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ヤマトグループ、「Oneヤマト」で何が変わったか――

2021.11.02

今年4月、事業会社7社をヤマト運輸へ統合し、「Oneヤマト」体制へと移行したヤマトホールディングス(本社・東京都中央区、長尾裕社長)。傘下の多彩な機能を1社へ集約することで、顧客企業の課題に対し、包括的かつ柔軟な提案を行えるようにすることがその狙いにある。約6万人のセールスドライバー(SD)が得る一日数万件規模の情報と、全国約3700ヵ所の宅急便センターや約110ヵ所の営業倉庫に代表される物流のリソースを最大限活用し、法人物流領域においても「Oneヤマト」の強みを顕在化させていく。

SDが得る数万件規模の“お客様の声”に応える

新体制のヤマト運輸では、顧客の窓口となる「4事業本部」を、インフラの整備・高度化を担う「4機能本部」が支える。法人顧客には4事業本部がそれぞれに向き合い、「リテール事業本部」が個人および法人向けに宅急便を中心とするサービスを提供し、「EC事業本部」が大手EC事業者、「グローバルSCM事業本部」が外資系企業を含むグローバル展開企業、「法人事業本部」が国内各地域の産業を物流から支援する。

旧ヤマト運輸との大きな違いのひとつが、「SD中心だった」ともいえる従来の営業体制から、徹底したアカウントマネジメントへの進化だ。顧客に相対するヤマト側の担当者を明確にし、その顧客に関する情報は全て担当者へ集約する。担当する企業は基本的に長期間固定とし、蓄積されていく豊富な知識と深い理解をもって、顧客企業の顕在化・潜在化した課題に対し、ヤマトグループの機能を包括的に提供する――こうした営業体制が整いつつある。

同時に、全国約6万人のSDが受ける“お客様の声”に応える仕組みも整えた。SDは日々、集配業務で顧客と接しており、そうした場面で寄せられる「雑談レベルの相談事」に至る情報まで漏らさず拾い上げる、「法人ソリューションコントロールセンター」を開設。同センターへ、SDはハンディ端末から文章や音声で手軽に情報を送信できる。送信された情報には最短翌々日には返信が届き、SDはその情報をもとに顧客への提案などが行える。現在は主管支店を経由してSDへ伝わる仕様だが、11月中には直接SDの端末にも返信が届くよう改良し、よりスピーディな顧客対応を実現する。

法人ソリューションコントロールセンターへ寄せられる情報は一日数万件規模に上り、その全てが営業に活用できるわけではないものの、「可能性を秘めた非常に貴重な情報」と小菅泰治専務は話す。実際に、最初はSDによる宅急便の集配で取引が始まったスタートアップ企業が、今や大手EC事業者に成長したケースもあり、「事業成長に合わせてヤマトがパートナーとして必要な物流機能を提供することで拡大を支えてくれた」との評価も得ているという。こうした成功事例をさらに積み上げるためにも、個人や中小規模の事業者をはじめとした顧客基盤のさらなる拡大と強化、そして顧客との関係性の深化を図る。

企業向けの「ミドルマイルネットワーク」を再構築

顧客が抱える課題に対しては、グループが持つリソースやアセットをカスタマイズして、最適なソリューションを提供する。ヤマトのインフラを活用することが圧倒的な強みにはなるが、顧客の課題解決に必要な機能がグループ内になければ、他社との協業でリソースを調達することも想定。逆に、ヤマトのインフラを一切活用できない場合などは「お客様にとって最適なインフラを持つ他の物流会社に任せることが最善であり、当社が無理に受託する必要はない」と小菅氏は話す。

その一方で、自前のネットワークインフラの充実も進める。ヤマトグループにはSDが集配を担当する「宅急便ネットワーク」と、EC事業者向け配送商品「EAZY」のラストマイルネットワーク、そしてBtoBの配送業務を中心とする「ミドルマイルネットワーク」の3ネットワークが存在し、なかでも「ミドルマイルネットワーク」は統合会社の1社であったヤマトグローバルエキスプレスの国内航空貨物集配ネットワークをベースにした企業向けルート配送を基本機能とするもの。トラック約1000台を保有して全国で運行するが、今後さらなる最適化に向け、独自の運行管理システム(TMS)を開発し、域内の多頻度集配に対応したネットワークへ再構築していく。

顧客のサプライチェーン最適化に取り組む

Oneヤマト体制で顧客のサプライチェーン全体の最適化に取り組む中、すでにいくつかの象徴的な案件も進んでいる。ヤマトの倉庫や宅急便センター、そしてミドルマイルネットワークを活用し、在庫のスムーズな移動と店舗供給の多頻度小ロット対応およびリアルタイム納品を実現するもので、BtoBとBtoC(EC)の両事業を展開する企業から物流を受託。「お客様が全国に店舗を構えていたとしても、その近くには必ずヤマトの拠点がある。これは当社の特徴であり、よりお客様に貢献できる強み」と小菅氏は説明する。

同社ではこうしたソリューションモデルの提案を拡大したい考えで、とくに“従来は倉庫から大量の荷物を動かしていたが、市場ニーズの変化を背景に、より少量多頻度・リアルタイムの納品が求められている企業”は、“ヤマトが持つ物流機能の強みを大きく発揮できる領域”と見る。また、国内で構築したロジスティクスモデルを海外でも展開できるよう、まずはサプライチェーンの形態が日本と似るアジアをその対象エリアとして視野に入れ、ヤマトの各国現地法人と連携していく。

併せて、強く意識していくのが「社会インフラである『宅急便』を持つ会社としての社会的役割」(小菅氏)。このコロナ禍ではワクチンの輸送にヤマトのネットワークが活用され、「全国一律にワクチンを供給するロジスティクスを構築し、平準化されたワクチン供給のお手伝いができた」という。今後も継続が見込まれる新型コロナワクチンの供給に加え、地域産品の輸出促進に代表される地方産業の活性化など、宅急便の全国ネットワークを持つヤマトとして公共性の高い仕事に携わり、着実に進めていく。

どの会社とも似ていない、固有のビジネススタイルを――

ヤマトグループは2000年代に、ヤマトロジスティクスをはじめとした各事業会社を相次いで設立。ヤマト運輸の巨大なリソースを活かした多種多様なビジネスモデルを各事業会社が開発し、専門性を高め、成長させていく戦略を打ち出したが、各事業会社の役割を明確化したことで、サービス提供に関するグループ内連携には課題も生じていた。

「ロジスティクスは本来、お客様のサプライチェーン全体を支援することであり、総合物流会社もそれに応えるべく輸配送も倉庫も同じ社内に持っている。しかし、ヤマトはそれらを機能別に分割したことが、サイロ化を招く要因のひとつとなってしまった」と小菅氏。そうした体制を変え、「お客様と改めて正面から向き合うために」(同)、今回の会社統合への検討を開始した。「Oneヤマトの土台はそもそもあった」と同氏は振り返る。

その上で小菅氏は「お客様を最優先に考えるのであれば、宅急便の個数ではなく、その個数がどのような環境から生まれたかを意識するべきであり、今それができるようになってきている」と手応えを得る。数多の物流会社が競い合う法人領域ではあるが「お客様目線に立って、業界内の協業領域と競争領域を明確にしながら事業を進めていく。数年後には、宅配会社とも3PLともフォワーダーとも違う、固有のビジネススタイルが出来上がっているはず」と展望する。
(2021年11月2日号)


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