レポート 申告官署の自由化で新たな通関体制
輸出入申告官署の自由化が昨年10月8日からスタートした。通関業の営業区域制限も廃止され、認定通関業者(AEO通関業者)は貨物の蔵置場所や通関営業所の所在に制約されない“オールフリー”の通関手続きが行えるようになった。通関営業所や人員の物理的な集約のみならず、事業環境や取り扱い貨物に合わせた申告先の変更・集約など外部からは見えにくい体制変化まで、各社が新たな制度を研究、使いこなしながら独自の戦略を打ち出し始めている。いまや“様子見”の姿勢では遅れをとりかねない。
物流オペレーション全般も成田へ集約
通関=手続き、物流=モノの流れの両方についてドラスチックに改革を実施したのが、東芝ロジスティクス(本社・川崎市川崎区、佐藤広明社長)。申告官署の自由化を受け、羽田通関営業所を成田通関営業所に統合し、1月22日から新体制で業務をスタートした。航空貨物の申告先は従来通り南部事務所とし、海上貨物の申告先は成田航空貨物出張所を選択した。羽田空港は顧客が希望するフライトの選択肢が少ないことから、今後は申告だけでなく物流のオペレーション全般も成田に集約していく方針だ。
同社では東京税関管内で通関業を展開しており、取り扱いは主に東芝グループの貨物。航空貨物は従来からの成田通関営業所に加え、羽田でのパソコンの輸入開始に伴い2013年9月に羽田通関営業所を開設。東京都内の事務所で行っていた海上貨物の通関業務も羽田へ集約し、成田との2拠点体制で運営してきた。
AEO通関業者の取得に向けた取り組みを開始したのは14年1月。セキュリティとコンプライアンスの体制を整備し、17年6月に東京税関から承認された。昨年10月8日に申告官署の自由化と通関業の営業区域制限の廃止が実施されたことを受け、AEOのベネフィットを活かした新たな通関体制構築を目指した。
具体的には、羽田通関営業所を閉鎖し、成田通関営業所に統合。羽田に勤務していた通関士等を成田に配置した際、“統合効果”により他部門との兼務者を捻出した。羽田の航空貨物および東京港の海上貨物についても申告先を成田航空貨物出張所に変更。東京税関管内の通関業務はすべて成田に一元化した。
海上貨物は申告先(成田)と蔵置場所(東京港)が距離的に離れるが、従来からドレージ手配は海貨業者に委託しており、税関検査になった場合には、専門の開梱業者に委託していた。このため、申告先を成田に変更しても実務的には変更がないという。また、他空港・港分の通関業務は現行通り、協力会社に委託する体制を維持する。
なお、成田通関営業所では航空貨物取り扱いの特性上24時間体制となるためシフト勤務になっており、同営業所に海上の通関スタッフが加わることによって余裕のあるシフトが組めるようになる。通関に関わる情報共有がスムーズとなり、東芝ロジスティクスの通関業務に関する顧客の問い合わせ窓口がひとつになることもメリットだ。
今後の課題は、航空貨物と海上貨物の業務フローの違いに関する習熟度アップ。「航空、海上でそれぞれ文化の違いがある。申告に先立つ貨物の搬入前のフローやルールが海上と航空では異なり、相互に教育し合いながら、新たな業務体制になじんでいってほしい」(経営企画部AEO・貿易管理担当)としている。
東京の大井営業所に申告業務を集約
物流子会社は新制度への積極的な取り組みが目立つ。アルプス物流(本社・横浜市港北区、臼居賢社長)では10月8日の新制度開始後、輸出入申告官署を集約。東京税関、横浜税関、大阪税関管内に通関営業所を置き通関業を行っていたが、東京の大井ふ頭内の通関営業所に申告業務の集約化を行った。
従来から、東京税関管内ではAEO通関業者の申告官署の選択制を利用した集約を行っていたが、新制度開始後は、貨物の蔵置場所を管轄する税関に関係なく、海上貨物は大井出張所、航空貨物は本関へ申告する体制に移行した。
横浜、大阪の通関営業所には、申告業務の量に応じた通関士を配置していたが、大井営業所に申告業務を一元化することにより、通関士の集約化を実現した。
主力の電子部品は99%以上が「区分1」だが、「区分3」になった場合、大井営業所以外の近隣の通関士が臨機応変に税関検査の立会いを行う体制とした。
申告業務の集約化は行ったが、顧客の意向で東京以外の税関への申告が必要なケースやカルネ通関などNACCSで処理できない手続きの際を想定し、横浜、大阪の通関営業所も維持している。
通関業の許可を受けた以外の税関官署の貨物についても、グループ会社のAEO通関貨物から東京税関宛ての申告に切り替えを始めたが、通関申告は大井営業所からできたとしても、貨物の船積みや引き取り・配送までをすべて自社で遂行できるわけではないため、協力業者を含めた業務体制の構築を図っていく必要があるとしている。
効率化とサービスのバランスを検討
バンダイロジパル(本社・東京都葛飾区、馬場範夫社長)では、東京税関と神戸税関の2ヵ所で通関業の許可を得て、従来は同一商材でも揚げ地ごとに双方の税関に申告していたが、申告官署の自由化を機に、神戸税関への申告の一部を東京から行うよう準備を進めている。
申告は東京から行うが、貨物確認への対応、ドレージの手配、配送など通関業務に付随する業務をどのような体制で行うかを検討中。ロジパルの貨物を優先してもらえるとは限らないため、貨物確認立会いについて同業他社への委託は考えていない。
立会いに関しては当初、子会社のロジパルエクスプレスのスタッフを通関業従業者登録して対応する案もあったが、別会社であることや通関に対する知識の習得、対顧客サービスの面で課題がある――と判断した。
なお、通関営業所の統合までは考えていない。神戸の営業所を廃止すると、関西エリアの顧客への営業が手薄になるデメリットが考えられるためで、立会いへの対応と同様、効率化とサービスのバランスを検討していく。
通関手続きは顧客に近いところで
必ずしも集約と効率化が絶対ではないとする企業もある。丸全昭和運輸(本社・横浜市中区、浅井俊之社長)では全国7ヵ所(東京、横浜、鹿島、成田、中部、大阪、神戸)で通関業を展開しており、昨年10月8日の申告官署の自由化以降も、基本的には従来の体制を維持しつつ、顧客のニーズに合わせて申告先の変更等に柔軟に対応していく方針だ。
京浜地区、阪神地区にはそれぞれ2ヵ所の通関営業所を置くが「顧客に近いところで通関手続きを行う」スタンスは変えず、現時点では両地区の営業所を集約する予定はないが、今後も顧客の意向を最優先に様々な要因を分析し検討を続ける。通関・保税部の佐藤悦章部長は「顧客との距離が離れてしまうことで、サービス低下につながる懸念があるため」と説明する。
営業所の中には通関士が海貨業務も行っているところもあり、「現場と離れてしまう」ことで業務の非効率が生じる可能性がある。また、通関手続きは複数名で書類のダブルチェック、トリプルチェックを行うなど“チームワーク”を重視。業務の質を維持向上させ続けることもAEO通関業者として大変重要という。
申告官署の自由化以降、貨物によって申告先を指定してくる顧客もあり、顧客の要請を受け、貨物の蔵置場所から離れた税関官署への申告も行っている。自由化申告を行った結果「区分3」となり、検査・貨物確認への立会いが必要になった場合には、丸全昭和グループのネットワークを活用して相互に対応する。
申告官署の自由化で「通関手続きの自由度が高まった」とする一方、「通関業者がイニシアチブをとって、申告先の変更を提案することにはリスクがある」と指摘する。税関官署独自の運用基準・ルールがあり、遠隔地で馴染みの薄い官署に申告先を変えたために、顧客が不利益を被る可能性があるためだ。
このため申告先の変更はあくまでも「顧客の意向」を前提とするが、運用基準・ルールを熟知している官署に申告を一元化できるのもAEO通関業者のベネフィット。また「新たな収入源」にも注目。遠隔地の通関業者からの委託を受け、検査・貨物確認への立会いについても現行人員で対応可能な範囲で積極的に取り込む。
より専門性の高い通関手続きができる体制へ
貨物の特性を見ながら戦略的な通関体制を目指しているのが、大東港運(本社・東京都港区、曽根好貞社長)。同社では従来、主力の東京のほか、横浜、船橋、大阪、神戸、博多に通関士を配置していたが、申告官署の自由化を受け、昨年11月1日から船橋の通関士を東京に集約した。
船橋では横浜税関管轄の千葉税関支署、船橋市川出張所に申告していたが、東京税関本関に申告先を変更。検査・貨物確認の立会いは東京から出向く。船橋は通関営業所の登録は残し、柔軟に対応できるようにしている。
博多については検査・貨物確認への対応のため集約は考えていないが、京浜地区、阪神地区については事務所のスペースも勘案しながら検討中。「どういう体制にすれば最も効率化できるかを考えたい」(荻野哲司常務)という。
集約を想定し、横浜の通関部門を東京本社の通関第一部の配属とし、神戸の通関部門は大阪支店の管掌とするなど東西で組織的な整備は終わっている。集約のメリットについて「通関士の知識を結集でき、繁忙期には応援体制がとれる」と指摘する。
申告官署の自由化を機に、顧客が申告先の変更を希望するケースも出てきた。例えば、蔵置場所が東扇島(川崎)の冷凍貨物の一部を東京税関への申告に切り替えたい――というニーズがある。
ただ、「申告官署を1ヵ所にすることのデメリット」もあるという。顧客が関税・消費税の包括納期限延長制度を活用する場合、2ヵ所に分けて申告した方が1回の納税時の支払額の負担が少なくて済み、一概に集約が最適とも言えないという。
「当初、集約は『人を動かす』ことを前提としていたのが、『人を動かさない』集約という考え方に変わってきた」と荻野氏は指摘する。より専門性の高い通関手続きを行うため、営業所ごとに貨物を特化させることも検討している。
全産業で人手不足が課題となる中、すべての取り引きにおいて「頼りになる会社に依頼する傾向が強まる」と見る。「頼りになる会社」となるには、通関士の能力向上はもちろん、営業スタンスも変えていく必要があるという。
(2018年3月13日号)