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リードタイム延長へ発注締め時間を「午後」に=食品卸/メーカー

2021.08.10

加工食品流通で納品リードタイムの延長に向けた新たな取り組みが始まった。メーカーから卸への納品リードタイムが1日延びれば、メーカーはトラックを手配しやすくなり、物流現場の負荷が軽減される。一方、卸はメーカーへの発注が1日早まることで欠品や在庫増のリスクを抱える。そこで、卸からの発注締め時間をメーカーが“後倒し”し、発注精度向上の効果を検証する実証実験を実施。後工程の物流への影響にも配慮しながら、発注締め時間の調整を併せた形でのリードタイム延長の可能性を探る。

定番商品の発注締め時間の調整を提言

メーカー~卸の加工食品流通は、受注から「翌日納品」が主流で、物流事業者が午後に出荷指図を受けて、翌日午前中に納品する運用となっている。トラックドライバー不足が深刻化する中、夜間運転や夜間の仕分け作業を前提とした「翌日納品」を「翌々日納品」に切り替えるリードタイム延長の動きが大手メーカーを中心に広がっている。

リードタイム延長は、メーカーと委託先物流事業者では夜間作業の軽減、集車・配車の効率化、物量確定の早期化による積載率の向上が図られ、卸も荷役作業を計画的に進められるといったメリットがある。ただ、卸では欠品リスクや安全在庫の増加、保管スペースの確保、在庫ロスコストの増加、需要予測・発注精度向上が課題となっている。

製・配・販連携協議会ロジスティクス最適化WG加工食品小WGでは昨年、リードタイム延長を「持続可能な物流の構築に向けた取り組み」と位置付けたうえで、関係する物流業務について全体調整の必要性を指摘。負担がサプライチェーンの特定の主体に偏らないように、リードタイム延長と併せた具体的施策を提言した。

そのひとつが、「定番商品に関する発注締め時間の調整」だ。メーカー~卸のリードタイムを延長する場合、卸での受注~在庫引き当て~発注のタイミングを考慮し、小売~卸の発注締め時間を「午前締め」から「前日夜締め」に“前倒し”し、卸~メーカー間については「午前締め」から「午後締め」に“後倒し”する案が示された。

「13時」への2時間後倒しで“仮説”を検証

メーカー8社(味の素、キユーピー、ハウス食品、キッコーマン食品、日清フーズ、日清オイリオ、カゴメ、ミツカン)が参加する「食品物流未来推進会議(SBM会議)」と日本加工食品卸協会(日食協)の「物流問題研究会」は共同で「納品リードタイム延長小WG」を組成し、リードタイムの延長など製配販の課題について検討を続けている。

今回、卸~メーカー間の発注締め時間の調整についての“仮説”を検証するため、味の素、キユーピーの2社と卸6社が連携し、6月から7月にかけて実証実験を実施。“仮説”とは、「メーカーが卸からの発注締め時間を通常の11時から午後に後倒しすることによって、リードタイムが1日延びた場合の発注精度を上げられる」というものだ。

たとえば、メーカーの発注締め時間が前々日の「11時」から「15時」に後倒しすれば、卸はその日の分の小売からの受注~在庫引き当て~発注の8~9割を処理できる。ただ、メーカー側では「15時」に受注を締めると、そこから物流事業者にデータ送信するため、後工程の物流事業者の負荷が大きくなる懸念があった。

実証実験では、味の素は卸の発注締め時間は変更せず、物流事業者のデータ送信締め時間のみ変更。キユーピーは卸からの発注締め時間を「11時」から「13時」に2時間後倒しする運用を実施。後工程の物流事業者の作業負荷やリードタイムの変化による卸側の数値の変化(在庫、欠品、イレギュラー等)を検証した。

小売業にも納入期限ルール緩和を要望

詳細な検証はこれからだが、発注締め時間を「13時」に後倒してもメーカー側の物流オペレーションへの大きな影響は見られなかった。今後は、味の素、キユーピーとの取り組みを継続するとともに、SBM会議の他のメーカーとの実証実験も検討。即席めんや酒類・飲料など他のカテゴリーでの水平展開も目指す。

卸としては発注締め時間を「15時」にさらに2時間後倒しすることを希望している。卸からメーカーへのイレギュラー発注(EDI以外の発注)をなくすことや、小売が納入期限を製造日から賞味期限までの期間の3分の1の時点とする「3分の1」ルールを「2分の1」に緩和すれば、受注調整の煩雑さが解消されるため、実現に近づくという。

今後は、卸から小売に対するアプローチとして、カテゴリーを問わず納入期限を「2分の1」ルールに緩和することのほか、定番品について発注締め時間の前倒しや特売運用の変更(リードタイム確保や確定数量の発注)の検討を依頼するなど、製配販の全体最適なリードタイム延長を目指す。
(2021年8月10日号)


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