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コロナ長期化で下落続くトラック運賃

2021.07.15

トラック運賃の下落傾向が続いている。コロナ禍の前まではタイトだった需給がコロナによる輸送需要減で状況が一変。とくに、ここにきてスポット運賃を中心に下落に歯止めがかからず、運賃市況は悪化の一途をたどっている。本来ならば、「標準的な運賃」をもとに荷主との値上げ交渉に臨むはずだったが、コロナ禍という逆風を受け、トラック事業者は想定と真逆の状況に頭を抱えている。

スポット運賃相場は「物流危機」以前に水準に

全日本トラック協会と日本貨物運送協同組合が発表している、求荷求車システム「WebKIT」の6月の成約運賃指数は「108」となり、2013年7月以来、8年ぶりに110を下回った。例年、6月は輸送需要がそれほど多くないため、スポット運賃指数も低くなる傾向があるが、同じ6月で比較しても、110を下回ったのは13年以来となり、スポット運賃の水準はドライバー不足による危機が顕在化する前のレベルに戻っている。

コロナ禍が顕在化して以降、成約運賃指数は毎月、前年実績を下回り続けており、コロナ影響の長期化に伴い浮上する気配はいまだ見えない。輸送量が低迷する中、多くの荷主は契約トラックの荷物をまわすのが精一杯という状況が続いているため、スポット需要が大きく減少していることがうかがえる。

緩む需給、値下げ要請が圧倒的に多い

「値下げを要請されることのほうが圧倒的に多い状況だ」と、荷主との運賃交渉の現状を語るのは中堅トラック経営者。本来であれば、昨年4月に告示された「標準的な運賃」をテコにして荷主との交渉を有利に進めることが多くのトラック事業者のシナリオだったが、コロナによって崩れた。標準的な運賃の届出が思うように進まない背景には、そうした理由もある。「今はどのエリアでも相場の下をくぐって安値受注する事業者が横行している。標準的な運賃をもとに交渉しようとしても、荷主からは逆に『他に頼む先はいくらでもいる』と言われてしまう」。

他のトラック業界関係者も「東京~大阪間の貸切運賃相場が10t車で8~9万円――などという報道がされると、その2倍もの水準にある標準的な運賃の普及には逆風になる」と指摘する。極端な例では「スポットで東京~大阪間で3万8000円」という見積りが出たケースもあり、トラック需給が相当緩んでいることがうかがえる。

運賃市況と求人倍率に強い相関性

需要減はドライバーの採用環境にも大きな影響を及ぼしている。厚生労働省が毎月公表しているドライバー職の有効求人倍率も低調に推移。コロナ前は一時3倍を超えるときもあったが、昨年4月以降は2倍前後が続いている。

WebKITの成約運賃指数とドライバー有効求人倍率を〈表〉に示したが、ほぼ同様の曲線をたどっており、運賃相場と求人倍率の強い相関性があることが改めて分かる。一部のトラック事業者の中には「産業全体が採用を抑えているときは、逆にチャンス」と人材確保に動くところもあるが、トラック業界全体のドライバー採用意欲は大きく減退しているといえそうだ。

ただ、「一時的に需給は緩んでいるものの、構造的なドライバー不足の状況が改善されたわけではない」との指摘は多い。コロナ禍が収束して輸送需要が回復してくれば、需給は再びタイトになるとの見立てだ。さらには、24年4月からはドライバーの罰則規定付き時間外労働上限規制が適用開始され、ドライバー不足がさらに加速することが避けられない。
トラック事業者は今後、短期対応と中長期での対応との両面をにらみながら難しい舵取りを余儀なくされそうだ。
(2021年7月15日号)


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