【ズームアップ】燃油高騰もサーチャージ導入機運乏しく
原油価格の上昇や円安の影響により、軽油価格の高騰が続いている。トラック運送業界では燃料価格の上昇・下落によるコストの増減分を別建ての運賃として設定する「燃料サーチャージ」制度があり、改正貨物自動車運送事業法に基づく標準的な運賃の告示制度にも明記されているが、制度自体が浸透しておらず、“発動”の機運も高まっていない。トラック運送事業のコスト全体に占める燃料油脂費の割合は13・5%を占め、負担増から経営悪化を招けば輸送力の供給制約にもつながる危惧があり、国土交通省では荷主や元請との燃料サーチャージの交渉を呼びかけている。
荷主の交渉拒否は独禁法、下請法に抵触
「軽油価格の上昇は、事業者にとって負担増となってきていると認識している。トラック運送事業者は荷主・元請に対して、燃料サーチャージを交渉していただきたい」と国交省の担当者は話す。交渉の根拠として挙げるのが、昨年4月から運用が開始された標準的な運賃の告示制度だ。時間制・距離制で標準的な運賃をタリフとして示したほか、燃料サーチャージについて「別に定めるところにより収受する」と明記されている。
燃料費が上昇しているにもかかわらず、荷主や元請が十分な協議をすることなく、一方的に単価を据え置いた場合は、独占禁止法(優越的な地位の濫用)や下請法に抵触することがある。また、改正貨物自動車運送事業法では、荷主はトラック事業者が法令を遵守できるように配慮することが規定されており、「荷主は事業者との交渉のテーブルにつかなければならない」と強調する。
導入せず不当な競争惹起には業務改善命令も
燃料サーチャージについては、燃油価格の急上昇に際してトラック事業者を保護するために国交省が2008年に策定、12年に改訂した「トラック運送業における燃料サーチャージ緊急ガイドライン」がある。具体的な算出方法や導入事例、導入した場合の手続きなどが示されており、全日本トラック協会のホームページでも公開されている。国交省ではこのガイドラインを荷主と交渉するためのツールとして活用することを想定している。
「燃料サーチャージ」を届け出た事業者数は16年1月時点で1098社と全事業者の1・7%程度。ガイドラインでは、「燃料サーチャージを導入しない事業者が他のトラック事業者との不当な競争を引き起こすおそれがある場合」は事業法26条に基づき事業改善命令を発動できるとしている。これまでに事業改善命令を発動するまでに至った事例は、国交省の担当者も「聞いたことがなく、把握もしていない」という。また、具体的な取引や契約など個々の事情に即した地方レベルでの判断が必要となることから、客観的な基準は定めていない。
全ト協が発表しているローリー買いの軽油価格は1ℓあたり100円台が続き、昨年同時期よりも20円ほど高い。荷主へ燃料サーチャージを交渉する場合、トラック事業者側が設定に必要な輸送指標を把握していることが大前提となり、軽油価格の変動によって導入のタイミングを逸するといった問題もある。昨年度はコロナ禍でも軽油価格の下落で採算の改善が見られたが、燃料費の価格転嫁が進まなければ採算悪化が懸念される。
(2021年10月21日号)