花王/豊橋工場、完全自動化が可能な新倉庫を開設
花王(本社・東京都中央区、長谷部佳宏社長)は、スキンケア・ヘアケア製品を中心に多品種を生産する豊橋工場(愛知県豊橋市)で、生産体制と連動した柔軟で効率的な新たな物流モデルを構築した。同工場内で完全自動化が可能な「次世代新倉庫」を開設。卸売販売物流を担う豊橋ロジスティクスセンター(LC)との一体運営により、生産、メーカー物流、卸売販売物流機能を連携させ、輸送や在庫、廃棄のムダを抑制する。工場内の物流機能を増強することによって、工場出荷から生活者に製品を届けるまでの最適かつ持続可能なサプライチェーンを実現する。
工場から生活者まで最適なネットワーク構築
多品種少量生産を行っている豊橋工場では、生産ラインにロボットやAIなどを積極的に活用し、需要の変動に合わせたフレキシブルで高効率な生産体制を構築している。工場の物流自動化および配送機能を担うLCとの一体運営により、柔軟に製品を供給できる「豊橋コネクテッド・フレキシブル・ファクトリー」構想を掲げ、工場内に完全に自動化された倉庫を新設(写真)。3月31日から運用を開始した。
花王はグループに販社を持ち、卸売業者を通さずに直接小売業に販売する、流通の「直販」のモデルを構築しており、「メーカー販売」と「卸売販売」の両方の機能をグループで有する。工場内の新倉庫建設により、工場で生産した製品を生活者に届けるまでに必要な能力を工場内に確保する。同工場内で「卸売販売」の配送機能を担うLCと新倉庫を一体的に運営することで、工場から生活者までの最適なネットワークを構築する。
これまで豊橋工場で生産された製品の一部は外部倉庫で保管していた。工場内の新倉庫で製品を保管することによって工場~外部倉庫間のトラック輸送をなくし、CO2排出量を削減。また、将来的に労働力の確保が困難になることを想定し、サプライチェーン上の人でなければできない作業に人的リソースを投入できるよう倉庫は自動化・無人化を前提に設計した。
新倉庫では、デジタルデータを活用してサプライヤー、小売店、生活者までをネットワークでつなぎ、ムダのないサプライチェーンの構築基盤としての役割を担う。花王は多様化するニーズに対応した特徴ある商品を必要な量だけ生活者に届け、循環型社会に貢献するESG視点での「よきモノづくり」を推進しており、新倉庫の稼働により、「極力、運ばず、在庫を持たず、廃棄をしない」サプライチェーンの構築を加速させる。
入庫から仕分け、出庫までを完全自動化
新倉庫では製品の入庫から、届け先ごとに仕分けして出庫するまでを完全自動化した。まず、入庫ではトラックアンローダー(不二技研工業製)を導入。トラックの荷台から製品を積んだ状態のパレットをコンベア上に押し流すことで、入庫が完了する。入庫時にフォークリフトを使わないため、「バースに到着したがフォークマンがいない」といった理由によるドライバーの待ち時間が発生しない。
入庫した製品は、パレットに搭載したRFIDから製品情報を読み取り、有軌道台車に載せられて自動倉庫(ダイフク製)に格納される。一般的な倉庫では、保管庫への格納はフォークリフトで行うが、この工程についても自動化を実現。自動倉庫はクレーン9基を備え、保管能力は120万ケース。自動倉庫を採用することで、保管能力が大幅にアップした。
自動化に最も工夫したのが、ピッキング・仕分け工程だ。デパレタイズ・パレタイズロボット(ロボットは安川電機製、コントローラはMujin製)とAGV(MEGVII製)を導入し、パレットからの荷降ろしとパレットへの積み付け作業を自動化。豊橋工場は他工場と比べSKU数が多く、出荷全体の4分の1がパレット未満と出荷単位が小さい。従来は、パレットへの製品の積み付け、降ろしは人手で行っていたが、自動化により、重労働から解放し、夜間に無人で作業も行えるようになった。
現在は、ロボットは3基、AGVは25台が稼働。多品種製品のパレットからの荷降ろしとパレットへの積み付けが同時にできる自由度の高い自動化を実現し、作業を効率化したほか、需要の変動にも柔軟に対応できるようになった。入庫時に読み取ったRFID情報と出荷情報を連携し、生産工程を含めたトレーサビリティの強化を図っている。
トラックに積み込む前に、複数の出荷パレットを重ね、荷崩れを防止するためにストレッチフィルムを巻く作業も自動化している。通常の倉庫では、トラックに積み込む前日に届け先ごとに荷ぞろえしてバースに並べておく。新倉庫では、仕分け後のパレットはいったん自動倉庫に格納。翌日、トラックが到着したら、自動で出庫できるようにし、スペースの有効活用を図った。
現時点で自動化できていないのが、トラックへの積み込み。これについては、経済産業省の「AI・IoT等を活用した更なる輸送効率化推進事業」による自動運転フォークリフト実証事業と連携し、トラックへの積み込み作業の自動化を進め、来年以降、本格導入を検討中だ。
システム連携で場内のトラック運行をスマート化
花王では「ホワイト物流」推進運動において自主行動宣言を行っており、新倉庫の立ち上げにあたっては、トラック輸送の生産性向上、ドライバーの労働環境改善に向けた施策に注力。入退場時の車両ナンバー認証システム、トラック予約受付システム、自動倉庫の庫内設備の制御系システム(WCS)と3つのシステムをリアルタイムに連携させ、場内のトラック運行のスマート化を図った。
具体的には、トラックが入場した際にカメラでナンバーを読み取り、トラック予約受付システムに連携。入場時にはデジタルサイネージに、入場したドライバーへ向けた行先案内を表示する。トラック予約受付システムが管理している当該トラックの作業時間データと到着情報を自動倉庫に送信すると、荷物を引き当てて自動で出庫される。出庫のタイミングに合わせてトラック予約受付システムの「呼び出し機能」によりドライバーにショートメッセージが自動で送られ、バースへと誘導。退場する際もナンバーを読み取る。
トラック予約受付システムは、国内主要工場・倉庫へ導入展開を行っているHacobuの「MOVO Berth(ムーボ・バース)」を採用した。予約状況や車両の到着時間に合わせた出庫が可能になるため、来場の集中による混雑をなくし、ドライバーの待機時間を減らせる。ドライバーがトラックを下りて受付する必要もない。倉庫側でも受付人員や車両の呼び出しなどにかかる人的コストを減らせる。車両の入退場の状況がデジタルデータでリアルタイムに可視化されるため、構内の状況把握にも役立てられる。
新たな物流のモデルの発信、普及を目指す
豊橋工場の新倉庫立ち上げおよび新たな物流のモデル構築は若手社員が主導した。SCM部門デジタルイノベーションプロジェクトの田坂晃一氏は自動化の取り組みについて、「異なるサイズのケースを混載し、ロボットで安定的に積み付ける部分に技術的なハードルがあった。(ロボットコントローラを提供する)Mujinと協力し、積み付けパターンの計算や安定性の高い積み付けアルゴリズムに取り組み、積み付け精度の向上を達成している」と話す。AGVで安定供給し、ロボットの能力を最大限に発揮するような全体設計ができた。
物流業界では、ドライバーの労働時間規制が厳しくなる「2024年問題」を来年4月に控えているが、倉庫の自動化も解決に資するという。「自動化された倉庫は安定的に入出庫を行うことができ、『倉庫で人手が足りない』という理由でドライバーを待たせることがなくなる。24時間稼働できるため、夜間に準備しておいた荷物を朝一番でトラックに引き渡すこともでき、リードタイムの短縮にも寄与できる。
花王は今回のような工場内の物流機能強化の一連の活動を通して、新たな物流のモデルを発信、普及を目指す。今後の展開では、他メーカーや物流事業者、卸売業者、販売店などと広く連携してサプライチェーン情報を共有し、新倉庫の機能の共有も視野に「共創型物流プラットフォーム」構築にも取り組む。
(2023年6月29日号)