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荷主レポート 酒田港を基点に“よきモノづくり”=花王

2018.03.13

花王(本社・東京都中央区、澤田道隆社長)では中国向けの紙おむつの輸出が好調だ。2030年までに「グローバルで存在感のある会社『Kao』」の実現に向け、グループ中期経営計画「K20」(17~20年)を掲げた同社のグローバルブランドの主力のひとつがベビー用紙おむつ「メリーズ」。中国・ロシアでの旺盛な需要に対応するため、酒田工場(山形県酒田市)では14年に紙おむつの新工場を稼働させ、生産を順次増強。中国が「一人っ子政策」廃止に続き、昨年12月に紙おむつの輸入関税を撤廃したことも日本からの輸出の追い風となる。30年までに売上高2・5兆円(海外1兆円)を達成するため、酒田港を基点とする“よきモノづくり”でアジア市場でのシェア拡大に挑む花王のグローバル供給戦略をレポートした。

物流網が発達、紙加工製品のグローバル供給拠点に

花王グループの国内生産拠点は9ヵ所で、このうち酒田工場は1940年の創業と国内では2番目に長い歴史を持つ。最も北に位置し、また、唯一日本海側にある生産拠点。紙加工製品のグローバル供給拠点という位置付けで、入浴剤、シート製品、紙おむつを生産。紙おむつは酒田、栃木、愛媛の3工場で生産しているが、入浴剤とシート製品については酒田工場のみで生産している。

工場の敷地面積は25万2000㎡で東京ドーム5個分に相当。創業当初は石鹸・油脂加工品を製造していたが、洗濯機の普及に合わせ1980年代には北海道・東北向けの衣料用洗剤の製造・供給拠点に転換した。その後の物流網の発達により2000年代以降、北海道・東北向けは関東の工場から供給する体制に切り替え、酒田工場は紙・シート加工品といった特殊製品の製造にシフトした。

現在、酒田工場で製造している主な製品は、入浴剤「バブ」や、「ビオレ」ブランドで展開するメーク落としシート、制汗シート、毛穴パックシート、「めぐりズム」ブランドの蒸気温熱シートやアイマスク、そしてベビー用紙おむつ「メリーズ」。「毛穴すっきりパック」は8割を海外に輸出しており、「めぐりズム」シリーズも海外での販売が好調。酒田工場から約2㎞に位置する酒田港国際ターミナルから海外へ輸出される。

優秀な“人財”と効率的な物流環境で優位性

酒田工場敷地内に国内3ヵ所目の紙おむつ新工場が稼働したのは14年。「品質」「コスト」「スピード」面で立地優位性を検討する中、候補に挙がったのが酒田だった。奥村正秀工場長は「山形・庄内エリアには工業系高校が多く、品質を支える優秀な“人財”を採用できる」と説明する。加えて、酒田港との連携による効率的な物流環境、自社工場用地の活用、行政等の支援も工場建設を後押しした。

立地の決め手のひとつとなった酒田港は、現在、国際定期コンテナ航路として週3便が運航。釜山港からアジア、欧米各港に接続される。17年のコンテナ貨物取扱量は前年比20%増の2万8365TEUで4年連続過去最高を更新。16年には「ポート・オブ・ザ・イヤー」に選ばれた。県によるコンテナヤードの拡張のほか、国の直轄事業で70mの岸壁延長工事が行われており、3月に完了すると2隻同時着岸が可能になる。

酒田工場ではパルプ・不織布など原材料の多くを海外から輸入し、外部の原材料用倉庫に保管。酒田工場で製造した製品はいったん自社倉庫へ搬入し、そこでコンテナにバンニングし、酒田港から輸出する。JR貨物酒田港駅からも至近で、国内への出荷では鉄道コンテナ輸送も活用できる。外部倉庫、工場、港が半径約5㎞以内にあるコンパクトな運用エリアで低コストな物流ネットワークを実現している。

例えば、酒田工場から上海への輸出で、酒田港から釜山港経由で輸送するのと、酒田工場から横浜港に横持ちして上海に輸送するのと比べると、物量の多い横浜港を利用する方が海上運賃は抑えられるが、横浜までの陸上輸送コストも含めるとトータルでは酒田港利用の方が安い。「メリーズ」については栃木、愛媛の工場でも生産しているが、海外向けは酒田工場からの供給が最も効率的と判断した。

酒田工場で生産された製品は、釜山港経由で中国を含むアジア、ロシア向けに「メリーズ」を、欧米、オーストラリア向けに紙シート加工製品が輸出されている。14年の紙おむつ工場の稼働以降、酒田港のコンテナ取扱数は右肩上がりに増え、酒田港の17年のコンテナ取扱数(2万8365TEU)のうち、花王のシェアは輸出入合計で約60%を占める。

5期連続最高益、中国での販売好調も寄与

「メリーズ」は中国・インドネシア・ロシアなど海外12ヵ国・地域で展開し、赤ちゃんの肌にやさしい高機能・高品質な紙おむつとして海外でも高い支持を得ているが、中国人は同じブランドでも「日本製」を好む傾向が強く、「メリーズ」も現地生産品より日本からの輸出品のシェアが上回っている。中国での「メリーズ」の販売好調も寄与し、花王の17年12月期決算は売上高1兆4894億円、営業利益2048億円で5期連続最高益を更新した。
好調ならではの課題もある。酒田港は16年に週6便あった国際定期航路が現在は週3便。「メリーズ」増産に伴い、輸出用の空コンテナの確保や「海が荒れやすいなど日本海側特有の事情がある中で安定供給する」(奥村氏)ため増便を期待している。中国で需要がピークとなる「独身の日」(11月11日)や大手ECモール「京東」の設立記念(6月18日)のセール対応のため需給の平準化も課題となる。

なお、酒田工場では14年に採用を再開後、平均年齢が一気に10歳下がった。企業理念“花王ウェイ”の精神をベテランと若手が共有し、安全・品質・サステナビリティ・スピード・コストにこだわった「SAKATA Quality」を確立し、明るい風通しのよい工場運営を目指している。地域に根差した工場として酒田から世界へ――。「グローバルメガブランド」のさらなる成長が期待される。
(2018年3月13日号)


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