時検品におけるドライバー負担が問題になる中、キリングループでは昨年からKGLが中心となり、検品レスに取り組んでいる。事前に配送商品の情報をデータとして納品先に提出し、検品レスにつなげる取り組みで、現在はその効果を検証している。「これが拡大すれば荷下ろし時間の大幅な削減になる」と掛林氏は期待する。

4月からは三井倉庫と共同で、“門前倉庫”を活用した原材料輸送の取り組みを本稼働した。原材料の保管拠点が少ないことから、ビバレッジの自社、委託先の工場近隣に門前倉庫を設置し、サプライヤーの輸送効率の最適化と、工場での製造対応力の向上を進めている。本稼働から半年後のサプライヤーを対象としたアンケートでは概ね好評だという。
(2020年11月17日号)


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