金融機関として“変革する物流”をサポート=DBJが専門部署を発足
日本政策投資銀行(DBJ、本社・東京都千代田区、渡辺一社長)は「物流」への取り組みを強化する。5月21日付で新部署「グローバルロジスティクス室(Global Logistics Office)」を発足。おもにファイナンス面からロジスティクス領域における新技術プロジェクト支援やベンチャーへのリスクマネー供給などに乗り出す。IoTやAIにより物流に大きな変革の波が押し寄せるなか、「金融機関として、もう一段ギアアップして、物流業界のサポートしていきたい」と意欲を見せる。
新組織により金融機関としての“構え”をつくる
新設のグローバルロジスティクス室は、小売りや卸・商社など流通系企業を担当する企業金融第3部に所属。同部はこれまでも物流分野への投融資を担当してきたが、改めて専門部署を発足させた狙いについて、室長に就任した須釜洋介氏は「eコマースの台頭などを契機に、これまで縁の下の力持ちだった物流に注目が集まり、変革の動きが加速している。こうした動きを応援していく体制をつくるためにも、組織を対外的に〝見える化〟するとともに、金融機関としての“構え”をつくった」と説明する。
その背景には当然、DBJとして「物流」を次の重点分野に位置付けようという動きがある。現在の中期経営計画ではエネルギー、都市開発、トランスポーテーションが重点分野として掲げられているが、「新規重点分野として航空・宇宙、さらにロジスティクスが候補に挙げられており、すでに行内でオーソライズされている」。
“物流目線”で投融資のスタイルを変えていく
DBJは、日本開発銀行時代から行政により近い存在の金融機関として、物流事業者や物流不動産への投融資を通じて、日本の物流インフラ整備に貢献してきた。今後も通常の事業融資は続けるが、新体制ではとくに、①新技術を活用した新規産業創出プロジェクトへの支援、②技術革新の担い手となる事業者へのリスクマネー供給、③最新技術を備えた高機能物流施設向け投融資の拡大――の3点に力を入れる。
大手物流事業者を中心に新技術を採り入れた物流システム(ロジテック)を構築する動きが活発になるなか、ファイナンス面に加え、ナレッジ注入など多面的な支援を検討していく。ベンチャーやスタートアップ企業への出資にも前向き。「例えば、物流企業がベンチャーへの出資を考えているものの、まだステージが早く、二の足を踏んでいる場合も少なくない。そこで、DBJが先行出資して“育てる”というケースも考えられる。通常のベンチャーキャピタルとは違った〝物流目線〟でM&Aや共同投資、ビジネスマッチングなどを促していきたい」。
物流施設への投融資についても、物流の視点を大事にしていく。「次世代型の物流施設は、マテハン対応から天井高をこれまでの5・5mから7~8mにしたり、高圧電線で電気容量を増やすことが求められる。しかし、通常の融資では費用対効果が悪いと決めつけてしまいがち。なぜ、そのスペックが必要なのかを、物流の観点から見ていきたい」と語る。
「物流のあり方が変わっていくなかで、投融資のスタイルも変化していかなければならない。専門部署を立ち上げたことで、行内における手続きもスムーズになり、従来のスキームでは躊躇していた案件にも前向きに対応できるようになる」とDBJグループを挙げて物流分野を支えていく姿勢を強調する。
業界トップなどで構成する「研究会」も発足
また、新組織の立ち上げに伴い、物流業界の有識者をメンバーとする「ロジスティクスイノベーション研究会」を立ち上げる。メンバーは有力物流事業者のトップや学識経験者、官庁など産学官で構成される。「ロジスティクス分野における技術革新を実現していく上での課題・方策を明らかにするとともに、金融セクターの果たすべき役割や優先順位などについて知的サポートをお願いしていく。すでに複数の物流企業トップの方から内諾をいただいている」という。まずは、9月頃にも初会合を開き、年度内に2~3回の開催を目指していく。
「メンバーの方からの助言などを参考にしながら、DBJとしての動き方や濃淡のつけ方を明確にしていきたい」。DBJの物流分野への投融資規模はここ数年、年間7~800億円規模で推移。「ここ数年は平和島地区の再開発(東京流通センター、日本自動車ターミナル、東京団地冷蔵)もあって融資が増えていたが、ここが落ち着いた以降も年間1000億円規模の投融資が実行できるようにしていきたい」と意欲も見せる。
(2018年7月3日号)