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【レポート】▽キーワードから読み解く軽貨物便市場

2019.07.25

通販荷物の増加を背景に、ラストワンマイルの新たな担い手として注目を集める軽貨物便事業。大手3PL会社の参入も相次ぐ中、改正貨物自動車運送事業法では荷主勧告制度の対象として「貨物軽自動車運送事業者」が追加されるなど、輸送業界で存在感を増している。軽貨物便事業を取り巻く事情を6つのをキーワードで読み解く。

●人材採用
米大手通販会社のラストワンマイル業務を受託し、宅配事業を急拡大させる、丸和運輸機関。今期から開始した中期3ヵ年経営計画で同事業の運行台数を1万台以上に増やし、事業売上高を619・7億円へと倍増させる計画を打ち上げたが、和佐見勝社長は「人さえ確保すれば収益目標の達成は間違いない」と言い切る。EC貨物が増え続ける中、旺盛な輸送需要に応えるヒューマンリソースをいかに確保できるかが勝負所。軽貨物便の個人事業主を束ねる同社のような3PL会社では、自動車をドライバーに貸与したり、売上保証金を設定する「安定して稼げる仕組み」を作りながら、急ピッチで人材を集めている。

●生産性向上
軽貨物便ドライバーが安定した収入を得るには、時間当たりの配達件数をいかに増やすかがカギとなる。これまでは「体力のある熟練者」であればあるほど、多くの貨物を運べ、収入を増やすことができた。しかし、労働人口が減少する中、女性や高齢ドライバーまで門戸を広げるためには、そうした条件に左右されない、配達効率をサポートする体制も必要となる。各社ではスマートフォンやタブレットによる配達ルート支援システムや配達エリアへの車両の効率配置、さらにはツーマン配送のような付加価値の高い配達をメニューに組み込むことで配達単価を高めるような施策を進めている。

●品質確保
ドライバーの獲得競争が過熱する一方で、人手をかき集めただけで事業が成長する訳ではないのが宅配の仕事だ。通販におけるラストワンマイルは荷主である通販事業主への評価に直結し、配達品質は荷主が最も重視する所。荷物の届け先であるユーザーからの評価は荷主との取引条件に大きく影響し、クレームが多ければ契約条件に齟齬があったとして解約されるケースもある。配達先や配達時間帯指定をミスなく届けることのみならず、配達先での接遇やマナーも求められ、こうしたノウハウをドライバーへいかに伝えられるかも軽貨物便事業者の課題と差別化要因になっている。

●BtoB貨物
BtoB貨物はBtoCと違って基本的に不在がないため配達効率が高く、物量の波動もBtoCと重複しない。さらに、集荷につながる可能性も高く、BtoCラストワンマイル事業の安定稼働を支える、重要な事業基盤と位置づけに据えるプレイヤーも多い。ラストワンマイル協同組合では、今後の重点営業戦略にBtoB貨物の獲得を掲げる。SBSホールディングスは元々、企業間の即配便を扱っていたこともあって、グループ入りしたSBSリコーロジスティクスのオフィス通販「たのめーる」配送と連携しながら、BtoBのラストワンマイルネットワークを拡大している。昨年8月から軽貨物事業に本格参入したセンコーも、まずは医薬品などのBtoB配送業務から開始し、今後は3PL荷主企業の物流拠点周辺エリアでBtoC宅配に着手する可能性を示している。

●コンプライアンス
ラストワンマイルを中心に軽貨物便事業者の役割が増す中で、改正貨物自動車運送事業法における「荷主対策の深度化」の一環として、「荷主勧告制度」の対象に貨物軽自動車運送事業者が追加された。その結果、事実上、軽貨物便ドライバーにも適正な労務管理が求められることとなった。これに先駆けて、18年3月の貨物自動車運送事業輸送安全規則の改正では、過労運転の防止策が「自動車運送事業主や事業者役員等が運転者を兼ねる場合」にも適用されることが定められている。個人事業主の軽貨物便ドライバーは「ドライバー」でありながら「事業主」の立場として労働時間の制約がされてこなかったが、現在はこうしたコンプライアンス対応が求められている。

●インボイス制度
今年10月に予定される消費増税と併せて導入される「インボイス(適格請求書等保存方式)制度」が、軽貨物便業界に与えるインパクトを懸念する声も出てきている。現在、年間の課税売上高が1000万円以下の個人事業主は消費税の免税措置を受けることができるため、該当する軽貨物便ドライバーは免税事業者であるケースが少なくない。こうした免税事業者はインボイス制度導入後、インボイス(適格請求書)が発行できなくなる。同制度下で消費税の仕入れ税額控除を受けるにはインボイスの保存が原則となり、免税事業者へ輸送を依頼する元請業者や荷主は仕入税額控除が適用できず、コストアップが見込まれることとなる。

軽貨物便ドライバーへ仕事を委託する輸送会社の経営者は「免税事業者を、消費税を納税する『適格事業者』へと移行するにしても、納税分の運賃アップを要求される可能性は高い」と指摘する。インボイス制度は23年10月以降の段階的な施行となるため、今は多くの企業が様子見状態にあるが、一部の軽貨物便事業会社では既に対策を始めており、100人ほどの個人事業主を正社員化した会社なども現れ始めている。
(2019年7月25日号)


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