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【ズームアップ】「送料無料」表示、通販業界の意向は?

2023.08.31

今年6月、政府がまとめた「物流革新に向けた政策パッケージ」において、見直しに向けた取り組みの必要性が明示されたことで俄かに注目を集める「送料無料」表示。政策パッケージでの言及を受け、消費者庁は同月23日に「『送料無料』表示の見直しに関する意見交換会」の第1回会合を開き、運輸業界側からのヒアリングを実施した。8月に入ると、第2~4回の意見交換会が相次いで実施され、今度はアマゾンや楽天、ヤフーなど大手ECが所属する3団体から聴取。ここでは運輸業界が求める「送料無料」表示の見直しに、真っ向から反対する主張も散見された。その後、日本郵便を招聘した第5回を挟み、23日の第6回会合には業界最大手団体の日本通信販売協会(JADMA)が呼ばれ、通販事業者らの意見を代表して発表した。

運輸業界は10年以上にわたり見直しを要請

「送料無料」は通信販売などで商品の発送にかかる料金を購入者側が負担しないことを示す言葉で、EC市場の拡大に伴い広く浸透してきた。一方で、「輸送にはコストがかからない――との誤解が生じかねない」として、運輸業界側は10年以上にわたって表示の見直しを訴え、「2024年問題」の到来を前に、持続可能な物流システムの構築が急務となる中、ようやく行政側から一定の認識を得られたかたちだ。加えて、消費者庁としては「送料無料」によって通販会社自身が消費者に運賃を転嫁できず、結果として通販業界における“バランスの取れた賃上げと値上げ”を阻害している可能性にも着目。まずはこうした実態を把握するため、両業界の関係者からの声を聴取する意見交換会の開催に至った。

「『送料無料』表示が原因とする主張に根拠がない」

意見交換会の第1回会合で全日本トラック協会の馬渡雅敏副会長は、これまでの運輸業界の主張を改めて強調するとともに、「送料無料」表現が、運輸業界の人材確保にも悪影響を及ぼしている点にも言及。「仕事を選ぶ際に、(ドライバーは)『ただで運んでいるのか』という誤解を与える」とし、改めて「送料無料」表示を「送料がかかっていることがわかる表現にしてほしい」と業界の要望を伝えた。

一方で、第2回、第3回、第4回会合に出席したEC業界関連団体からは、「送料無料」表示の見直しの実効性や、そもそもの論拠を疑問視する厳しい意見もあげられた。第2回会合では、アマゾンジャパンやeBay、グーグルといった外資系大手EC企業が加盟するアジアインターネット日本連盟が、「仮に『送料無料』表示を見直す場合には、『配送料』という形で消費者負担はないものの、実際には物流事業者に対して『運賃』が別途支払われている旨の十分な説明を行うことが、現実的な方向性」と一定の理解を示しつつ、「表示の見直しに当たっては、その目的(再配達削減など消費者の行動変容の促進か、消費者への価格転嫁の促進か)を明確にするべき」と要請した。

さらに、第3回会合では楽天グループの三木谷浩史会長兼社長が代表理事を務める新経済連盟が、「送料無料表示(「〇〇円以上送料無料」を含む)の別の表現への置き換えは様々な理由から困難」「物流の担い手が色々とご苦労されていることは理解するが、送料無料表示が原因だとする主張には合理的根拠がないと言わざるを得ず、表示を変えても問題解決につながるイメージがない」と表示見直しの方向性に異を唱えた。

その上で、EC事業者がこれまで、配送キャリア側の運賃値上げに応じながら再配達削減に取り組んできた経緯を説明するとともに、消費者は購入時の「送料」に敏感であるデータも紹介。表示を見直すにしても、楽天グループが導入した「3980円の送料無料ライン」などでは、「同一商品を複数個購入しても1個あたり単価と送料は変わらないのに、送料無料ラインを超えると突然『送料込』になるのは表示上意味が通じにくい」ことを指摘した。

規制であれば小売全体へ――政策効果立証は不可欠

第4回会合には、ヤフーらが立ち上げたセーファーインターネット協会(SIA)が出席し、同協会も新経済連盟と同様に「『送料無料』表示で消費者が運賃・料金が発生していないと誤解している事実は存在するのか」「表示の見直しにより『運賃・料金が消費者向けの送料に適正に転嫁・反映される』ことになる根拠等を示してほしい」と議論の前提に疑問を投げかけた。さらに、「政策効果を立証できないなら、安易に『送料無料』表示の見直しを求めるべきではない」との意見を表明。仮に政策効果があるとしても、表示見直しに取り組む場合には「国内で営業する全事業所が一斉に服する」「表現の幅を広く認める」ルールであることを求めた。

EC関連団体が相次いで表示見直しへの反論を展開する中、第6回会合にはJADMAの物流委員長を務める梶原健司副会長(千趣会社長)が出席。SIAと同じく、表示を見直した場合には通販業界のみならずプラットフォーマーや「送料無料」をうたう店舗型小売業者を含めた小売業界全体を対象とする、公正な競争環境の確保を訴えた。また、「送料無料」表示を廃止する事業者へインセンティブを与える「奨励策も考えられる」としながら、万一、法規制化を検討するのであれば金額表示でなく「送料弊社(社名)負担」にすべきとした。

JADMAでは、そもそも通販に使用される宅配便が国内総貨物量に占める割合はわずか1%程度であることも指摘。通販業界は宅配クライシス以降、度重なる運賃値上げに応じ、直近の値上げ幅は最大64%にも及ぶ実態も紹介し、「通販事業者としても物流コストの止まらない上昇を防ぐため下請け配送事業者の待遇改善への抜本的対策を希望」するが、「こうした負担部分が下請け配送事業者の手当に十分活用されなかったとすれば、驚くべき事態」と業界としての率直な意見も述べた。

ただ、JADMA会員へのアンケート調査では「法規制案」「奨励案」と「両案とも不要」がほぼ拮抗し、「前提として協力したいという意向が業界にはある」と梶原氏。他方で、表示の見直しには相応のコストが生じ、その負担にかなう政策効果の数値検証は欠かせないとした。
(2023年8月31日号)


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