10月から鉄道貨物基本運賃を10%引き上げ=JR貨物
JR貨物(本社・東京都渋谷区、田村修二社長)は14日、今年10月1日から鉄道貨物運賃(基本運賃)を一律10%引き上げると発表した。今後、3~400社にのぼる通運事業者(利用運送事業者)を通じて荷主企業と交渉し、収入の底上げを図る。鉄道貨物運賃は、コンテナ運賃の場合、国鉄時代の1982年4月以来改定しておらず、36年ぶりのこと。会見で田村社長は改定理由について「引き続き良質なサービスを継続するためには、労働力の安定確保、新技術導入、設備投資の促進が必要」と述べ、理解を求めた。
東京~福岡は12ftが6万から6万6000円に
同社の鉄道貨物運賃は、貨物賃率表によって発着駅間の距離に応じた賃率を決め、それに重量を乗じたものを「基本運賃」としている。今回、このベースとなる賃率を一律10%引き上げるもので、コンテナ運賃に関しては36年ぶり、車扱運賃については85年4月以来の改定となる。なお、鉄道貨物運賃は所管官庁への届出が必要ない「公示運賃」という扱い。
コンテナ運賃についての賃率現改比較は〈次ページ表〉の通り。12ftコンテナ1個(5t)を運ぶ場合、この賃率に重量(5t)を掛け合わせ、端数処理したものが「基本運賃」となる。例えば、東京貨物ターミナル駅~吹田貨物ターミナル駅間(600㎞)で12ftコンテナ1個を輸送する場合、現行の3万5000円が3万8500円に、また、東タ~福岡貨物ターミナル駅間(1200㎞)では6万円が6万6000円になる。
今後、荷主交渉を本格化個別収支改善とは別モノ
ただ、実勢運賃は荷主企業や通運事業者との相対契約で決まっており、契約条件などによって割引などが適用されているため、一律に10%が値上げされるわけではない。田村社長は「10月1日までの間に、荷主や利用運送事業者と様々な形でお話させていただく」と述べ、今後、個別交渉を進めていく考えを示した。また、犬飼新取締役兼執行役員(営業統括部長)は、「基本運賃の改定であり、当社を利用しているすべての顧客が対象になる」と前置きした上で、「例えば、専用列車で複数年契約をしている顧客など、すぐに交渉とはならない場合もある。基本的には3~400社の利用運送事業者を通じて荷主に説明していく形になる。当社が主導的に契約している場合は、当社から説明に出向くケースもある」と説明した。
一方、ここ数年、通運事業者に対してオフレールステーションの収支改善など実質的な値上げ要請を行っていることについて、「収支などを分析した上で、理由があってお願いしている」(田村社長)、「個々の収支改善は引き続きやらせていただきたい」(犬飼取締役)と述べ、今回の運賃改定は切り離して対応していく考えを示した。
値上げ分を原資に次世代に備える投資を
田村社長は、この時期に運賃改定に踏み切る理由について、「引き続き良質な物流サービスを継続的に提供するためには、質の高い労働力の安定的確保、AI、IoTなど社会の急激な変化に対応した新技術の導入、設備投資の促進など次世代に備えるための原資が必要だ」と述べた。さらに、「経営自立のための700億円の無利子貸付が今年度で終了し、財務面ではまた有利子が増えていくようになる。また、新システムへの投資効果が出るのは数年先であり、しばらくは耐えなければならない」と語った。
通運は「ORSの収支改善は棚上げすべき」、紛糾も
今回の鉄道基本運賃の改定方針を受け、通運業界では「運賃を改定するのなら、ORSの収支改善などの協議事項は一度、棚上げにするべき」との声が出ている。基本運賃の改定は収支全体に影響を及ぼすものであるため、ORSや個別駅での収支改善はその結果を待って判断すべきとの論拠だ。また、通運事業者からは「青函付加金以降、何度も荷主にお願いすることはできない」といった声も上がっている。
通運業界でも、労働力不足や労働時間管理の厳格化などを受け、集配ドライバーの不足やオペレーションコストの上昇に苦しんでいる。生産性の低い荷主などに対しては適正運賃収受を求めていくとしているが、「その成果がJR貨物だけの収入アップになるのは避けたい。成果がシェアできなければ荷主と交渉する意味はない」との声もあり、紛糾が予想される。
(2018年3月20日号)