【宅配便料金】トラック運賃、再びの上昇へ――
トラック運賃の上昇基調が鮮明になってきた――。
運賃交渉の先頭を切るヤマト運輸は、通販荷主を中心とした大口顧客約1000社との交渉を鋭意継続中で、強気の構えを崩していない。最大の牙城でもあるAmazonとの交渉決着はまだのようだが、一部顧客との〝決着〟が続々と伝わってきている。
一方、日本通運は今月1日、「アロー便」に適用する積合せ届出運賃を平均9・7%値上げした。また、国土交通省のトラック標準約款改正の動きを先取りして、運賃適用方に「待機時間料の収受」を新設するなど、値上げに向けた環境整備に動いている。
トラック運賃を取り巻く状況は、ドライバー不足のさらなる深刻化と働き方改革への対応、さらには燃油価格の上昇などが相まって、「荷主も拒否する理由に乏しい」(関係者)という環境になりつつある。夏場以降、荷動きが活発になり需給バランスがさらにタイトになれば、値上げの勢いはさらに増すことになる。
ヤマトは強気の交渉を継続、決着も続々と…
ヤマト運輸は現在、上期中の決着を目指して大口顧客約1000社と交渉中。同社の長尾裕社長は6月8日の時点で「ほぼすべての大口顧客との交渉を開始し、このうち何割かは着地点が見えつつある」と述べていたが、その後も交渉は前進しているもようだ。
首都圏で事業展開している通販荷主を顧客に持つある3PL事業者との交渉では、今月上旬に値上げに合意した。この会社では従来、宅急便の60サイズから100サイズまで同一運賃で契約していたというが、これを今回、60サイズで10%程度、80サイズで10%以上、100サイズについては2~3割の値上げで決着した。単純な値上げに加え、サイズに合わせた料金に適正化することで、実質的に大幅な値上げが実現した。この会社の関係者は「(ヤマト側の)要求を完全に呑んだ形。交渉の際には『他の荷主では交渉すらできない会社もある』という発言もあった」と明かす。
ヤマトは今年10月から個人利用者に適用される宅急便の基本運賃を平均15%程度値上げする。長尾社長は「大口顧客には当然、基本運賃の上げ幅以上の値上げを要請していく」と語っており、ヤマトとしての値上げ幅の〝防衛ライン〟は「15%以上」であることは明らかだ。
佐川も高い単価の伸び期待、JPの動向は…?
総量抑制を契機に、値上げ姿勢を鮮明に打ち出したヤマトに対し、競合する佐川急便、日本郵便(JP)の対応はどうなっているのか――。佐川はここ数年、宅配便単価の適正化に継続的に取り組んでおり、一定の成果を上げてきた。その結果、前期末(17年3月)時点の単価は前期比2円アップの511円だった。今期についても「淡々と交渉していく」姿勢だが、計画では前期比7円増の518円という高い伸びを見込んでおり、運賃改定を進めやすい環境が整ってきていることを伺わせる。
JPも大口荷主との値上げ交渉を進めていくとの姿勢が伝えられているが、一方で「ヤマトから流れている荷物を取り込みたい」との考えもあることから、実効性を疑問視する声もある。
JPの幹線輸送を担う下請け業者の一部からは「値上げに動いてくれないと、我々の下請け運賃も上がらないのではないか」と不安視する声もある。「ヤマトが値上げ姿勢を明確に打ち出したことに下請け業者も過敏に反応している。今後は、より高い運賃を払ってくれそうな元請けに流れていく可能性もある」と指摘する。元請け大手の運賃政策は、輸送力確保の面でも大きな影響を与えそうだ。
日通の運賃改定も大きなインパクト
一方、日本通運の積合せ届出運賃の改定も、値上げに向けて環境整備という面では大きなインパクトを持つ。同社は「あくまで届出運賃の改定であり、顧客との交渉は相対契約に基づく」と強調するが、提示できる運賃の上限が〝ベースアップ〟したことによる底上げ効果は期待できる。
また、国交省が10月に改正するトラック標準約款の改正を先取りして、新たに「待機時間料の収受」を設けたことも大きな注目点だ。同社は「いきなり収受することはなく、待機時間の短縮に向けた環境づくり」と目的を説明するが、今後、同業他社が追随する動きが広がれば、荷主に大きなプレッシャーを与えることにもなりそうだ。
統計などでも運賃上昇が鮮明に
運賃の値上がり傾向は、統計などの数値でも明らかになりつつある。日通総合研究所の6月に調査した短観(速報値)によると、一般トラックの運賃指数の7‐9月見通しが「+21」まで上昇したしたほか、特積みトラックの指数も「+18」まで上がり、トラック不足が深刻化した消費税値上げ前の水準に近づいている。
また、全日本トラック協会が発表している求荷求車情報ネットワーク「WebKIT」の6月のスポット運賃契約指数は前年同月比1ポイント上昇の「112」となっている。
(2017年7月11日号)