【ズームアップ】最賃額の上昇、中小運輸業に影響
2019年度の最低賃金改定目安額が決定した。政府が6月に発表した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」では、最低賃金の全国加重平均額1000円の早期実現が明記され、その方針に沿った形での上昇となった。一方で、日本商工会議所(三村明夫会頭)と東京商工会議所(同)が5月に発表した「最低賃金引上げの影響に関する調査結果」によると、最低賃金の引き上げによる直接的な影響を受けた中小企業の割合は毎年増加し、18年度は約4割に上った。とくに運輸業では「最低賃金を下回ったため、賃金を引き上げた」と回答した企業が45・0%を占め、「宿泊・飲食業」(55・1%)、「介護・看護」(49・0%)に次いで三番目に多い割合となった。
「最賃の大幅な引き上げは、賃金増に必ずしも直結しない」
同調査報告によると、「仮に、今年度の最低賃金が10~40円引上げられた場合の経営への影響の有無」について、10円引き上げられた場合に「影響がある」と回答した企業の割合は34・9%で、さらに30円および40円の引き上げとなった場合には、過半数の企業が「影響がある」と答えた。
「影響がある」とした企業に対応策を聞いたところ、「設備投資の抑制等」が最も多く、次いで、「正社員の残業時間を削減する」、「一時金を削減する」との回答が多かった。この結果を受けて、報告書では「最低賃金の大幅な引き上げは、設備投資による生産性向上の阻害要因になることに加え、賃金増には必ずしも直結しない」ことを指摘している。
他方で、「最低賃金の引き上げに対応するために必要と考える支援策」としては「税・社会保険料負担の軽減」が65・2%と最も多く、次いで「助成金の拡充・使い勝手の向上」が46・8%となったほか、「生産性向上に向けた設備投資支援」、「人財育成、教育への支援」、「価格転嫁・下請け取引の適正化」との回答も3割程あった。
価格転嫁に難航する中小企業はBtoBで8割以上
商工会議所によれば、政府の方針通り、現在の全国加重平均874円が1000円に引き上げられた場合、社員一人あたり年間約30万円の負担増につながる。また、賃上げした中小企業の6割は業績の改善が見られない中での賃上げであり、価格転嫁に難航している中小企業の割合はBtoCで77・3%、BtoBで80・9%に上るという。
厚生労働省の「最低賃金に関する基礎調査」では、最低賃金額を改正した後に最低賃金額を下回ることになる労働者の割合(影響率)は、08年度の2・7%から12年度には4・9%、17年度には11・8%へと大幅に上昇。とくに東京都(11・2%)を含む25都道府県で10%を超えており、神奈川県や宮崎県、北海道で15%を超え、大阪府は20・3%に達した。他方で、18年度における中小企業の賃上げ率は1・4%にとどまる。
足元では米中貿易摩擦による景気の不透明さや消費増税による消費の低迷など不安定要素が増す中、商工会議所では「政府は強制力のある最低賃金の引上げを政策的に用いるべきではなく、生産性向上や取引適正化への支援により中小企業が自発的に賃上げできる環境を整備すべき」と要望。
また、今回の最低賃金の改定目安額決定については、「必ずしも明確ではない根拠により、大幅な引上げが決定され、これにより今年度は約4割であった最低賃金引上げの直接的な影響を受ける企業がさらに増加することや、中小企業の経営、地域経済に及ぼす影響を懸念する」との三村会頭のコメントを発表している。
(2019年8月6日号)