スペース不足で冷蔵倉庫の“危機”
全国的に冷蔵倉庫のスペース不足が深刻化している。冷凍食品など貨物のかさ高化傾向に加え、多品種小ロット化による保管効率の悪化、消費低迷による出庫の鈍化など各種要因が重なり、「どこも空いていない状況」(冷蔵倉庫関係者)だ。年末商材の搬入や来年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた需要増でさらなる庫腹のひっ迫が見込まれ、今後、輸入に影響してくることも予想される。
在庫が高水準、貨物の選別や入れ替えも
「新規の貨物はお断りしている」――。京浜地区の冷蔵倉庫事業者はこう話す。既存の冷蔵倉庫が満庫のため貨物を選別せざるを得ない状況。料金や契約条件、荷主のこれまでの対応などを踏まえ、貨物の入れ替えを行っている事業者もあり、貨物の“取り合い”ではなく“断り合い”にシフトしている。
日本冷蔵倉庫協会が公表している主要12都市受寄託庫腹利用状況によると、8月の在庫率は合計で33・0%、6大都市(東京、横浜、名古屋、大阪、神戸、福岡)で35・2%。東京は40・8%、横浜も47・1%と高在庫水準となっており、港湾地区から郊外への再保管先の確保も難しくなっている。
冷蔵倉庫のスペースが足りない要因のひとつが、貨物のかさ高化傾向。冷凍食品等の半製品、製品などよりスペースを必要とする貨物が増えている。近年では、コンビニエンスストアのコーヒーマシーン用「カップアイス」といった新たな商材も加わったほか、コンビニで売る冷凍食品の拡大も冷蔵倉庫需要を押し上げている。
冷蔵倉庫への貨物の搬入は相場とも密接にかかわっている。水産物の世界的消費の伸びを背景に水産物価格が高騰し、「買い負け」現象が起きていることから、買える時期に大量に仕入れる傾向も搬入増の要因。加えて、多品種小ロット化によって保管効率が下がっていることもスペース不足に拍車をかける。
作業効率が悪化、働き手やトラックも敬遠
在庫が高水準にあるため、作業効率も悪化している。荷物の出し入れに時間がかかり、作業員の残業増やトラックの待機時間につながっている。働き方改革法による時間外労働の上限規制の適用により、労働時間を短縮しなければならないが、庫腹がいっぱいなので効率や生産性を上げるのも困難だ。
冷蔵倉庫は温度の低い過酷な労働環境にあるため、ただでさえ作業員不足が深刻。作業効率の悪化によって残業が増えれば、さらに働き手に敬遠されかねない。作業員が少なければ、処理能力も低下する。そうするとトラックの待機時間も長くなり、トラックからも敬遠されるなど悪循環に陥ってしまう。
冷蔵倉庫に入れられないため「デマレージ」
冷蔵倉庫にとって頭の痛い問題が輸入コンテナに対する「デマレージ」だ。船会社がコンテナヤードからのコンテナの早期引き取りを促すために設定している保管超過料金だが、冷蔵倉庫の処理能力を超えた貨物量や作業員不足により「冷蔵倉庫に入れられない」ためにデマレージが発生してしまうケースがある。
冷蔵倉庫業界では大手を中心に主要港や内陸部での新たな設備投資計画も活発化している。しかし、現状では冷蔵倉庫のスペース不足解消には至っていない。業界では全国平均で約2割弱の冷蔵倉庫が築40年を経過しており、スクラップ・アンド・ビルド(S&B)も不可避だが中小企業の対応はハードルが高く、早期の収容能力の拡大は期待できない。
旺盛な需要を受け手、物流不動産デベロッパーが特定の企業向けに冷蔵倉庫のBTS(ビルド・ツー・スーツ型)型施設を開発する事例も見られるようになったが、ドライ倉庫ほどの勢いはない。当面スペースのひっ迫が続く中、「輸入者は売れる分だけ買うとか、ロットの調整も必要になるのでは」(冷蔵倉庫関係者)との見方もある。
(2019年10月10日号)