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巻頭レポート 全ト協“坂本体制”の1年を見る

2018.07.31

「現場で汗をかくドライバーが“ええ業界や”と思えるトラック業界に」――。昨年6月に全日本トラック協会の会長に就任した坂本克己氏。運賃・料金の適正収受、働き方改革への対応など課題が山積するトラック業界のトップに就任して1年が経過した。その間、目まぐるしい動きを見せる業界の舵取りを持ち前のバイタリティーと発信力で牽引してきた。そして、先日の理事会では、貨物自動車運送事業法の一部改正に向けて動き出すことを表明。全ト協“坂本体制”の1年をその発言から紐解いてみた。

「ドライバーの幸せ」が最重要

副会長時代から、その抜きんでた行動力で交付金制度(運輸事業振興助成交付金制度)の法制化などに尽力した坂本氏。会長に就任した昨年6月の通常総会での第一声で目立ったのは、ドライバーの幸せを最重要テーマに置く“現場目線”だった。

「何よりも現場で汗をかいているドライバーの皆さんが“ええ業界や”と思える幸せな業界にしていかなければならない。そのためにも、運賃や料金をしっかり収受できる業界に進化させなければならない。そのためにも業界が火の玉のごとく一丸になることが大事だ」

翌7月に行われた就任会見でも、「現場で働く人に誇りを持ってもらえる業界にしたい。そのためには荷主から適正な運賃・料金を収受することに尽きる」と強調した。同年11月から標準貨物自動車運送約款が改正され、運賃と料金が分離・明確化されることについては「附帯業務を有料化できるきっかけになる」と期待感を示した。

「運賃は本来、“車上受け・車上渡し”が原則。荷待ちや附帯作業は“附帯料金”として区別されるべきもので、トラック事業者からすると運賃と料金は性格が異なる。しかし、荷主によってはこれらが一括で“運賃”とされてきた。今回、それをはっきり区別することで、サービスで行ってきた附帯作業が有料化するきっかけとなる」
「生産性向上に取り組み、その“果実”を再生産やドライバーの労働条件改善のために使う。労働時間を単に減らすだけでなく、仕事の生産性・効率性をいかに高めるかが重要。人生を賭けて働きたいと思える産業にすれば、おのずと人材は集まる」

昨年10月に全国から1400人超を集めて仙台市で開催された「第22回全国トラック運送事業者大会」では、「ドライバーの有効求人倍率が2・4倍まで上がり、全国の7割強の事業者がドライバー不足を訴えている」と、人手不足の厳しい状況に危機感を強調した。また、政府が進める働き方改革の動きについても言及した。

「一定の猶予期間を経て、トラックにも時間外労働の上限規制が適用される。その一方で、政府は労働生産性の向上を図る施策を打ち出しており、貨物集配車の駐車規制の緩和や暫定2車線区間の4車線化、高速道路SA・PAの駐車スペースの活用、高速道路の大口・多頻度割引の継続など、業界にとってのインセンティブも示されている」

今年は「道路改革元年」

今年1月に開催された賀詞交歓会では、会長就任以来、北海道から九州まで全国9ブロックの協会を訪問して「生の声を聞いてきた」と報告。その上で、通常国会で道路法の一部改正により、重要物流道路制度が創設されることを踏まえ「今年は道路改革“元年”と位置付けたい」と述べた。

「新しい道路を整備したり、不備な箇所を直すなど、トラック事業者がより便利に活用できるようにしなければならない。その意味で今年は道路改革の“元年”と位置付けたい」
「我々トラック事業者は、各地で産業の成長に力を傾注し、地域の生活者の暮らしを支え、災害時には大切な命までも支えている。IoT、AIといった近代的技術を活用しながら効率化を図り、より地域の皆さんに役立つ仕事をしていきたい」

2018年度事業計画などを決めた今年3月の理事会では、昨年11月に改正された標準貨物自動車運送約款の届出状況が半数にも満たない状況について「普及促進に努めてほしい」と訴えた。また、政府の働き方改革を受けて策定を進めてきたアクションプランについても言及した。

「新約款は、検討を重ねて我々自身がつくったもの。しかし、全国でまだ届出が十分になされておらず、旧約款で届出している事業者もいる。普及促進に努めてほしい」
「政府が打ち出している『働き方改革』に沿ったアクションプラン策定に向け、あらゆる角度から業界が抱える課題、その解決の方向性を審議・検討してきた」

「社会との共生」改めて強調

全ト協は今年、協会創立70周年を迎え、5月に都内で記念式典を開催した。その冒頭で坂本会長は、トラック業界を支えてきた諸先輩に感謝と敬意を表明しつつ、「重要なのは社会との共生だ」と述べ、改めて諸課題の解決に意欲を示した。

「戦後の混乱が続く昭和23年に産声を上げて以来、協会の70年は艱難辛苦、波瀾万丈の日本の歴史と重なっている。この間、各地域に産業を支えてきた業界の諸先輩に改めて敬意を表したい。また、幾多の大災害でもトラックは緊急物資の輸送を担ってきた」
「重要なことは社会との共生。トラックは地域の皆さまとともに存在していかなければならない」

会長就任から1年を迎えた6月の通常総会では、改めて改正運送約款の意義を強調するとともに、5割程度にとどまっている届出状況に対し「不信感を招きかねない」と強い調子で届出を呼びかけた。

また、90年の物流2法の施行以来続いているトラック運送事業の規制緩和についても、現状では“悪貨が良貨を駆逐する”状況があるとして「いまの事業環境にマッチしていないルールについては、手直しも必要になる」との踏み込んだ発言も行った。

「新約款によって、運送の対価である運賃と諸料金とが明確に仕分けされた。しかし、改正約款に基づく届出はまだ5割強にとどまっている。我々事業者が足並みを揃えなければ社会からの不信感を招きかねない」

「(90年に施行された貨物自動車運送事業法によって)競争が激化し、業界内では『悪貨が良貨を駆逐する』『正直者が損をする』という状況も見られる。ドライバーが自信や誇り、幸せを感じながら働ける労働環境をつくっていくためにも、いまの事業環境にマッチしていないルールについては、手直しも必要になる。全産業と比べ2割程労働時間が長く、賃金は2割低い状況を世間並みにするためには、ルールを変えることも必要だ」

参入強化へ事業法改正検討

そして、7月12日に開催された理事会では、貨物自動車運送事業法の一部改正に向けて協会内にプロジェクトチームを立ち上げたことを報告。常日頃から強調している“悪貨が良貨を駆逐する”ことがないよう、議員立法により新規参入のハードル強化を検討していく考えを表明した。
また、運賃適正化の効果が出ている一方で、ドライバー不足が業界のネックになっていると指摘し、ドライバーの待遇改善が急務だと訴えた。

「運賃値上げの効果で一部の明るい見通しも出てきたが、先般の日本経済新聞の主要30業種の景気見通しで、貨物運送はわずか3業種しかない“雨マーク”だった。運賃改定効果は出ている一方で、根源的にドライバーなど労働力確保に懸念があるというのがその理由だ」

「(ドライバーの待遇改善のためにも)平成2年に施行された貨物自動車運送事業法を議員立法によって一部改正して、新規参入規制の強化や悪質事業者の排除、お行儀が良くない荷主への是正勧告などを強化することが必要だ。何よりも真面目にやっている事業者が不利になるようなこと、悪貨が良貨を駆逐するようなことがあってはならない。まともな事業者が健全経営できるように改正していきたい」
(2018年7月31日号)


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